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2 着ていく服が無い

 領主の使者が去った後、私達は大きく溜め息を()いた。


「この町に領主が来ていたのか。

 今まで何もしなかったくせに……」


 エルシィさんが毒づくけど、確かに魔物の群れの襲撃に対して領主が動いたという話は聞いたこともないし、町の復興に対して支援してくれたという話も聞かない。

 この時点で、かなり印象が悪い。


 そんな領主が今頃になって出てきたということは、それなりの理由があるのだと思う。

 つまり──、


「これ……私達が目的ですよね……?

 魔王候補を倒したは私達を配下に加えれば、他の貴族に対して大きな顔ができるはずですし……」


「でしょうね……」


 というか斡旋所には、私達のことを秘密にして欲しいと言っていたんだけどなぁ……。

 でも、貴族に情報の開示を要求されたら、話さない訳にはいかないか……。


 たぶん晩餐会では、絶対にトラブルになると思う……。

 勿論、トラブルメーカーのカプリちゃんは参加させない……というか今はいないし。

 その上でも──の話だ。

 絶対に領主から、無理難題を言われる流れなんだよなぁ……。 


 それにしても、困った。

 晩餐会への出席は不可避だ。

 しかしそんな上流階級のパーティーに、着ていけるような服なんて持っていない。


 そんなことで悩んでいると、キャロルさんが言った。


「それなら、店の倉庫に在庫があるわよ。

 サイズが合っているのかどうかは、着てみないと分からないけど」


 ……あるんだ。

 この世界の衣服って、裕福な人なら服屋でオーダーメイドしたものを着るし、そうではない貧しい者は、親か自分の自作したものを……ってことが多いので、やっぱりキャロルさんの店は革新的なんだな……と改めて思う。


 そんな訳で、みんなで服を選んだんだけど、当然のように私は着せ替え人形にされた。

 みんな「可愛い、可愛い」と喜んでくれたのはいいのだけど、なかには──、


「これは……!」


「えっちですね……えっちです」

 

「ご主人……はぁはぁ!」


「~~!!」

 

 バニーガールみたいな服もあった。

 まあ、耳と尻尾は兎ではなくて猫だったけど。

 それを着た私を見るみんなの目がおかしい。

 興奮していて、今にも寝室に連れ込まれそうな怖さがある。

 まだ昼間なので、勘弁してください!


「……それはお姉ちゃんも、どうかと思うな。

 いや、マルルは何を着てても可愛いけどね?」


「私が好きで着た訳じゃないよ!?

 みんなに無理矢理、着せられたんだからっ!!」


 今までの流れを、見ていたでしょ!?

 いや、お姉ちゃんもニヤニヤしているから、半ばからかっているというのは分かるんだけど……。


 結局、私の衣装は無難に、魔法少女っぽい物へと落ち着いた。

 え……これで無難なの?


「他のはサイズがまったく合わないわねぇ……。

 でもそれなら、少し仕立て直せばなんとかなるから……」


「う~ん、サイズが合うのでこれが1番まともだというなら、仕方がないか……」


 さすがにバニーガールは論外だしね。


「ご主人、素敵ですよ!」


「ありがと、ラヴェンダ。

 ラヴェンダは、衣装を選ばなくていいの?」


 そんな私の何気ない言葉に、ラヴェンダの顔が暗く沈む。


「あの……獣人の私は、そういう場には参加できないので……」


 あ、この世界では、獣人に差別意識があったんだっけ。


「そんな……!

 ラヴェンダも大切な私の仲間なのに……!」


「でも、私が行けば、色々と陰口を言われるかと……。

 それだけならまだいいのですが、貴族の方の怒りに触れるとか、ご主人にもきっと迷惑がかかります。

 だから行かない方がいいのです」

 

 そうかもしれないけど……!

 なんだか悔しいよ……。

 だからいつかラヴェンダが、堂々と生きていける世界にしたい……と、私は思った。

 

「それじゃあ、行かなくてもいいから、今ここで綺麗なドレスを着たラヴェンダを、私に見せて?」


「ご主人……!」


 ラヴェンダは感激しているけど、私ばかりが着せ替え人形になるのは不本意だしね。

 私も楽しませてもらおう。

 まずはさっきのバニーを……って、尻尾がある獣人用の服って、あまり無いんだな。


「キャロルさん、今度獣人向けの服のブランドを立ち上げましょう。

 たぶん私達だけの独占市場になりますよ」


 獣人相手に商売をしている商人って、いないっぽいしね。


「あら、面白い考えね。

 確かにそうかも……」


 これで可愛い服装の獣人が増えたら、獣人に対する印象も変わるかな?

 変わると、いいな……。

 まあ、目立つとそれだけ理不尽に絡まれることが増えそうだから、最初は自衛できる実力があるラヴェンダに着てもらって、人間からも憧れの目で見てもらえるようになってもらえば……。

 

 その為には私達パーティーがもっと有名になって、人々から尊敬を集められるようにならないと駄目かな?

 しかもラヴェンダには、獣人であることを隠さないように振る舞ってもらわないといけないし、何かあっても私達がちゃんと守ってやれるような体制を構築しないと……。


 でも現状でも領主に目を付けられているし、有名になるというのも、なかなかままならないものだねぇ……。

 いつも応援ありがとうございます。

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