20 変なフラグが立った
この章も今回が最後です。
カプリちゃんの拳は、ツングーダの顔面に突き刺さった。
そこに生じた衝撃は凄まじく、彼の巨体は地面に叩きつけられ、そこがクレーターのように陥没する。
凄っ!?
普通ならばこれだけで死んでもおかしくない一撃だけど、まだ顔の原形をとどめているツングーダって、改めてやっぱり凄い奴なのかもしれない……と思った。
が、そんな奴を一方的に叩きのめしているカプリちゃんって、一体何者なんだよ……って話になるんだけどね……。
そんなカプリちゃんの怒りはまだ収まっていないようで、更にツングーダの身体を持ち上げ──、
「なっ、何を……!?」
「ふんっ!!」
空中高くへと投擲した。
うわぁ……ロケットみたいな勢いで、上昇していく……。
そんな空中のツングーダを見上げるカプリちゃんの口からは、眩い光が漏れ始めた。
あ~……終わったな、これ……。
「お、おい、やめろっ!!
何故、こんなことをするっ!?
今更魔王の座が欲しくなったのか!?
だから私が邪魔になったのか!?」
混乱しているのか、まったく見当外れのことを口走るツングーダ。
そんなことで、カプリちゃんが怒っているのではない。
彼女が大切にしている私を、あんたが害そうとしたからだよ。
……でもあいつ、結構無視できないようなことを言っているような……。
魔王の座が欲しくなった……って、まるでカプリちゃんにも魔王になる資格があるかのような言い草だ。
え、まさかそういうことなの……!?
混乱しそうになっている私の前で、カプリちゃんは口から炎──とはもう言えない、光線のごときものを吐き出した。
ああこれ、前世の怪獣映画で同じようなのを見たことがある。
私の「火炎息」と、全然違うなぁ……。
「やめ、やめ、ああぁぁぁぁぁーっ!!」
ツングーダはそんな叫び声を残して、光線に飲み込まれた。
そして光線が消えた後には、パラパラと塵のように小さな焼け残りが落ちてくるだけで、他には生物の形跡らしきものは一切残っていない。
いくら「無限再生」があったとしても、あの状態からは復活できないだろうね……。
あ、私達のレベルも上がっている。
これは確実に倒しているね。
ふむ……なんだかレベルアップに伴って、「下賜」ってスキルも増えている。
これはどのように使うスキルなんだろ……?
実際に使って見ないと、どういう効果があるのか分からないのが、不便なところだよねぇ……。
鑑定のスキルがあればいいのに。
そんなことを考えていると、カプリちゃんが抱きついてきた。
「マルル、終わりましたでーす」
「あ、ありがと……。
凄かったね」
本当にあっさりとまぁ……。
さすがカプリちゃん。
魔王候補も敵じゃないな。
というか……、
「カプリちゃんは、魔王候補なの?」
「あ~……昔魔王に誘われたことがありますけど、面倒臭いので断りましたー」
私に問われて、カプリちゃんはちょっと気まずそうな顔をした。
魔王が人間からどう思われているのか、それを理解しているってことかな?
そして魔王と同一視はされたくない……と。
「ああ……そうなの……」
魔王候補だった関係で、ツングーダとは顔見知りだったという訳か……。
そもそも魔王本人とも、面識があるみたいだけど……。
「そうだ、マルルが魔王をやってみますかー?
そうなれば、ああいう馬鹿な奴から襲われなくなりますよー。
我に命令できるマルルなら、資格はあると思うでーす」
「いやいやいやいや……」
なんでそうなるの?
どちらかというと、魔王候補を倒した私達は勇者パーティーだよ?
でも魔王のこととか、カプリちゃんは色々と知っていそうなので、今度じっくりと話し合う必要がありそうだな……。
他にも魔王候補がいるのなら、放置できないかもしれないし……。
だけどその前に、怪我をしているみんなの手当とかをしないと……。
まずは気絶しているラヴェンダを起こして……。
「ほら、ラヴェンダ!
しっかりして。
もう戦いは終わったよ」
「う~ん……ご主人、お散歩の時間?」
おい駄犬、なに寝ぼけているんだ?
私、結構心配したんだけど……。
……まあ、誰も死ななくて良かったよ。
それにお姉ちゃんも取り戻せたし、文句の付けようのない結果なんだけど、ちょっと……いや、かなり疲れた……。
しかしこの後には斡旋所への報告もあるし、色々と面倒なことになりそうだなぁ……。
今後のことを考えると、魔王候補の危険性について報告しない訳にはいかないんだけど、そうなると斡旋所だけで済む問題にはならないよね……。
国と関わるのは嫌だなぁ……。
あ、遺跡についても、報告する必要があるのかな?
場合によっては調査をすることになるのかもしれないけど、私達も参加しなければならなくなるのだろうか……。
いや、カトラさんは、嬉々として参加しそうな気がするけれど……。
まあ、これからのことについては、明日以降に考えようか。
今は家に帰ってゆっくりとしたい。
「カプリちゃん、家まで送ってくれる?」
「いーですよー。
ディナーをご馳走になるでーす!」
「うん、今日は頑張ってくれたから、食べ放題だよ」
料理を作るティティ達には、頑張ってもらおう。
「それじゃあお姉ちゃん、私達の新しい家に帰ろう?」
私はお姉ちゃんに右手を差し出す。
そしてお姉ちゃんは、私の手を取って答えた。
「……ああマルル、帰ろう!」
こうして私は、ようやく家族を取り戻したのだった。
次回は幕間のエピソードですが、明日には間に合わないかも……。




