9 働け領主様
「……私達への襲撃を指示したのは、あなたがクリーセェ様の敵対派閥に所属していたからですよね?
何処なんです?」
「そ……それは……」
私の問いに、領主は視線を逸らして口籠もる。
この期に及んで正直に答えないつもりなら、私にも考えがある。
「カプリちゃん、死なない程度に、この人をひっかいて」
『はーい』
カプリちゃんの前足が、領主へと迫る。
すると領主はあっさりと白状した。
「待て、待てっ!!
第2王子、エスナルス様だ!」
第2王子……。
確か第1王子が死んでる……って聞いたことがあるな。
つまりクリーセェ様にとっては、1番のライバルってことになるのかな?
「なるほど……。
その第2王子が、クリーセェ様を幽閉しているのかな?」
「それは……王都のことは私にもよく分からぬ……」
地方領主だから王都のことがよく分からないというのは、たぶん本当のことなのだろう。
領主の悔しそうな顔が、それを物語っている。
彼は派閥の中でも末端なのだ。
それよりも問題なのは──、
「で、第2王子は、この襲撃については知っているの?」
「知らぬ……。
私の独断だ」
だろうね。
遠い王都にいるはずの第2王子と、短時間で連絡を取る方法なんてないはずだし。
まあ、「念話」のスキルと、膨大な魔力があれば不可能ではないけれど、距離的にカプリちゃん並みの魔力が無いと無理だな。
いずれにしてもその王子が、私達の存在を認識しており、敵対するという可能性は今のところ無い訳だ。
「じゃあ、ここで口封じすれば済む話か……」
私の言葉に、領主は目を剥いて慌てる。
「お、お前達のことは誰にも喋らん!
部下にも、箝口令を徹底させるっ!!
だ、だから……!」
領主は「だから」の先を、口籠もる。
プライドが邪魔して素直に言えなかったのだろうけれど、たぶん「助けてくれ」というのが言外に含まれているね。
面倒臭いが、まあ察してあげよう。
「それならば私達は、これからも何の罰も受けず、そして何者にも邪魔されない……。
そのような認識でいいんですね?」
「そ……そうだ」
「よろしい」
私の答えに、領主はホッと安堵の吐息を吐く。
「しかしそれだけではまだ足りませんね。
他にいくつか条件を付けさせてもらいましょう。
それができないのであれば、あなた達はこのまま行方不明になってもらいます」
再び領主の顔が緊張に強ばった。
「な、何をさせる気だ……?」
「まず、今後クリーセェ様の邪魔はしないこと。
そして上位の者からの命令で、やむを得ず邪魔する場合は、私に報告してください。
他の者達の、そのような動きを知った場合も同様です。
こちらで対処しますので」
「わ、私に間者の真似事をしろと言うのか!?」
領主は不本意であるらしく、異議を唱えた。
まだ立場が分かっていないのかな?
「……真似事じゃなく、そのものですが。
嫌、ですか……?」
私は威圧感を込めて、領主を見下ろす。
すると領主は、怯えたように身体を竦ませた。
「そ、そうは言っておらぬ。
だが、どうやって連絡を取り合うというのだ……?」
ふむ、それな。
「それについては後日、私の眷属を監視も兼ねてあなたに付けましょう。
転移魔法を使えるようにしておきますので、1日もあれば連絡を取ることは可能でしょう」
「て、転移魔法を……?」
領主は疑わしげな視線を私に向けるが、実際「転移」のスキルは、自力で身につけている者はカプリちゃん以外では見たことがない。
それだけ高等な術なのだ。
人間なら、国に1人か2人いればいい方なのではないだろうか。
まあ、私はカプリちゃんからコピーして、「下賜」でばらまき放題だけどね。
しかも魔力回復系のスキルもあるので、1日に何度も使えるから、お互いの位置さえ知っていれば、短時間で連絡を取り合うことはできるはずだ。
「私の眷属は、全員転移できると思っておいてください」
「……!!」
それはつまり、何かあれば私の眷属を瞬時に領主のところへ送り込めるということでもある。
たとえ私達が傍にいなかったとしても、領主がおかしなことをすれば、すぐに戦力を送って処理することができる。
これは他の要人に対しても同様で、その気になれば第2王子の派閥を壊滅させることも難しくないだろう。
それが理解できたのか、領主の顔色は更に悪くなる。
「あとは……領主の仕事を真面目にしていれば、文句はありません。
まずは魔物の群れに襲われた町の支援と、今後同じ事が起こらないようにする為の対策の立案をお願いします。
民を苦しませるような領主なら、いらないですからね?」
私の言葉を受けて、領主はコクコクと頷いた。
うむ、充分に分からせることができたと思うので、このくらいでいいかな?
「それじゃあ、用事は済んだので私は帰ります。
私がいないからと言って、くれぐれも変な気は起こさないように。
次はこんな優しい対応はしませんので。
まあ、いきなり竜の息を、自宅に撃ち込まれてもいいという、覚悟があるのでしたらどうぞ」
「わ……分かった」
領主は蒼白になって項垂れた。
これだけ脅しておいてもまだ逆らうようなら、もう本当にドラゴンブレスも選択肢にいれるよ。
「さ、カプリちゃん、クルル、キララ、帰るよ」
「お待ちくださいませ!」
ん? 後ろの馬車から誰か出てきた。
「襲撃に加わった者達は、どうなったのですか?」
それはいかにも貴族の令嬢然とした、少女だった。
領主の娘か?
「エレンという名の、少年がいませんでしたか?」
……う~ん、その少年はもういないなぁ……。
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