17 吸血鬼との戦い
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「むっ……また私に逆らうのか。
無駄だと、いつになったら理解できるのだ?
いい加減に、我が下僕としての立場を弁えよ!」
攻撃に参加したお姉ちゃんに向けて、吸血鬼はその目を光らせた。
おそらくお姉ちゃんの動きを制限するような、何らかのスキルを使ったのだと思う。
だけどお姉ちゃんには私の「絶対命令」によって、最早誰からの精神的な支配も受けつけないようにと、命じてある。
これはもう、私以上の支配力がある者じゃないと、どうすることもできないはずだ。
まあ、あの吸血鬼は私よりもステータスが高いお姉ちゃんでも勝てないというので、私の「絶対命令」を上回る支配力を持っている可能性もあるけれど、我が『百合』による眷属との繋がりを舐めるなよ……!
既にお姉ちゃんは、あの吸血鬼の眷属だけではなく、私の眷属でもあるのだ。
それならば吸血鬼によるお姉ちゃんへの影響力は、確実に落ちているはずだ。
「誰が、下僕だっ……!!
あたしは、マルルだけのものだっ!」
「なに……!?」
お姉ちゃんは吸血鬼による支配をはね除け、その身体に斬撃を撃ち込む。
そのことに吸血鬼は驚愕の表情を浮かべる──が、剣で斬り付けられた部分が霧に変化して、ダメージを感じさせなかった。
あれが「霧化」のスキル──って、物理攻撃が無効なの!?
なるほど、それならばなおのこと、私の狙いは成功させなければならない。
吸血鬼がお姉ちゃんの攻撃で、動揺した今がチャンスだ。
「えーい、強制転移!」
私は全員を、転移魔法で地上へと運んだ。
外はまだ昼で、強い太陽の光が降り注いでいる。
吸血鬼と言えば日光が弱点だよね。
とはいえ、新人吸血鬼のお姉ちゃんですら「日光耐性」を持っていたので、あの吸血鬼も当然それを持っていることだろう。
それでも弱体化は期待できる。
まあ、それはお姉ちゃんにも言えることだけど──、
ここで「眷属強化」!
お姉ちゃんの弱体化は、これで補う。
当然他のみんなも強化されているから、こちらは更に有利になる。
「なんだこいつら……!?
急に手強く……っ!!」
吸血鬼は困惑する。
しかし──、
「ちっ、攻撃が当たらないっ!!」
やはり「霧化」による、物理攻撃の無効はちょっと厄介だよね。
でもだからこそ、その対策の為にも地上に転移したのだ。
「カトラさん、標的の近くでも味方が吹き飛ばない程度の力加減で、継続的に『嵐』を使えますか?」
「え? ええ、やってみます」
カトラさんの大呪文「嵐」は、突風を巻き起こして敵を吹き飛ばす術だけど、私はこれを使う為に地上へと転移した。
常に強風に晒された状態で吸血鬼が「霧化」を使えば、霧となった部分は風によって霧散し、結果的に存在を維持することが難しくなっていくだろう。
地下の狭い空間だと、霧散しても再集合できる可能性もあるけど、地上で霧散してしまえば再集結することはできないはずだ。
だから吸血鬼はもう、「霧化」を多用することはできないと思う。
ただしあまり強い風の中では、仲間達も行動できなくなるので、カトラさんには弱めに術の行使をお願いした。
どうやら彼女は上手くやってくれたようで、これならば仲間達の攻撃にも大きな影響は無いだろう。
「みんな、今がチャンスだよ!」
物理攻撃無効が使えなくなった吸血鬼なら、下位竜族の方がまだ手強いような気がする。
竜族の防御力の高さはちょっと異常なので、低レベルの人間の攻撃がまったく通らない……ということもあるからなぁ……。
それに対して吸血鬼の見た目は人間なので、そこまで異常な耐久力にはならないだろう。
実際、今や吸血鬼のお姉ちゃんですら、レベルが下のクルルにも「耐久力」の数値では負けているのだし。
……人間は初期値が高くないからね……。
だからあの吸血鬼が余っ程高いレベルじゃなければ、こちら側からの物理攻撃は通る。
「くっ……このっ!!
人間風情が……!!」
「ははっ、先程までの余裕が無くなったな!!」
うん、狙い通り吸血鬼が守勢に回り始めた。
ただ、たぶん吸血鬼は「無限再生」のスキルを持っているので、小さなダメージはすぐに回復してしまう。
1度に大きなダメージを与え続けなければ、勝ち目は無い。
それに吸血鬼の攻撃スキルを封じた訳ではないので、油断は禁物だ。
「反撃に気をつけて!!」
私が警告を出した瞬間、
「ぬあああぁぁーっ!!」
吸血鬼の身体が、黒いオーラに包まれた。
お姉ちゃんも持っている、「暗黒闘気」とかいうスキルか!?
そのオーラは海胆のトゲのように何十本と伸び、みんなに襲いかかった。
「ぐっ!?」
「くあっ!!」
今の攻撃は、ちょっと躱しきれないだろうな……。
一直線に伸びるのではなく、標的の動きに合わせて変則的な動きになっていたし。
ただ本体から距離が離れると威力は落ちるようで、とっさに後退したみんなが受けたダメージは、致命傷にはなっていないようだ。
だからみんなは後方に下がって、遠距離攻撃に切り替えて対応する。
けれどやっぱり、至近距離からの直接攻撃の方が、効果的っぽいなぁ……。
いや、「暗黒闘気」が防御障壁の役割もしているのかな?
う~ん、こうなったら……。
「みんな、後退して!」
私の攻撃に巻き込まないように、みんなを下がらせる。
そしてみんなが、安全圏まで下がったのを確認してから──、
「極寒!」
カトラさんの「嵐」の風に、私の「極寒」の冷気を乗せた。
「くっ……かぁ……!?」
吸血鬼の身体が凍結していく。
下位竜族でも瀕死になる攻撃だ。
やはり吸血鬼に対しても有効らしい。
「カトラさん、もう『嵐』は解除してトドメの準備を」
「あ、はい!」
カトラさんが「嵐」を解除し、次の攻撃呪文の術式を開始する。
その間に吸血鬼は動き出そうとするけれど、そんな時間はやらないよ!
「ガ、ガアアアアーァァァァっ!?」
私の口から吐き出された「火炎息」が、吸血鬼を飲み込む。
炎が消えたその後に残ったのは、黒焦げになった吸血鬼の姿だった。
だけど──、
「グ……アァ……」
まだ生きている!
「カトラさん、トドメ」
「ハイっ!!」
カトラさんが発動させた「雷」が、眩い光を伴って吸血鬼に降り注いだ。
明日は用事があるのでお休みです。明後日も間に合わなかったら済まぬ……。




