10 人質をゲットだぜ
「あなたはどなたですか?」
私は馬車から出てきた令嬢に尋ねる。
どうやら我が家を襲撃してきた者達の中にいた、エレンと知り合いらしいが……。
「あ……申し遅れました。
ソイゲント男爵家長女の、ジュリエットですわ」
おおぅ、最後に死にそうな名前だね……。
それにしても、あの領主の娘か……。
神経質そうで陰気な雰囲気のある父親とは、ぶっちゃけ似ていないな。
ジュリエットは母親に似たのか、美少女だ。
金髪の毛先がちょっとドリルで、少し気の強そうな雰囲気をした、典型的なお嬢様って感じ。
こんなところまで連れてきたのだから、領主も可愛がっているのだろうな。
「そうですか……。
え~と、そのエレンとはどのような関係で?」
「私の乳母の息子で、姉弟のような関係といいますか……。
そのエレンを始めとした何人かが姿を消して、父に聞いても答えてくれないのです」
私がチラリと領主の方を見ると、彼はさっと目を逸らした。
あ~……これは領主的に、エレンは娘にたかる邪魔な虫程度の認識だったのだろうな。
だから万が一の場合は死ぬことも有り得る、襲撃メンバーに加えたのかも。
なんだか襲撃者にしては、不自然に若いな……とは思っていたんだよ。
で、ジュリエットとしては、なにかしら特別な想いをエレンに対して持っていたのだろう。
そうじゃなきゃ、領主一族にとっては完全にヤバイ奴である私の前にわざわざ出てきて、その安否を確かめようとはしないはずだ。
「ふむ……確かにエレンという娘は、我が家を襲撃した者達の中にいましたが、もうあなたの知っている彼じゃなくなっていますよ?」
少年から少女になっているからね。
しかも吸血鬼化もしている。
「なっ、エレンに何をしたというのですか!?」
「よさぬか、ジュリエット!!」
私に食ってかかろうとしたジュリエットを、領主が声で制する。
まあ領主からしてみれば、命知らずの行為に見えただろうな。
私から見ても、ジュリエットの行動はちょっと意外だ。
私の『百合』の影響を受けていない訳ではないのだろうけれど、それ以上に彼女にとってはエレンの方が重要な存在なのだろう。
これは……愛だね?
そういうことなら、会わせてあげるのも吝かではない。
「日常生活に支障の無い状態ではありますよ。
ただ、私の下で働いてもらう為に、少々姿とかを変えさせてもらいました」
「姿を……?
でも、無事なのですよね?」
「無事と言えば無事ですが、私達を襲撃したのですから、このまま解放する訳にはいきません。
だから罰も兼ねて、今後は私の配下として働いてもらいます。
もう男爵家の家臣として、復帰させるつもりはありません」
「そんな……!」
ジュリエットは軽くよろめいた。
私の言葉は、場合によっては二度とエレンと会えないという宣言にも等しい。
「でも、あなたも私の為に働いてくれるというのならば、エレンに会わせてあげますよ。
色々と覚悟が必要かもしれませんが──」
「行きますわ!」
「ジュリエット!?」
ジュリエットは私の言葉へ、被り気味に答えた。
そして領主は、娘の言葉に慌てている。
それはつまり──、
「それでは一緒に行きましょう、お嬢様。
領主様……もしも私を裏切ったら、娘さんがどうなるか……分かりますよね?」
「う……」
ジュリエットは、人質として使わせてもらおう。
いや、最終的には、私の眷属として領主の監視役にするつもりだ。
私の『百合』で従属度を上げておけば、決して裏切ることはないし、領主としても娘を無碍に扱うことは難しいだろう。
「ま、待て、ジュリエット!
馬鹿な考えはするな!」
領主は娘を止めようとするが、
「お父様、私はエレンを切り捨てるような真似をしたことを、許すつもりはありませんわ。
これはあなたが招いた結果です。
私はお父様の罪を、償いに行くのです」
ジュリエットにそう言い切られて、領主は絶句した。
娘に嫌われるのは、父親としても辛いだろうね。
でも、私としてはどちらかというと、駄目な父親を持ったジュリエットの方に同情する。
「それでは、いずれ会うこともあるでしょうが、その時までさようなら」
「待──」
領主が何か言いかけたが、それを無視して私達は家に転移した。
行きとは違い、帰る時は一瞬だ。
「わ……!」
転移を初めて経験したのか、ジュリエットは唖然とした顔で周囲を見渡している。
「それでは約束通り、エレンに会わせるよ。
その代わり、今から私があなたの主だから。
いいね、ジュリエット?」
「しょ、承知しましたわ!」
「じゃあ、まずは家に入ろうか」
「わ~い、ディナーでーす!」
「グゥー!」
「えっ!? ええっ!?」
ジュリエットは竜が美少女になったり、熊が小さくなったりするのを目の当たりにして、混乱した様子だった。
これくらいで驚いていたら、今後身がもたないよ?
……いや、カプリちゃんの存在については、1番驚くポイントではあるか。
そして家に入ると、ティティとラヴェンダが出迎えてくれた。
「ただいまー。
ティティ、カプリちゃんに料理を」
『かしこまりました』
「ご主人ー、おかえりなさーい!」
そしてラヴェンダは私に飛びついて、ペロペロと顔を舐めてくる。
こら、人前ではやめなさい。
ジュリエットが、目を丸くして見ている。
だけどジュリエットにも、こういうのに慣れてもらわないとなぁ……。
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