北部物資について1
「何故そんな事をやったんだ!?」
広い会議室の筈なのに、その方の、その怒号は部屋をも揺らす程の威力があった。
空気が揺れる、とはよく聞くがまさにそれ、だった。
真っ黒な肌なのに、何故だか顔が真っ赤になっているのも分かったし、肌が黒いせいで白目がよく分かり、血走っているのありありとわかり、より怒りを感じた。
かなり身長がある上に、ガッチリとした筋肉質な身体。そして、鋭い眼光を持つ顔表の50代。
私でも知っている、北部を治めているガルマン侯爵様だ。
恐らく、今回の物資の件で王宮入りされたのだろうが、明らかに機嫌が悪い。
なるべく目を合わさないように小さくなり、下を向いた。
「お前、俺達をバカにしているのか!?」
まるで矢の如く、機敏で鋭い動きで立ち上がり、その方を指さした。
その勢いでガタン、と椅子がひっくり返った。
「何を仰いますか、ガルマン侯爵殿。私達は、いつでも本気で考えて動いておりますよ。貴方こそ、その頭ごなしの言い方をやめて貰えますか?見て下さい。皆様があなたのそのバカでかい声に怯えているではありませんか?なあ、アトラス」
ふんぞり返る、という言葉はきっとこの人にあるのだ思うくらい公爵子息は腕を組み、立ち上がったガルマン侯爵様を馬鹿にする声で見上げていた。
それも、ガルマン侯爵様の怒りをもろともせずに、さらりと一蹴し、不敵に微笑んでいる。
アトラス王子は、公爵子息の横に座っているので遠すぎて顔は見えなかったが、息を飲むのが聞こえたから、きっと顔を引き攣らせているのだろう。
だって、全く言葉を発してこない。
「ふざけんな!!こちらの意見を何一つ聞くことなく、チャールを解任し、その後任にキルギス子爵とかいう素性の知らぬ貴族をぶち込んで来るとはどういう事だ!!」
お前何やったんだ!?
隣に座るお父様とお互い俯きいていたが、己の名前が出てきたから私を睨んできた。
やってません!!
じゃあどういう事だ!!
目と目で会話する、というあまーい状態をよく本で読んでときめいていたが、こういう場合の目と目で会話するのは全く楽しくない。
というか、避難の目で突き刺すお父様に、消えてしまいたい、と切に願った。
というか、全部公爵子息のせいだよぉ。
はぁ、何を巻き込ませてるんだよ、あの人。
何故こうなったかと言うと、昨日お父様とイアンが急遽領地から帰ってきた。
王宮より使者が、アトラス王子の封蝋を押した文をお父様達が滞在している領主の屋敷まで、持ってきたそうだ。
その手紙に、急を要する案件が発生した為、お父様と何故か私が王宮に来るように、と書いてあり、その日付が文を貰った次の日だった為、急いで帰ってきたとの事だった。
当然、
何をしたんだ!?
と詰め寄られたが、全く思い当たる節がない。
だって、
公爵子息とお茶をしたが、ある意味私が粗相をしてしまったのは認めるが、元々騙してきたのは向こうだ。
ともかく、出かける約束をしたくらいで特に何もなかったと思う。
次に、一緒に出かけたが、
私の視察に一緒について来ただけで、特に何も無い。だって、野菜を入れるコンテナの注文を受けただけだ。
つまり、アトラス王子とは全く縁もなく、か関わっていない。
つまり、公爵子息が動いているのだ。
だが、とりあえず包み隠さずお父様達に説明したら、確かに別段変わった事はしていないな、という結論に至ってくれた。
もしかしたら、友人であるアトラス王子が公爵子息に近づくな、と釘を刺してくるのではないか、という話に落ち着いた。
公爵子息の気まぐれとはいえ、低級貴族である私が相手をするのは常軌ではありえない。例え私の意思に関係ないとはいえ立場的に距離を置くべきだ、考えろ、と言う事だろう。
色々考えたが、その案が最も現実的だった。
という事で、次の日私達は王宮へとやってきたが、明らかに様子がおかしかった。
アトラス王子と公爵子息の秘書官であるイグニス様が迎えに来てくれたのはわかる。だが、他にも王宮の従者の方々が何人も迎え入れてくれて、まるで来賓者を扱う重々しい空気だった。
案内された部屋に向かうにつれ、護衛が増え、服装が様々になってきた。
お父様が強ばった顔で、
ガルマン侯爵家の騎士団とヴェルディ公爵家の騎士団が何故いるんだ?
と、小さく呟いた。
その呟きで、とても不安に駆られた。
だから、マントの紋章が国の紋章では無いんだ。
公爵子息と出かけた時、北部の物資の話をしたばかりで、その北部を治めているガルマン侯爵の騎士団がいるという事は、主が来ているという事。
そして、悪の根源の公爵子息もいる。
そうして、不安は的中した。
案内された豪華で広い会議室に般若の如く座るガルマン侯爵様と、その前に座るアトラス王子と、悪の根源公爵子息が、にこやかに私達を向かい入れた。
入った瞬間部屋の空気が冷たく、控えている騎士様、従者、そして、イグニス様の顔を見る限り会議の緊張感ではなく、触れてはいけないものを見るような緊迫感が広がっていた。
それも、席に座っているのはアトラス王子、ガルマン侯爵様、公爵子息のみ。
まじですか!?
残る席は2つのみ。つまり、お父様と私、だけだ。
そして私達が座ると、自己紹介も会議の内容もすっ飛ばして、ガルマン侯爵様の一喝が始まったのだ。




