表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/206

4 領主の言葉

 会場に現れた領主・ソイゲント男爵は、50代ほどの痩せた男で、何処となく神経質そうな顔付きをしていた。

 あ……これは、私と相性が悪いな……というのが、第一印象だ。


 取りあえず私達は──いや、会場にいる全員が頭を下げて立礼をする。

 ここは町長の屋敷の庭なので、下は地面だ。

 さすがに礼服を着たまま平伏などをして、土で衣装を汚すのは逆に見苦しいので、この場合は立礼だけで許される……と、キャロルさんが言っていた。


 もしもマナーに関して想定外のことが起こったとしても、念話でキャロルさんや仲間達に助言を受けることができる。

 なお、ティティは領主の視界に入らないように、私達から離れた場所へとすでに移動していた。

 メイドは身分の低い者だとみられがちなので、変なケチを付けられない為の方策だ。


 で、頭を下げたまま、私達は動くことができない。

 領主から許可があるまで、別のアクションを起こすことは許されないそうだ。


「皆の者、(おもて)を上げよ」


 許可がおりたので、顔を上げる。


「魔王候補を倒した冒険者は……?」


 領主は問うけど、ここで私達は何もしない。

 基本的に貴族と平民が、会話することは厳禁なのだ。

 むしろ私達と親しげに会話してくれた、ラムラス様やクリーセェ様が異端だったのだと思う。


 そんな訳で、町長が会場にいる人間を代表し、代理で答える。


「こちらのエルシィ、カトラ、マルルでございます」


 ここで私達は再び礼をする……が、今度はすぐに顔をあげる。

 あくまで今のは、名前を呼ばれたのが私達だと、領主にも分かりやすくする為だ。


「若いな」


 若いねぇ……。

 特に私は異例の若さ……というか、幼さだろうねぇ……。

 いや、中身(精神)はともかく。


「しかし、その若さで、魔王候補の討伐に、新たな遺跡の発見……。

 実に見事な功績であった。

 褒美を取らせよう、何か望みはあるか?」


「発言を許す」


 ここでようやく、領主と直接会話することが許される。

 私達を代表してエルシィさんが答えることになっているが、それは事前に相談して決めてある。


「ありがとうございます。

 私達の望みは、この町の復興でございます。

 領主様には、その支援をしていただければ……と」


 私達は、ぶっちゃけ地位には興味が無いし、財産もある。

 それに貴族から何かを受け取ると、後で面倒臭いことになりかねないからなぁ……。

 だから私達個人としては何も望まない。


 あとこれは、町の復興に対して何もしてくれなかった領主に対する、当てつけでもあるが……領主の表情は変わっていないので、通じていないな。


「そうか……殊勝な心がけだ。

 復興の件については、前向きに考えよう」


 あ、町長が嬉しそうだ。

 このまま終われば、平和でいいんだけどなぁ……。

 

「しかしそれでは、そなた達に対して何もしないことになる。

 では代わりに、そなたらを我が配下に加えようではないか。

 将来的には、騎士の身分も夢ではないぞ?」


 来た──……。

 やっぱり私達を部下にして、その力を利用とするのが目的だったか。

 だけどこれにも、対策は考えてある。


「お誘いは光栄ですが、我々はすでに第3王女クリーセェ殿下を(あるじ)としております。

 2人の主に仕えることはできません」


「なんと、殿下の……!?」


 領主の顔色が変わる。

 さて……これが吉とでるか、凶と出るか……。


「はい、これは殿下から預かったものです」


 エルシィさんが、クリーセェ様からもらった紋章入りのコインを取り出す。

 歩み寄ってきた領主がそれを手に取り確認すると、驚きを隠しきれないように目を見開いた。


「これは確かに王家の紋章……!

 王族が信頼した者にだけ、与えるといわれているものだ。

 これを持つ者は、貴族でもその行動を止めることは難しいとされている」


 へぇ……そういう意味があったんだ。

 つまり王族の後ろ盾が通じる範囲で、やりたい放題できる……と。


 それから領主は、コインをエルシィさんに返しながら、


「なるほど……。

 残念だが、そなた達のことは諦めよう。

 ……だが、本当にいいのか?」


 念を押すように問う。


「それはどういう……?」


「クリーセェ殿下は、王都で幽閉されていると聞く。

 その殿下に付き従うことは、身の破滅を招くかもしれぬぞ……?」


 は、幽閉!?

 なんでそんなことになっているの?

 政敵にハメられた!?


「そ、それは(まこと)ですか!?」


 私は思わず問い返した。

 領主に対して無礼かも……と、少しは思ったけれど、そんなことを気にしていられるような場合ではない。


「うむ……詳しいことは知らぬが、王都でそのような噂が流れている。

 事実、国王陛下の後継者選びは進んではおらぬし、王女殿下も公の場に姿を現しておらぬ。

 失脚した者に付いても、ろくなことにはならぬぞ?」


 ……領主の言うことは正しいかもしれないけれど、相応(ふさわ)しくない者が王座に()くことは正しくない。

 平民にも豊かな生活を……と、考えているクリーセェ様が王になることは、平民にとっては勿論、国全体にとっても間違い無く利益になる。

 国全体が豊かにならなければ、平民の生活も豊かにはならないのだから。

 その可能性を潰すのはいけない。


「我々が誰を主とするのか……。

 それは王都で、真実を確かめてからにしたいと思います」


「……そうか」


 領主は私の言葉に対して、否定も肯定もしなかった。

 少なくとも、邪魔する気は無いってことかな?

 第一印象とは裏腹に、案外話が分かる人なのだろうか?


 いずれにしても、王都へ何が何でも行かなければならなくなったなぁ……。

 ブックマーク・☆での評価・いいね・感想などの反応があると、モチベーションに繋がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まぁ、男爵程度だから未だ大丈夫でしょう。伯爵や公爵辺りならヤバいかも。 しかしクリーセェさん達か、割と戦闘力が高いだから、認めて貰えなかったなら兎も角、幽閉されるのは意外です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ