14 お姉ちゃんを取り戻せ
近くでその顔を見ると、もう間違いようがなかった。
そこにいたのは、悪の組織の女幹部みたいな格好をしているけど、私のアルルお姉ちゃんだ。
やっぱり生きていた……!
しかしこれで、生き別れていた姉妹が、感動の再会……とはならなかった。
お姉ちゃんは何故か、私に──いや、私達に攻撃的な視線を向けているからだ。
私はどういうことなのか確かめる為に、前に出てお姉ちゃんに話しかける。
「あの……お姉ちゃ──」
「誰だ、お前は?」
「え……?」
お姉ちゃんの声が、私の言葉を遮る。
それは私が聞き慣れた声そのものだったけれど、発した言葉の意味は、一瞬分からなかった。
え……まさか、私のことを憶えていないの?
「アルルお姉ちゃん、私だよ!
妹のマルルだよっ!
この前も、私のことを助けてくれたでしょ!?」
私の呼びかけに、お姉ちゃんは苦しげに顔を歪める。
「お前なんか、知らないっ!!
……知らないのに、お前の顔を見ると、心がザワつくっ……!!」
お姉ちゃん、記憶を失っているっぽいんだけど、それでも私のことは心の何処かで憶えているみたい……。
だけどそれが思い出せなくて、もどかしいんだ……!
「お姉ちゃん、もう大丈夫だから!
ゆっくり色々と思い出していこ?」
私は更にお姉ちゃんへと歩み寄っていく。
だけど彼女は──、
「動くなっ!!」
「お、お姉ちゃん……!」
剣を抜いて、私達を威嚇した。
「お前達を、これ以上先に行かせないように言われている……!」
言われている……?
誰かに命令されているってこと?
確かにお姉ちゃんの背後には、何処かへ続く通路の入り口が見えるけれど……。
「!!っ」
その時、お姉ちゃんが動く。
私は慌てて、お姉ちゃんの前に割り込んだ。
今、私を無視して、みんなに攻撃しようとした……っ!!
だけど私には攻撃できないみたいで、お姉ちゃんの動きは止まった。
たとえ記憶を失っていたとしても、お姉ちゃんが女性である限り、私の『百合』の影響からは逃れられないようだ。
ならば私が、お姉ちゃんを足止めする。
「みんな、先に行って!
たぶんお姉ちゃんを操っている奴がいるから、そいつを倒してきて!」
「お、おう、でも大丈夫か?」
「私には『百合』があるから!」
「……分かりました!」
みんなが私とお姉ちゃんを、迂回して走り出す。
「ご主人、危なくなったら、いつでも呼ぶんですよ!」
「みんなもね!」
「グゥ!(うん)」
私には「念話」も「転移」も使えるから、いざ仲間がピンチになれば、すぐに助けに行くことができる。
そもそもクルルとキララのステータスは、エルシィさん達の倍前後を誇る項目もあるので、カプリちゃんクラスの化け物が出てこない限り、負けることはまず無いと思うけど……。
「くっ……!」
「駄目っ!!」
お姉ちゃんがみんなを追おうとするけど、私はその前に立ちはだかる。
ただそれは、魔法攻撃でお姉ちゃんの動きを牽制した上で、なおもギリギリだった。
私のレベルもかなり上がって、もうちょっとで50レベルになるけど、それでもお姉ちゃんの方が「速度」の数値が高いみたい……。
なんでそんなに強くなっているのか分からないけれど、たぶんまともに戦ったら私には勝ち目が無いかもしれないな……。
「邪魔をするな!
ここであいつらを倒せば、お前だけは命を助けてくれると言われているんだ!
お前は、あたしがもらうことになっている!」
「は?」
お姉ちゃん、まさか私が人質に取られているような状態なの?
記憶を無くしていても、私に対する執着が残っているから、それを誰かに利用された……?
「お姉ちゃん、誰にそんなことを言われたのか知らないけれど、なんでそいつの言うことを聞かなきゃいけないの?
むしろ私達と協力してそいつを倒せば、お姉ちゃんは自由だよ?」
「……あいつは、あたしよりも強い。
あいつが本気になれば、お前達は皆殺しになるだろう。
だからあたしは……お前だけでも……」
おお……お姉ちゃんはお姉ちゃんなりに、私を助けようとしてくれていたんだね。
でも、だからと言って、仲間の命はやれないよ。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ!
私達には、たぶんお姉ちゃんと同じくらい強い仲間が沢山いるから、そいつだって倒せるよ!」
「ぐぅ……!」
だけどお姉ちゃんは、苦渋に満ちた表情で顔を歪めた。
何? 何がそんなにひっかかっているの?
そんなに難しい話では、ないはずだけど……。
「お前達となんて、協力できない……!」
「な……なんで……?」
まさか町を襲ったから、それを気にして?
だけど私は、お姉ちゃんが町を襲ったところを見ていない。
正直言って、自分の目で見ていないことなんて、お姉ちゃんと比べればどうでもいい。
「どうせあたしは、お前達には受け入れてもらえない。
お前もあたしから逃げる」
「なんで?
なんで私が、お姉ちゃんから逃げるの?
私はお姉ちゃんと、一緒にいたいよ?」
私にとって1番大切なのは、たぶんお姉ちゃんの存在だ。
そのお姉ちゃんから逃げるなんて、考えられない。
だけどお姉ちゃんは、そう考えていない。
「いいや、お前は逃げる。
こんな風になってしまったあたしから……!!
だからあたしは、お前を眷属にして、あたしから離れられないようにしたくてたまらないんだ……!!」
「え……何を言ってるの?
眷属……?」
お姉ちゃんが何を言っているのか、よく分からない。
だけどお姉ちゃんの身に起こった異変が、その答えであるようだった。
私の前にいるお姉ちゃんは、目を赤く輝かせ、そしてその口には、獣のような長い牙があった。
……人間じゃ、なくなってる……!?
「あたしは、お前の血が欲しい……!!」
吸血鬼だ、これ──っ!?
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・いいね・感想などの反応をいただけると励みになります。




