私の仕事3
「凄いじゃない!昨年に比べて、春からこの夏にかけて野菜の仕入れが倍になってるし、売上も1.2倍になってる!」
「そうでしょう!全部お嬢様のお陰ですよ」
ウスは少しふくよかな、気さくのいいおばちゃんと言った感じだ。まるまるとツヤのある頬をさらにハリが出るように笑い、元気に答えてくれた。
私が帳簿を見ている間に掃除が終わり降りて来て、マブルと一緒にお昼の仕込みの準備をしていた。
「何をしたんだ?」
公爵子息が、木で出来たコップに入った水を飲みながら聞いてきた。
以外に様にならないな、と思った。
やはりワイングラスの方が似合う。
気品がだだ漏れで、場違いさが強調されていた。残念な気分だ。
「サラダ食べ放題です」
「それだと儲かるのか?」
「実際売上が上がったから儲かった、という事でしょうね」
公爵子息は私の答えにとても不思議そうに首を傾げた。
「今の言い方だと、儲かって嬉しい感じじゃないな」
「分かります?私がやりたかったのは、旬の野菜を沢山使って食べてもらう事に意味があるんです」
「旬の野菜を沢山?」
「そうです。旬の野菜はどうしてもどこの農家も作るので、作り過ぎて売れ残ったり、場合によっては卸業者が買ってくれないこともあります」
「そういう時はどうするんだ?」
「そのままです。畑に枯れるまでそのまま残され放置されるか、もしくは全部根こそぎ抜いて、他の野菜を植えます」
「採らないのか?」
「採りません。売れもしない作物に時間をかけても無駄だし、採ったところで捨てる処理に困ります」
「誰かにあげないのか?」
「あげれません」
「あげれない?何故?」
「さっきも言いましたが、旬の野菜はほぼ農家では同じものを作っています。たとえ卸に出さなくても、自分の家で食べるくらいは作ります。だから、あげれない、そして同じ物を皆が作れば値段も下がるんです」
とても真面目に質問してくる公爵子息に、この方は本当に何も知らない、上級貴族なのだと思った。
別に知らない事に対して卑下することもなく、自分が優位に立とうなんて思っていない。だって、逆に公爵子息がしている仕事は、私は分からない。同じように色々質問すると思う。
逆な素直に質問してくれる事は気持ちは嬉しかった。
「では、違う野菜を作ればいいんじゃないか?誰もが作らない農作物を作れば、高値で売れるだろ?」
「そうですね。でも、それはとても難しいです。何故、旬の野菜、と言うと思いますか?」
「その季節に出来るからだろ?」
「そうです。その季節に育てやすく、また、失敗しにくい野菜だからです。季節にも、土にも合わない農作物を誰が作ります?勿論、色々工夫して変わった農作物を作っている農家もありますが、それは、色々研究し失敗した中で手に入れた知識です。ですがとてもリスクがあります。上手く行けばいいですが、私は上手くいかず借金だけを増やしいつの間にかいなくなった農家をいくつも知っています。・・・ああ、すみません。暗い話になりましたね」
「いや、大丈夫だ。続けて」
「勿論、どこの領地でも研究者いて、新しい種を開発したり、育ちにくい野菜を育て易く出来るように調べています。えーと、ともかく、旬の野菜は誰もが作るので、量も多い。量が多ければ値段が安くなる。値段が安くなれば、農家の収入は減る。でも仕入れの量は決まっている」
「つまり、農家にとっては安いうえに、差程量を買って貰えない、ということか」
「その通りです。だから考えたんです。仕入れの金額を変えず、その金額で買える野菜を買う。いつもりよりも沢山買えて、農家も沢山売れる」
「それで、サラダ食べ放題なのか」
納得、と公爵子息がめを見開き頷いた。
「そうなんですよ、お兄さん。始めはそんな無駄な事を、と思っていたんです。こっちとしては、安い金額で野菜を買えた方が出費が減って売上になるし、下手に野菜が増えて残ったら勿体ない」
ウスが信じられなかった、と大袈裟に肩を竦めながら話しに入ってきた。
そう、すごく反対してきて、何度も話し合った。
ウスの気持ちも凄く分かる。確実な売上と、管理のしやすいいつもの、野菜の量。
少しでも売上を上げようと新しい事を試した時、それは天秤にかけられたかのように左右に揺れ、どちらかに傾く。
上がればいいが、下がればどうなる?
それが一時ならいいが、人の口コミでどんどん悪くなり、どんどん下がることもある。
それなら、余計なことに手を出さず、現状維持を選ぶのが得策だ。
でも!
私は農作物を作るのにどれだけ手間暇かけ、どれだけお金をかけているのか知っている。それなのに、たいして売上にならない。
だから、少しでもその汗水垂らして育てた農作物を人の口に入れたい。
お金にしたい。
必至に説明し、話をし、渋々折れてくれた。
天秤が、上に上がり、本当に良かった。
「それに、食べ放題、と来ればもしかしたらそれだけで腹一杯にしちまうんじゃないか、と不安だったんだ」
「いや、それは無いな。ここに来る客は体格が良いやつが多いんじゃないか?」
「なんでわかったんだい?」
「椅子と机の頑丈な造りと、匂いさ。女性香水の匂いが全くせず、微かだが汗の匂いがする」
凄い。
さっきウロウロしながらも色んな所を見ている。
「当たり、です。男性は野菜をあまり好まないけど、お腹いっぱい食べたい。普通に料理を頼んでくれたらサラダは食べ放題になる。それも、今だったらナスやトマトや胡瓜やピーマンや、色々あるから結構お腹が膨れます。安くてお腹いっぱい食べれるのなら、また来ますよね。それも、ドレッシングはいつも5種類は用意するように頼んでいるから飽きないようにしてます」
「そうだ、お嬢様!宿場案内所にさ、この店が腹一杯食べれるからおすすめだ、と張り紙が貼ってあるんだよ!」
それは、嬉しい報告だ。
「だから、さっきの長期の客が多いって言ったのね」
「その通りだよ。出稼ぎや商人が泊まってくれるようになって宿屋も繁盛するし、昼も、最近は女性が増えだしたんだ。どうも、サラダ食べ放題、と言うのにひかれているみたいだ。頼む料理は少ないのを選んで、サラダはたらふく食べる。そうは言っても女性だからね。たいした量では無いよ」
それは、盲点だった。確かに、女性は野菜を食べたがる。
「だから、こんなに売上が上がってるのか。でも、その女性客を逃がしたくないな。うーん、暫く女性限定でデザートを出してみてくれる?普段の量の4分1くらいでいいかな」
女性は食後のデザートある無い、でランチのお店を決める時がある。デザートがないから安い。でも、デザート付になると高くなるけど、付いてその値段なら、という場合もある。
「それは小さくないか?」
マブルの言葉に、ウスが持っていたお玉を振り回し睨んだ。
「何言ってんだい。客寄せなんてそんなもんだよ」
言い方はどうかと思うけど、もの足りないくらいの量がいい。次に来てくれた時そのデザートを頼んでくれたらラッキーだ。
ランチをするのは絶対的に女性が多いから、女性客が増えるのは嬉しい。
「あんたはすぐに量を増やそうとする。泊まり客ならともかく昼に来る客に言われもせずに大盛りに入れるから、儲けが少ないんだよ」
「だって、腹減ってるなら入れたくなるだろ」
マブルの方が体が大きいのにウスの前だと小さく見えるが、これが夫婦なのだろう。
「儲けがなくなったら、こっちが腹が減るだろうが」
「いや、でもさ」
「私、地下に行くからこれ返しとくね」
喧嘩に巻き込まれたくないから、帳簿をカウンターに置き公爵子息に目配せし、その場を離れた。




