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私の仕事2

「帳簿だ」

宿屋の主人であるマブルが嬉しそうに奥の引き出しから持ってきた帳簿を、カウンター越しに受け取った。

その様子を見て、上手くいっているのだ、私も嬉しくなった。

マブルの曾お祖父様までは領地で農作物を作っていた。だが、お爺様の代から王都で宿屋を始めている。

野菜作りよりも料理が好きだったようで、家を飛び出し宿屋を開いた、と聞いている。

でも、マブルの代まで宿屋は引き継がれているという事さ、それはそれで良かったんじゃないかな、と思っている。

だって、料理は美味しいもの。

「ありがとう。ウスは?」

ウスはマブルの奥さんだ。

ちなみに2人は50代で、2人の子供たちは領地に家を構え、主に果物を作っている。

宿屋を継ぐのも、料理人にも、なりたくない、と家を出ていったバカ息子だと愚痴を何度も聞いたが、2人が作った果物が届くと嬉しそうに話をしてくる。そしてその果物を使ってデザート作りに必死になるウスを見て、色々考える事があった。

もっと、領地の農作物を卸す為にどうすればいいのか、と。

「客の部屋を掃除してる。今回も長期の客が何組も入ってて忙しいんだ」

頬を好調させ得意げに答え、鼻歌混じりに包丁片手に野菜を切り出した。

「繁盛してるのはいい事ね」

「お嬢様のお陰だよ」

満面の笑顔で言われると、私も気持ちいい。

「ライドは何処?」

ライドとはウスの親戚で、ウスの見習いとして2年前から働いている23歳の男性だ。領地で農園を営んでいる家に産まれたんだけど、料理を勉強したい、と住む込みで働いている。

ウスにとっても宿屋を継いでくれる親族がいて、とても安堵していた。

「ところでそこのあんちゃんは誰だ?」

カウンター席で座る私の横に座る、公爵子息を聞いてきた。

誰?

そう言われてみれば、この人なんなんだ?

「新しい婚約者じゃあないな。お嬢様の好きそうな顔じゃないな」

「分かる?」

「寂しいこと言うなよ。俺はスティールの新しい婚約者になるつもりなんだかな」

公爵子息が普通に、サラッと言ったが、私もマブルもとても冷ややに公爵子息を見てしまった。

「いや、お嬢様はその顔には興味はない。出来すぎてる」

「その通り。すみませんが、こ、いや、えーと子息様つまらない事を言わないでいいので、その水を飲んで静かにしていてください」

公爵、というのを言ってしまったら騒ぎがおきそうでやめておいた。

「どうやっても俺の名前を呼ぶ気は無いだな」

「わざと寂しそうに言わないで下さい。ともかく私は仕事に来たので黙っていて下さい」

「冷たいなぁ」

「で、このあんちゃんは結局何なんだ?」

「スティールの弟子、という所かな。なあ、スティール」

「はぁ。もうそれでいいです」

相手するのが面倒くさくなってきたら適当に相槌うち、帳簿に目を戻したが、何故か楽しそうな目線を感じたから顔を上げるのをやめておいた。

でも直ぐに公爵子息は立ち上がり、店を中を歩き出した。

多分、こういう庶民の店に来る事がないから珍しいのだろうな。おかげで静かになったから、ゆっくり帳簿の確認が出来た。


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