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6 吸血鬼のおしごと

「……それじゃあ、やっぱり領主の命令で?

 だとしても、魔王候補を倒した相手に襲撃って、無茶過ぎない?」


 やっぱり襲撃の黒幕は、領主だったようだ。

 どうやら領主はクリーセェ様の、敵対派閥に所属していたらしい。

 晩餐会の場で私達に敵対するような反応を見せなかったのは、単純にあの場で敵対すれば、自分自身の身が危ないと思ったのかな?

 なにせ私達は、魔王候補をも倒している訳だし、正面から戦ったら勝ち目なんか無いだろう。


 でもその慎重さを、その後にも活かして欲しかったなぁ……。


「夜の闇に乗じて、数で攻めればなんとかなるかと……。

 それにあなた達は、商人のキャロルと密接な関係にあるとの情報が上がっていたので、最悪の場合は人質にすれば従わせることも可能だ……と、考えておりました」


「いやぁ……君達じゃ、キャロルさんにも勝てなかったと思うよ……?

 余っ程油断している時なら、別だろうけれど……」


「そう……ですか」


 彼ら……いや、今や「女体化」のスキルで女性となった彼女らは、私達の戦力を過小評価していたようだ。

 カトラさんから「ここ数十年、大規模な戦争は起こっていない」と聞いたことがあるけど、結果として戦いというものの現実を理解していない者が増えているのかもしれない。

 領主やその配下のように、都会に住んでいる者ならば、魔物との戦いにだって縁は無いはずだし、なおのことだろう。

 おそらく戦闘職であると思われる彼女達も、訓練ばかりで実戦経験は少ないのだろう。


 で、私が尋問しているのは、襲撃してきた男の中で最年少の少年──今は「女体化」でボーイッシュな少女となった子だ。

 捕らえた15人の中では1番可愛いので、話を聞くのならこの子の方がいい……ということで選んだのだけど、『百合』の影響で私のことを意識して顔を赤くするわ、恥ずかしがって目も合わせられないわで、なんだか嗜虐心をくすぐるなぁ。

 まあ、元男だというのが、ちょっと複雑だが……。


「君の名前は?」


「エレン……です」


 エレンか。

 漫画やゲームでは男性キャラにも、そして女性キャラにも使われていた名前だから、この女体化に合わせて改名させる必要は無さそうだね。


「そう、エレンね。

 お姉ちゃん、この子、眷属にしちゃいなよ」


「え?」


 いきなり話を振られたお姉ちゃんは、目を丸くする。


「お姉ちゃん、夜に1人だけじゃ大変だし、寂しいでしょ?

 このエレンを、お姉ちゃんの補佐にすればいいと思ったんだけど……」


「いや……確かにそれは助かるが……」

 

 まあ、エレン本人にとってはなかなか鬼畜な提案だと思うけど、元々は襲撃者だったのだし、彼女の感情や事情に配慮して拒否権を与える必要性は感じないかな。

 ただし今後は私の眷属としても働いてもらうつもりなので、それなりの扱いもするし、「下賜(かし)」で「万能耐性」を与えて、日光や吸血衝動から守ることくらいはするけれどね。


「ねえ、エレン。

 これから君には、私のお姉ちゃんの側近として働いてもらおうと思う。

 その為に、もう一度身体(からだ)を作り替えるけど、いいよね?」


「え……あの……?」


 エレンは訳が分からないという顔をしていたけど、私の言葉に逆らうことはできないようだ。


「拒否権は無いよ?」


「う……!

 はい……」


 念を押したら、勢いに押されて折れた。


「じゃあ、お姉ちゃん、いいよー」


「はいよ、いただきまーす」


「えっ、なっ、なに……!?

 あうっ!」


 お姉ちゃんに噛みつかれて、困惑した声を上げるエレンだったけど──、


「あ……あ……あぁぁ……」


 エレンの声は、徐々に切なげなものへと変化して、喘ぎはじめた。

 やっぱり吸血されるのって、気持ちいいよね。

 一方、お姉ちゃんは、


「マルルの方が美味しい……」


 と、不満そうだ。

 それでも吸血行為は続き……、


「ああっ、あうっ、ああぁっ!!」


 今度は苦悶の声を上げ始めるエレン。

 人間から吸血鬼へと身体が作り替えられている過程で、私には想像できないような苦痛が生じているのだろう。

 だけどそんな彼女の悲鳴は、やがて小さくなっていった。

 その代わりに、疲れ果てたような荒い呼吸の音だけが、彼女の口から漏れ出ている。


 ……終わったかな?


 お、黒かった瞳の色が赤くなっているし、肌の色も病的に白くなって吸血鬼の特徴が出ている。

 どうやら成功したようだ。

 ただ、消耗したエレンは、そのまま気を失ってしまったらしく、床に倒れてしまった。


「お姉ちゃん、必要ならもう何人か眷属にしてもいいよ。

 なにせ15人もいるからね」


 そう言って襲撃者達の顔を見渡す。


「お……お許しください……!」


 彼女達は仲間の吸血鬼化を()の当たりにした所為か、酷く怯えきっていたけど、こうして脅しておくと「従属度」が上がりやすくなるので、メリットはある。


「まあ、今はいらないかな……」


 そんなお姉ちゃんの言葉に、彼女らはあからさまにホッとした顔をする。

 でも、これからの彼女達の生活は楽ではないだろう。


「ラヴェンダ、後輩の(しつけ)は任せたよ。

 あ、夜伽(よとぎ)の方はいらないからね」


「かしこまりました、ご主人!」


 元男相手に身体を許す……ってのは、今はまだ考えられないからね……。

 まあ、彼女達の精神が、完全に女性になったら考えよう。

 たぶん「従属度」が100%になったら、完全に『百合』の影響下に入って、精神的にも女性になっているはず……。

 

 ただ、今のところ、お姉ちゃんの側近になるエレン以外とは、そんなに接点は無いと思うので、100%にはならないと思うけどね。

 実際、従業員の人達とも、ティティ以外は接点があまりなくて、100%になった者はいないし。


 ……ともかく、襲撃者の処遇については終わったけど、次は黒幕の領主をどうするか……だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元敵のTS犯罪奴隷はそんなに要らないかなぁ。凄いジャンルですけどw 働かせても元から善良或いは仲良しの人達が良いです、個人趣味としては。
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