16 姉、復活
私は「絶対命令」のスキルで、お姉ちゃんに「私のことを思い出して」と、命令してみた。
お姉ちゃんが何故記憶を失ったのか、その原因は分からない。
1度死んだからとか、お姉ちゃんを吸血鬼にした者によって封印されたとか、色々と理由はあると思うんだけど、私が使った「絶対命令」は自らの命を捨てさせるほどの強制力がある。
その強制力があれば、記憶を蘇らせることもできるかもしれない。
ただ、それは簡単なことではないだろう。
実際、お姉ちゃんは──、
「うっ、ぐうぅぅ……っ!?」
頭痛をこらえるているかのように……というか、実際にこらえているのだろう。
頭を抱えて苦悶している。
強引に記憶を蘇らせようとしているので、脳に凄まじい負荷がかかっているのだと思う。
でもお姉ちゃんには、「無限再生」のスキルがあるので、ちょっとやそっとの負荷を脳にかけても死にはしないだろう。
……まあ、本当に危なくなったら、命令は解除するつもりだけど、その必要は無いようだ。
やがてお姉ちゃんの苦しげな呻き声は途切れ途切れになり、荒かった呼吸も落ち着いていく。
お、もう大丈夫かな?
「……お姉ちゃん?」
「マ……マルル?」
私の名前……!!
成功した!?
「マルル!!」
「わっ!?
お姉……んっ!?」
お姉ちゃんは私に抱きつき、そして即私の口を自分の口で塞いだ。
さっきまで私の血を吸っていたから、血の味が私の口の中にも広がってくる。
「んっ、んんっ……」
それから暫くの間、私の口の中で激しくお姉ちゃんの舌が踊った。
味を確かめて、私の存在を確認しているかのように──あるいは私の口の中に流れ込んだ血を、全部吸い尽くすように……。
い、いきなり濃密すぎる……!!
「ぷはっ、あたしのマルルぅ。
少し背が伸びた?」
「もぉ……お姉ちゃんたら……!」
突然の過激な挨拶には驚いたけれど、これでようやく姉妹の再会が成った。
だけどそれを、ゆっくりと喜んではいられない。
「お姉ちゃん、現状がどうなっているのか、理解できてる?」
「え~と……うん、大体。
ゴメンね、マルル。
血を沢山飲んじゃって……。
大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
お姉ちゃんは、自分が吸血鬼になったことも把握しているようだ。
「この奥にいるのは、お姉ちゃんを吸血鬼にした奴?」
「あ、ああ……そうだな。
オークとの戦いを見て、私が戦力になると考えたようだ」
「そう……じゃあ、お姉ちゃんを苦しめた分だけ、そいつも苦しめないと」
私から漏れ出た殺気に反応したのか、お姉ちゃんはちょっと引いた。
「あ、ああ……でもあいつは強いぞ?
私では勝てないくらいに……」
「うん、でも大丈夫だよ。
私達は、もっと強いと思うから。
少なくとも私の仲間達は、まだ負けていないよ」
ステータスを見る限り、みんなが危険な状態に陥っている様子はない。
「そうなのか?」
「そうだよ。
あれから私だって、強くなったんだから!
今から2人で加勢すれば、きっと勝てるよ、お姉ちゃん!」
私はお姉ちゃんの手を引く。
お姉ちゃんは私のことを心配しているみたいだけど、最悪でもカプリちゃんを呼べばどうにかなるから、この戦いを避ける理由が無い。
それよりも、元凶を逃がしてしまって、将来に禍根を残してしまう方が怖い。
「あ、そうだ。
お姉ちゃん、これからは私以外からの命令を、無条件で聞いちゃ駄目だよ?
それを受けるかどうかは、お姉ちゃんが自分の意思で判断するの」
スキル「絶対命令」で、お姉ちゃんを縛っておく。
お姉ちゃんを吸血鬼にした奴が、その精神を支配するようなスキルを持っていてもおかしくはないからだ。
「う、うん」
お姉ちゃんは顔を赤くして、まんざらでもない表情をしている。
あれ? 意外と束縛されるのが好きなタイプ?
「お姉ちゃん、早く行こう!」
私達は闘技場を抜けて、暗く長い通路へと踏み込んだ。
そこを抜けると、再び広間に出る。
その中心には、背が高く黒ずくめの人物がいた。
あ~……美形だけど、男かぁ……。
私の『百合』は効かないなぁ……。
たぶんこいつが、お姉ちゃんを吸血鬼にした奴だと思うけど、私の能力の一部が効かないというのはちょっと痛いね……。
ともかく私達も、戦いに参加しよう。
「お待たせしました!
大丈夫でしたか?」
「ゴメン、まだ倒せていない」
「いえ、お姉ちゃんを取り戻す時間を、稼いでくれただけで十分です」
「上手くいったのですね?」
「はい!」
実際、みんなが負けそうになっていたら、私はお姉ちゃんのことを無視してでも助けにいかなければならないところだった。
そうはならなかったので、みんなはよくやってくれている。
しかし彼女達の実力でもまだ、戦闘が終わっていないというのは異常なことだ。
だって彼女らには、下位竜族を倒せるだけの実力があるのだし。
つまりあの男は、下位竜族以上の実力がある。
まあ、カプリちゃんほどの迫力は感じないので、最悪でも中位竜族と同等程度ってところかな?
それならばなんとか、勝ち目はあるだろう。
私とお姉ちゃんが加勢すれば……!!
あと、相手の有利な状況には持ち込ませない。
「お姉ちゃん、あいつの気を逸らして欲しいんだけど、お願いできる?」
「ああ、任せなさい!」
そう答えたお姉ちゃんは剣を抜き、吸血鬼に斬りかかっていった。
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