幕間 姉の気持ち2
昨日は間に合わなくて済まぬ……。
そして今回は、かなり前にやった姉パートの続きです。
あたし──アルルは、オークから逃げつつも、追いついてきたオークを1匹ずつ屠り、村の外へと向かっていた。
かなりの数のオークを引き付け、そして倒してきたが、これで少しは妹のマルルが逃げる為の手助けになっただろうか?
マルルはあたしの宝だ。
なんとしても生き延びて欲しい。
「っ……!!」
あたしが村から出て、近くに流れる川にかかっている橋に辿り着くと、向こう岸にはオークの姿が見える。
結構な数だ。
そして背後からも、オークが追いついてきた。
……ちっ、挟まれたか……。
狭い橋の上ならば1度に相手にする敵の数も限られるので、すぐに負けるということは無いだろう。
最悪の場合は、川に飛び込もう。
溺れるかもしれないが、運良く岸に流れ着く可能性もある。
まだこの命、諦めないぞ!
それからどれだけ戦ったのだろう?
マルルが言っていた「魔力」とやらが切れたのか、思うように技が出せなくなってきた。
身体も傷だらけだ。
そろそろ限界かな……。
あたしはそう思い、川へ飛び込むことを考え始めた。
その時──、
「な……!?」
あたしの肩に槍が突き刺さっていた。
これは村の人達が、オークを倒す為に作った物だ。
殺した相手から奪ったのか!?
まさかオークに武器を使うほどの知恵があるとは……というのは、ちょっと舐め過ぎていたな……。
あたしの身体はよろめき、川へと落ちていく。
元々そのつもりだったとはいえ、槍で受けた傷はかなりの深手だ。
いかんな……泳げる気がしない。
水の中に落ちたあたしの身体は、思うように動かず、昏い水の中へと沈んでいく。
戦いの中で限界が近づいていたあたしの意識は、すぐに薄れていった。
そのおかげて、呼吸ができない苦しさをほとんど味わうことが無かったのは、幸いだったと思う。
ああ……あたしは、ここで終わりか……。
マルル……もう一度会いたか──……。
「う……あ……?」
再びあたしの意識が戻った時、あたしの身体は水中から引き上げられていた。
いや……それどころか、空中に浮いている……?
なんだこれは……?
「ふむ……ほぼ止まりかけていた心臓が動き始めた。
貴様は我が血を受け入れ、眷属となった」
「な……に……?
誰……お前は……?」
目の前に男がいて、彼も空中に浮いている。
あたしを浮かばせているのも、こいつの仕業か……?
「我が名はツングーダ。
いずれ偉大なる魔王となる者だ……!」
「ま……おう……」
あたしの意識は、その言葉の意味を理解する前に、再び沈んでいく。
自分の身に何が起こったのか、それを理解したのは、次に目覚めた時だった。
あたしはいつの間にか、人間ではない存在にされていた。
吸血鬼という、上位の魔物だ。
ツングーダ曰く、
「貴様の戦いぶりを見て、オークどもよりも使えそうだったから、我が眷属へと加えた。
私の為に、人間を狩るのだ。
そうすれば、相応の待遇で扱ってやる」
と、人間に敵対することを要求してきたのだ。
この、まだ人間であるあたしに──。
「断るっ!!」
「逆らうのならば、自由にしろ」
ツングーダは、あたしに剣を手渡してきた。
「己の無力さを、思い知らされるだけだと思うがな」
「この……!」
あたしは持てる力のすべてを使って戦った。
なんだか前よりも、身体が動く!?
力が出る!
これが吸血鬼の、身体能力なのか!?
あたしは以前よりも強くなった。
それにも関わらず──、
「ぐはっ!」
「もう、動けぬか?」
あたしはツングーダに対して、手も足も出なかった。
そして倒れ伏すあたしに対して、ツングーダはトドメを刺すかのように、鋭い言葉を吐く。
「どのみち、いずれ貴様は、人間の血を求める。
いくら我慢しても、必ず人間の敵になる運命なのだぞ?
だからそうなる時まで、好きなだけ無駄な抵抗をするがいい」
「……!!」
ツングーダの言う通り、あたしは血を欲するようになった。
普通の食物を食べることもできるが、それだけでは満たされない。
その空腹とは違う血に対する渇望は、血を飲むこと以外で消えることはなかった。
あたしはオークなどの魔物や、動物の血を飲むことで我慢した。
だけどそれらは不味い。
一方で人間の血は美味しい──と、本能的に理解できる。
それはツングーダがあたしに見せつけるようにして飲む、人間の血の香りを嗅ぐだけでも分かった。
「どうした?
私の飲み残しは、いらぬのか?」
あたしの目の前には、ツングーダに血を吸われて、すでに事切れた女性の身体が横たわっている。
襲撃した隣村から攫っててきたらしい。
それに噛みつけば、あたしはきっと満足できるだろう。
しかしその一線を越えたら、あたしは2度とマルルに顔見せできないような気がした。
あたしにとっては血よりも、マルルの存在の方が大切だ。
あたしは我慢して我慢して我慢して──代替としてそれ以外の血を飲み続けても満たされず、その結果──、
「ふむ……禁断症状で、廃人になりかけているな……。
このままでは、使い物にならなくなる。
こうなれば、1度人間であったことを、忘れてもらおうか……」
衰弱した状態に陥ったあたしに、ツングーダは言った。
「あたしに……何を……するつもりだ……?」
「少し、余計な記憶を、取り除くだけだが?」
──記憶!?
やめろ……あたしから大切なマルルの記憶を奪うな……!
今のあたしには、唯一の宝なんだ……!
だけどあたしが、ツングーダに敵うはずもなく──……、
あれ……あたし、何をしていたんだっけ……?
次回に続きます。
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