3 晩餐会
さて、晩餐会へ着ていく服は決まったけど、貴族の人と会う時の作法なんて知らないという問題がある。
一応ラムラス様とキャロルさんからコピーした、「宮廷作法」と「上流作法」のスキルはあるんだけど、それがあっても知識が無いと使いこなせないんだよね……。
そんな訳で、「下賜」によって「上流作法」を参加者全員にコピーした上で、「上流作法」の元々の持ち主であるキャロルさんに、一通りマナーをレクチャーしてもらうことになった。
「町長の家には、パーティーができるほど大きな会場は無いから、たぶん庭での立食パーティーになると思うわ。
これならば、それほど畏まった場ではないから、必要最低限のマナーで大丈夫だと思うの」
そうか、よかった。
というか、さすがに領主も避難所になっている町の集会所を使うような、冷酷な真似はしなかったか。
まだ家を失った人々が、沢山いるからなぁ……。
「でも、基本的には、貴族と目を合わせては駄目よ。
絶対に……!」
……野生動物かヤンキーかな?
で、キャロルさんからのレクチャーが一通り終わって、私達は晩餐館が始まる夕刻──実際にはそれよりも前に会場へ到着するように家を出る。
貴族を待たせるようなことがあっては、いけないからね。
とはいっても、早く行きすぎると会場の準備がまだ終わっていないということもあるので、その辺は上手く調整していかなければならないようだ。
なお、お姉ちゃんとラヴェンダ、そしてクルルとキララの、純粋な人間ではない者達はお留守番することになる。
カプリちゃんも昨日と今日は顔を見せていないので、自動的に欠席だ。
いたら「参加する」と、駄々をこねそうだったので助かった。
あと、キャロルさんも……だね……。
彼女によるこの町への貢献は大きいけれど、その性別を超越した在り方への周囲の理解はまだまだのようなので、いらぬトラブルの回避の為……と、本人が辞退した。
それと一応ティティは参加するけど、あくまで付き人としてであって、メイド姿のままだ。
会場に到着すると身分の確認をして、持ち物検査を受ける。
貴族がいるような場では、基本的に武器の持ち込みは禁止だ。
まあ、魔法が存在する世界では無意味な決まり事のようにも思えるが、強力な攻撃魔法を使える人が少ない──使えても発動に時間がかかるので、熟練の護衛を雇えば制圧は可能だというのが一般人の認識らしい。
でも実際には私やカトラさんは勿論、魔法職ではないエルシィさんやティティですら、私の「下賜」によって魔法を使えるようになっているんだけどね。
そして私とカトラさんは魔法に関わるステータスの数値が高いから、魔法の発動にはそんなに時間がかからない。
あと、「空間収納」の中にも、しっかりと武器は入っている。
だから領主を暗殺しようとすれば、簡単にできるのだ。
現時点では、やる必要は無いけれど……。
で、会場はやはり立食パーティー形式のようで、町長宅の庭にいくつものテーブルが並んでいて、その上には沢山の料理や飲み物が用意されていた。
まだ領主であるソイゲント男爵は、到着していないようだ。
それならば今の内に、料理を楽しむことにしよう。
うん、さすがに貴族が参加するパーティーなだけあって、料理のレベルは高い。
ただ、基本的にこの世界の料理って、薄味なんだよなぁ。
やっぱり香辛料や塩・砂糖は貴重品らしい。
まあ、健康的ではあるけれど。
「ほら、ティティも食べなよ」
『私はあくまで従者なので』
と、ティティはこの場での飲食を固辞するけど、私は知っている。
「でもさっき、こっそりと、ケーキを『空間収納』に入れたよね?」
「~~~!」
ティティの顔が真っ赤に染まる。
そして普段から「念話」で会話する彼女だけど、動揺するとそれが途切れて、口をパクパクとさせるのだから分かりやすい。
でも、いいんだよ?
育ち盛りなんだし。
好きな物は、沢山食べたいよね。
「ほら、我慢しないで。
あ~ん」
私は周囲からの視線が無いことを確認して、フォークに刺した料理をティティの口元へと運ぶ。
「…………」
ティティは顔を更に赤くして、それでもおずおずと料理を口に入れた。
ふふ……ひな鳥に餌をやっているみたい。
って、あ、これ間接キスだ。
だからティティの顔が赤いのか。
普段からもっと凄いキスをしているので間接キス程度で……って思うかもしれないけど、たぶん普段のを思い出しているからこそなんだろうね。
くっ……今すぐキスをしたくなってきたけど、さすがにこの場では自重だ。
一方、エルシィさんとカトラさんは、男性客達に囲まれている。
普段は男勝りなエルシィさんも、ドレスを着ると別人のように綺麗だ。
どこかの令嬢だったと聞いたこともあるけれど、確かに納得の気品である。
そしてカトラさんは、ドレスだと胸の破壊力が更にヤバイ。
胸元が露出しているので、大きな胸にどうしても視線が誘導される。
だから男性客には大人気なのだが、駄目だぞ、そのおっぱいはエルシィさんと私のものだ。
まあ2人も、上手く男達からの誘いをあしらっているようだけど、そろそろ物理的に排除した方がいいかな?──と、思い始めたその時、
「ソイゲント男爵閣下のご入場──!」
そんな声が聞こえてきた。
ついに来たか。
この領主とどのような関係を構築できるかで、今後の私達の命運は大きく変わるんだよなぁ……。
最悪の場合は、敵対することも覚悟して対処しよう……。
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