8 もうそれでもいいや
「ねえ、領主様、私達に刺客を送ったことについて、何か申し開きがあるのなら聞いてあげるから出てきなよ。
なんで魔王候補を倒した私達に、勝てない喧嘩を売ったのさ?
権力でどうにかなると思っていたのなら、大間違いだよ?
私達はいざという時は国を守る戦力であり、しかもクリーセェ殿下の臣下……そんな私達を襲撃するなんて、国家反逆罪に匹敵することだとは思わない?」
そんな私の言葉に、隊列の中からざわめきが広がった。
刺客について、知らなかった者達もいるのだろう。
彼らにしてみれば、この急な町からの出立の意味も、行きと帰りで人数が大幅に減っている理由も、分からなかったのだろうな。
だけど疑問に思っても、主を問い質すことはできなかったはずだ。
それだけに、私の言葉に動揺を隠しきれない様子。
しかし──、
……う~ん、その領主からの反応が無い。
馬車の中に引きこもったままだ。
だから私の方から、隊列に歩み寄って行く。
すると隊列の中から、鎧を纏った男が出てきた。
「団長!」
そんな声が聞こえてきたので、騎士団長かな?
「ここから先は通さぬ!」
兜を被っているので顔はよく分からないけど、その声から察するに、団長はそれなりに年配の人のようだ。
それでも団長なのだから、騎士団の中で1番強い人なのだと思う。
そんな人が、1人で前に出てきたということは──、
「一騎打ちをご所望ですか?」
「我が命はくれてやろう。
だが私が負けても、部下の命は保証していただきたい……!」
ああ、騎士としては、戦わずして主を引き渡すなんてことは、できないということか。
たぶんクルルやキララを相手に総力戦になれば、自分達は全滅する──と、悟っているんだな、この団長さんは。
だから戦うにしても、最小限の被害で済む方法を提案している訳だ。
「分かりました。
私は元より、領主にしか用はありません」
「かたじけない」
団長は剣を抜き、そして次の瞬間には私に向かって剣を振るう。
これが試合なら、「まだ、始めの合図が出ていない」と抗議するようなタイミングだが、そんな風に不意を突かなければ勝てないと、判断したのだろうか?
騎士団の団長が、私の実力を過小評価していない──というのは、ある意味では誇らしい。
だが──、
「ゴブッ──!?」
団長の斬撃を躱した私は、その懐に入り込み、腹部へと掌底を突き入れた。
そこは鎧で覆われていたけど、今の一撃で陥没する。
団長はそれで内臓にダメージを受けたようで、そのまま地面へと崩れ落ちた。
「ここまで……手も足も出ぬとは……!」
完全武装の騎士を素手で完封しているから、実力差は誰の目から見ても明らかだろうね。
「ごめん、これでもパーティーの中では、接近戦が弱い方なんだ……」
私の言葉に、団長は目を見開き──、
「なるほど……我々に勝ち目はなさそうだ……」
「ええ、だからあなたの判断は正解です」
実力差を見せつけることで、他の騎士達の戦意を失わせることができた。
もしもこの団長が、最初から全員で戦うことを選択していたら、彼らの被害は何倍にも膨れ上がっていたことだろう。
あるいは死人も出たかもしれない。
「部下達のことを……頼む……」
そう言い残して、彼は意識を失ってしまった。
「部下達」ではなく「主」と言わない辺り、この人は領主に対して思う所があったのだろうな。
「はい、これで戦っても無駄だということが、理解できたと思います。
私も無駄なことはしたくないので、そのまま動かないでくださいね」
私は領主がいると思われる馬車へと、歩み寄って行く。
その途中で、私に攻撃をしようとする騎士もいたけど、キララが近づくとその動きを止めた。
たぶん頭に血が上っての行動だと思うけど、さすがに私とキララを同時に相手にしては、勝ち目がないことくらいは本能的に理解できたようだ。
さて、この馬車だな。
「領主様、出てきてください。
出てこないのなら、馬車ごと攻撃します」
「…………」
暫くすると、領主が顔を出した。
「……何故、このようなことを?」
「それは私のセリフですが。
襲撃を仕掛けてきた15人全員が、あなたの指示だったことを白状しています。
拷問にも耐えられるような者にも、自白させる手段はあるんですよ?」
領主が「そんな馬鹿な」って顔をした。
もうこの時点で白状したも同然だ。
「私からも問います。
何故、あのような指示を?」
しかし領主は答えない。
仕方がない。
「カプリちゃん、ちょっとこっちに来て」
「ひっ、ひいぃぃ!?」
騎士達の間から悲鳴が上がった。
まあ、背後から巨大な竜が迫ってきたら、誰でもそうなる。
「領主様は、この子と遊びたいんですか?」
「な、なんだお前は……?
竜を操って……!?
魔王か……!?」
「……そう思いたいのなら、それでもいいです。
私は自分と眷属を守る為ならば、手段を選ぶつもりはありません。
必要ならば、なんでも利用しますし、なんでもやります。
あなたがあくまで私に敵対するというのならば、あなたを領地ごと焼き払うことだって考慮しますよ」
まあ、可能な限りやらないけどね。
でも、脅してそれで済むのならば、言うだけは言わせてもらうよ。
ついでに、念話でカプリちゃんに指示を出す。
『カプリちゃん、このおじさんにもうちょっと近づいて』
『分かりましたー』
カプリちゃんは領主の顔の前まで、鼻先を近づけた。
「ひ……!
わ……私が悪かった……!
だから、やめてくれ……っ!」
脅しが効きすぎたのか、領主はへなへなと地面にへたりこんだ。
ちょっと失禁しているような気もするけど、見なかったことにしよう……というか、おじさんのは普通に見たくない。
でも謝っただけで、許されると思わないでよ?
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