19 ラスボスかな?
目の前にいる吸血鬼・ツングーダは、魔王ではなかった。
でも将来的には、魔王になる可能性があるという。
「つまり、魔王候補……ってこと?
だから魔王になる為の実績作りとして、村や町を襲って……!?」
「……そうだが?」
そんな……!!
「そんなことの為に、私の両親や村のみんなが死んで、お姉ちゃんも吸血鬼にされちゃったって言うの……!?」
そんな私の非難の言葉を、ツングーダは平然と受け止めている。
「我らが餌と、オークやゴブリンらの繁殖にしか使えぬ人間が、この世界の支配者面ではびこっていることの方がおかしいのだ。
貴様らには、家畜の扱いこそが相応しい。
その家畜どもが、魔王に至る為の礎となれるのだ。
光栄に思うがよい!」
あ……駄目だ、価値観が違いすぎる。
だからこいつだけは、絶対に魔王にしちゃいけない。
こいつが魔王になったら、間違いなく人類に全面戦争を仕掛け、それに勝利したら人類を弾圧することだろう。
「さあ、貴様達が何者の邪魔をしているのか──そしてそれがどれほど罪深いのか、それが理解できたか?
理解できたのならば、自らの首を切って、その血を私に捧げるがよい」
「この──ふざけるなっ!!」
その時、お姉ちゃんがツングーダに斬りかかった。
ある意味では、この場で1番の被害者はお姉ちゃんだ。
ツングーダに対して、我慢できない想いもあったのだろう。
そんなお姉ちゃん振るった剣は、高密度の魔力を纏っていて、必殺の威力を有しているように見える。
おそらく「斬鎧」ってスキルかな?
たぶんお姉ちゃんにとって、最強の一撃なのだろう。
「ぐっ……!」
しかしお姉ちゃんの斬撃は、ツングーダの左腕に食い込みはしたけど、切断するまでには至っていなかった。
あれじゃあ、すぐに再生されてしまうだろう。
「残念だよ……。
少しは使い物になると思って、眷属に加えてやったのにな……」
「そんなの、あたしは望んでいない!!」
「では、ただの餌として消えろ……!」
「くうっ!!」
次の瞬間、ツングーダは右手でお姉ちゃんの胴体を鷲掴みにして持ち上げ、その首筋に噛みついた。
うわっ、お姉ちゃんの生命力が、物凄い勢いで減っていく!?
あいつ、お姉ちゃんの血を飲み尽くす気だ!!
えーい、もう一刻の猶予も無い!
魔力が万全とは言えないけれど、先程のツングーダとの会話で、ある程度は回復時間を稼げた。
もう一か八かで、カプリちゃんを「眷属召喚」する!!
「出でよ我が友、カプリファス!!」
「!?」
私の言葉に、ツングーダは驚愕の表情を浮かべた──のかな?
顔が吸血コウモリなのでよく分からないけど、大きく表情が変わったことだけは確かだ。
そしてお姉ちゃんへの吸血行為も、止まっている。
「き……貴様、今なんと言った……!?」
「え? え?」
思わぬツングーダの反応に、私は困惑する。
しかし彼は何やら慌てた様子で、お姉ちゃんを投げ捨てた──、と思ったら、私の方に詰め寄ってきた。
うわ、なになに!?
怖いっ!?
「ゴアァァァァっ!!」
まあ、クルルが横から体当たりをして、ツングーダを止めたけどね。
「ナイス、クルル!」
しかしそれでもツングーダは、クルルの存在が眼中にない様子で、私に問いかける。
「なんと言ったのかと、聞いておるっ!!」
「え……と、カプリファス……?」
もしかして、知り合い……?」
「そいつを、喚んだのか……?」
「……喚びましたが?」
「────っっ!?」
その答えに、ツングーダは明らかに動揺した様子だった。
そして彼がこれからどうするかを決めかねているうちに、空中に大きな魔力の気配が生じる。
そこから──、
「ハ──イ、呼ばれたので来たでーす!」
と、何も無かったはずの空間に、カプリちゃんの姿が浮かび上がった。
「貴様……っ!?」
「おやー?
何処かで見たフェイスがいるでーす!」
やっぱり知り合いなの!?
でも、2人がどんな関係なのか……とか、今は気にしている場合ではない。
「カプリちゃん、そいつが私達を殺そうとしているから、どうにかしてっ!」
「……は?」
いつも陽気なカプリちゃんの表情が、冷たく固まった。
あ……これ、相当怒っているな……?
初めて見る顔かも……。
「我のマルルを殺す……?
何でそんなゴッドをも恐れぬ大罪を……?」
いや、神って……。
ともかく、激怒しているらしいカプリちゃんが、ツングーダに詰め寄っていく。
その迫力に押され、後退するツングーダ。
「な、何故だ!?
何故、貴様ほどの存在が、そのような矮小な家畜と一緒に……!?」
「は?」
ツングーダは慌てていたのか、失言で更にカプリちゃんの怒りの炎に油を注いだ。
「お前、もう口を閉じるデースっっ!!」
「ゴブっっっ!?」
カプリちゃんはツングーダの顔面を、思いっきり殴りつけた。
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