私の仕事4
「こっちです」
野菜を保管している地下に向かう階段を降りていくと、ガタガタと下から音がした。
ふわりと鼻につく独特の臭いがつき、急いで階段を降りると、案の定ライドが汗だくでコンテナを必死に動かしていた。
「ライド!私の言う事聞いてなかったでしょ!!じゃがいもと、玉ねぎ腐ってるよ!!今更動かしても遅い!!」
「お、お嬢様!?なんでわかったんすか!?わっ!!」
ゴトンと持っていたコンテナを落とし、中に入ってじゃがいもが床に散らばった。
「はあ。やっぱり腐ってる。こんなにコンテナに入っていたらが風通しが悪くなって腐るって教えたでしょ。それにね、階段降りる時からじゃがいもと玉ねぎの腐った臭いがしたよ。わかんないの?」
「・・・すみません、わかんなかったす」
ライドが私の剣幕に落ちたじゃがいもを、しゅんとなりなりながら1つ1つ拾いながら確認しコンテナに戻していた。
勿論腐っているのは違うコンテナに入れているが、1割は腐っている。
勿体ない!
「スティール、階段から臭いがしたか?確かにここでは腐った臭いがするが、ここに来ないと分からなかった」
公爵子息がコンテナの品物を興味深気に見ながら、聞いた。
「しましたよ。野菜も果物も、どれも腐るとそれぞれ独特の匂いがします」
「お嬢様は特別に、鼻が利くんだよ」
ブツブツと口を尖らせ言うライドに、もう少し頻繁に来ないと行けないな、と思った。
ライドの料理の腕は、まあまあだ。
でも、素人から始めてここ数年で、まあまあまと言わせる程にまでに上がる、舌と盛り付けのセンスを持っている。
ただ性格が短気で、細かい事が嫌いですぐに放り出しちゃうのが、欠点だ。
料理には、舌と盛り付けのセンスがあればいいかもしれないが、私は認めない。
1つ1つ確認しながら、コンテナに入れていくライドに、
それそれ、それを癖付けしたらいいんだよ、
と心で思い、あえて口に出さなかった。
「臭い、通気性、それにこのコンテナ。スティールの言葉」
公爵子息はなんだがブツブツ言いながら、真剣な顔で考え出したが、私の名前が出てきた事に不安になり、顔を見ると目が合った。
「スティール、このコンテナは幾らだ?」
「250エニー二です」
「そんなに安いのか!?」
とても驚く公爵子息に、逆に私の方が疑問だった。
この人達いくらのコンテナを使ってるんだ?
「もし1000個用意して貰おうと思ったら、何ヶ月かかる?」
何ヶ月?
「そんなにかかりませんよ。今、午前中だから、すぐに頼みに行けば遅くても明日には用意出来ますよ」
「明日!?」
公爵子息の大声が地下に響き、耳にキーンときた。ライドも同じように思ったのだろう、顔を歪めた。
な、何でそんなに驚くの?
「1000だぞ!」
「あのですね、コンテナを作っている業者は容器専門の業者で、ある程度はストックを持っています。特にこのコンテナは農家では必需品なので、すぐに納品できるように準備しているし、ここの格子は問屋格子と言って簡単な造りになっています。だから、すぐに準備出来ます。もし必要なら、お父様の名前を出したら融通効かせてくれますよ。何人か領地出身の人を斡旋してますから」
「それは助かるが、何故斡旋してるんだ?」
「コンテナの材料は木です。山林で伐採をし、その伐採した木を業者に売る。その山林を所有している領主の関係者です」
「関係者?何故そこまでこだわるのだ?」
「こだわりますよ。勝手に伐採されたら困りますからね」
「伐採だろ?」
「えーと、ごめんなさい。伐採、と簡単に言いましたが、細かく分けると、「主伐」「間伐」「除伐」「択伐」と4つにわけられるんです。ようは、ただ木を切るだけではなく、樹齢だったり、間隔だったり、邪魔になりそうだったり、とか色々な意味と用途で木を切るので、きちんと理解し指示できる人が必要なんです」
「だが、木を切るだけだろ?そこまでこだわる必要があるのか?」
「あります。山林はとても大切なんです。適当に伐採したら、雨が降った時、雨水が麓まで流れてこない、もしくは物凄く流れてきて洪水のようになることもあります。他にも色々弊害が出て、生活に直結することが多くあります」
「だから、そいつらなのか」
「そうです」
「君は、本当に、いや、やっぱり運命だ!」
運命?なんの?
何故そんなに興奮しながら私を熱く見つめてくるんだ?
「いや、気にすんな。俺はスティールの仕事を邪魔してるな。いや、俺は充分満足した」
「はあ。それなら良かったです」
よく分からないけど、なんだが満足しているようですが、逆にとても不安な気持ちになるのは何故だろう?
「さあさあ、仕事しろよ」
促してくる公爵子息がとても胡散臭く見えた。
カツカツ、地下室を見て周りながら、コンテナの中身を確認していく。
ガサガサと優しく混ぜながら、触る。
まだ、夏の日差しが強いせいで熱がかなりこもっている。
換気口もあるし、地下の扉を開けているがそれでも熱は逃げない。床を触るとかなり熱かった。
これでは夜になっても熱は下がらないな。
コンテナにはじゃかいも、玉ねぎ、かぼちゃ、などがある。比較的日持ちする野菜を、この地下倉庫で保管していた。葉物など日持ちしない野菜は、必要な分だけ仕入れ、調理場で保管している。
「ライド、コンテナに入っている野菜の量が多い。言ったよね、夏の時期は全て半分にして、て。そうじゃないと風通しが悪くなって、腐りやすい、と教えたはずだよね。腐った野菜と一緒にいれたら、連鎖反応で腐りやすくなるし、虫がわいちゃう、と。ほら、虫が飛んでる」
「はい・・・すみません」
「全部ひっくり返して腐ってないか確認して。じゃがいもは芽が出だしているしてるから、それは先に使うように上に持って上がって。それと、緑色に変わったのは捨ててよ。かぼちゃの色も変わってる。詰めすぎだからよ。これじゃあ傷むわ。サツマイモも、水分が抜けてるじゃない!何でもっと早く使わないの!!」
「はい・・・すみません」
「あと、コンテナの下に空のコンテナ置いて。床の熱が冷めないから、野菜に負担がかかる」
「はい・・・」
「あと、今回はお父さんに言うからね」
「え!?」
床でじゃがいもを拾っていたが、ハッとして顔を上げ、泣きそうな顔をした。
「流石にこれは腐らしすぎ!ここまで量があるという事を理解しているのに放置しすぎでしょ。それも、私の言った事をちゃんとやってないから、お父さんが作った野菜を腐らせたんでしょ?」
「そ、それは・・・」
返す言葉もなく床で一生懸命にじゃがいもを拾っていたが、凍ってしまった。
「そのじゃがいも、緑色になってる。体に害があるから外して」
私の指摘に、また、動きがとまった。
「野菜の量を半分にしてコンテナで保管して、入ってきた順番に使っていって。その時になるべく傷をつけないように野菜を動かしてあげて。ともかく、夏場の保管は風通しを良くしてあげて、自分がやって欲しい事を、野菜にもしてあげて。わかった!?」
「うう・・・すみません」
床で土下座するかのように凹むライドに、可哀想かな、と思ったが、ぐっと我慢した。
ここでまた甘やかしたら同じことをする。ライドのお父さんが領地でライドの為に必死に野菜を作り、送ってきている。
ライドの親族だから、と言って特別扱いも出来ないけど、多少は野菜を納品出来るように手配した。
だからこそ、その少ない農作物を無駄なく使って欲しい。
分かっているはずのなのに、分かってないんだなあ。
「じゃああとは頼んだよ。また近いうちに来るからね」
「・・・はい」
「返事が弱い!」
「はい、お嬢様!」
「よろしい。じゃあ私は次に行くからちゃんとやっといてね」
「はい!!」
床に座りながら、いい顔で返事をしてくれた。
それがずぅっと続けばいいんだけどね。
その後、幾つか八百屋を回った。




