14 傷だらけの帰宅
しまった……。
暫くチェックしていない間に、ラムラス様のステータスがこんな酷いことになっているとは……。
でも、まだ生きている。
「大丈夫です!
無事ではないけど、ラムラス様はまだ生きています」
「何!?
それは真か!?」
私の言葉に、伯爵は訝しむように眉根を寄せる。
彼からすれば、私の言葉には何も根拠が無いからなぁ。
「私には親しくなった女性の状態を、遠くからでも知る能力があります。
ラムラス様は、かなり弱っているけど、まだ健在です」
「そ……そうか」
伯爵は脱力したように、背中をソファーに預けた。
やはり娘のことが、心配で仕方がなかったのだろう。
「しかし、何処にいるのかが分からなければ、救出ができぬ……」
伯爵は苦悩を顔に滲ませるが、救出は今すぐにでもできる。
私の「眷属召喚」を使えば、ラムラス様を今この場所に呼び寄せることはできるのだ。
「あの……救出はできます。
私の能力を使えば、今すぐにでも。
ただ、王都から急にラムラス様が消えることになるので、それによって王都での事態が急転する可能性もあります。
それでも、構いませんか?」
「な……それは……一体……」
伯爵は理解しがたいという顔をした。
普通なら「何を言っているんだ、こいつ?」って反応になるのは、当然だよねぇ。
「場合によっては、クリーセェ様の身に、危険が及ぶかもしれません。
それでも構わないか……ということです」
「ぬぅ……!!」
たぶんランガスタ伯爵は、クリーセェ派閥だよね?
クリーセェ様に何かあったら、彼の立場はかなり悪くなるかもしれない。
しかし──、
「……娘を頼む!」
その言葉が聞きたかった!
まあ、伯爵のその言葉が無かったとしても、私はラムラス様を助けたけど。
現状では命の危機が明白で、しかも私の眷属であるラムラス様の方が、クリーセェ様よりも優先される。
「分かりました。
それでは出でよ我が友、ラムラス!!」
早速「眷属召喚」によってラムラス様を召喚する。
うん、存在の大きさがカプリちゃんほどではないから、魔力の消費はそれほどではないな。
ここから王都まで、どれくらいの距離があるのかはよく分からないけど、これなら国内の何処にいても召喚できそうだ。
「おお……!」
伯爵が驚きの声を上げた。
空中に歪みが生じて、そこに人影が浮かび上がる。
ラムラス様だ!
しかしその姿は──、
「伯爵様は、後ろを向いていてくださいっ!」
「う、うむっ!!」
現れたラムラス様は全裸だった。
……以前会った時は鎧を着ていたので分かりにくかったが、着痩せするタイプか。
だが、問題はそこではない。
拉致監禁されていた女性が、全裸であるという、その意味……。
おそらくラムラス様は、陵辱を受けている。
しかもそれだけではない。
空中からから現れたラムラス様には意識が無いようなので、このままでは床に投げ出される。
だから私はその身体を受け止め、そして改めて彼女の状態を確かめてみると──、
「両手が無い……!」
ラムラス様の手首から先が無い。
更によく見れば、足首にも大きな傷がある。
彼女を拉致した者達は、その行動力を物理的に奪った上で、辱めたということが察せられた。
直後私は、怒りが腹の底から脳天へと突き抜け、叫びだしそうになったが、今はそれよりもやるべきことがある。
まずは「空間収納」から毛布を出して、ラムラス様の身体を隠しつつソファーに寝かせる。
それから彼女に「無限再生」などのスキルを「下賜」して、身体の回復を促した。
私も回復魔法を使おう。
「む……娘は大丈夫なのか?」
伯爵は心配そうに、部屋の中をうろうろとしていた。
ちょっと気が散るんですが?
まあ、親としては当然の反応なので、むしろ少し安心したが。
貴族のイメージによくある、使い道の無くなった者ならば、家族でも平気で切り捨てるような態度じゃなくて良かった。
私の父親も、娘の『ギフト』をあてにするようなタイプだったし、子供を利用することしか考えていないような親は苦手だ。
「身体は大丈夫です。
傷1つ残らないようにします。
ただ、精神的な傷を何処まで癒やせるかは……。
だけどうちには、オークに襲われた状態から立ち直った者もいます。
だからラムラス様もきっと……!」
「くっ!」
伯爵は私の「オークに襲われた」の言葉で、ラムラス様にもそれに匹敵する悲劇が起こったのかもしれないと言う現実を悟ったようだ。
そして怒りにまかせて、壁に拳を叩きつける。
あ~、あれは修理が必要だな。
私はティティ達のようにオークによる陵辱という地獄を経験してなお、立ち直った者達を知っているので、ラムラス様もそうであって欲しいと願っている。
だけどティティだって、未だに声を失ったままだ。
1度壊れた物を、完全に治すことが難しいというのも事実なのだ。
だからこそ、それを平然と行った者達へ、激しい怒りを感じる。
同時に、ラムラス様の状態に気付くのが遅れた私自身に対しても、腹立たしい気持ちが強い。
この燃え上がるような強い憤りの気持ちを、誰かにぶつけて発散させたいよ……!
我が眷属に手を出した連中に、その罪の大きさを分からせなくちゃ……!!
だがそれも、ラムラス様が目覚めてからの話だ。
早く目を覚まして、元気になってよ……!
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