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9 終 戦

 夜の闇の中に浮かぶその人影に、私は何か(なつ)かしいものを感じた。

 でも、暗くてその顔は見えない。


 え~と、確か誰かが、「暗視」のスキルを持っていたような……。

 あ、クルルとラヴェンダが持っているね。

 今までは使う機会が無かったからコピーしていなかったけど、コピーして……。


 わ、夜なのに昼間のように見える!?

 それじゃあ、あの謎の人物の姿も見えるはず──。


「えっ……!?」


 距離が離れているから確実とは言えないけど、その人物の顔を私は知っている。


「あ……アルルお姉ちゃん……!?」


 私がそう(つぶや)いた瞬間、お姉ちゃんはビクリと身を震わせ、次の瞬間には物凄い速さで夜空に消えていった。

 私は慌てて念話を使う。


『カプリちゃん、今私から離れていく人の動きを、可能な限り追ってっ!!』


『はうー?

 いいですけど、もうすぐ我の感知範囲から抜けますよー?』


『方向だけでも、分かればいいから!

 あと、その気配を憶えておいて!』


『はーい!』


 ……これで後日、カプリちゃんの感知能力で、お姉ちゃんを追うことが可能だ……と思う。


「……やっぱり、生きていたんだ……」


 オークとの戦いで行方不明になっていたお姉ちゃんは、きっと何処かで生きていると信じていた。

 そして実際に今、私を助ける為に姿を現してくれた。


 ただ、何故(なぜ)私から逃げるような真似をしたのか、その理由は分からない。

 けれど今は、お姉ちゃんが生きていると分かっただけでも充分だ。


「うう……お姉ちゃん……」


 私は暫しの間、嬉しくて涙を流し続けた。




 その後、私が町に戻ると、戦いは既に終わっていた。


「マルルちゃん、大丈夫!?」


 私が目の前で(さら)われたのを目撃していたキャロルさんは、私の姿を見つけると心配そうに駆けよってきた。

 一応念話で、無事だとは伝えておいたんだけど……。


「まぁ……血だらけで酷い……!」


 あなたも結構血だらけですけどね?

 自分のと返り血が半々といったところか。

 

「あ、これはあいつ(オーガ)のなので、大丈夫です。

 みんなは?」


「無事よぉ。

 なんだか魔物も、みんな逃げちゃったみたいだし」

 

 どうやらあのオーガが死んだ直後から、生き残っていた魔物も撤退したらしい。

 やっぱりあいつが、群れを統率するボスだったのか。


 そしてカプリちゃんの報告によると、その魔物達が逃げていった方向と、お姉ちゃんが消えた方向は同じだということが分かった。

 両者に関係があるのか、それはよく分からないけど……。


 そもそも魔法が使えなかったお姉ちゃんが、何故空を飛べるようになっていたのか──とか、分からないことだらけだ。

 今すぐお姉ちゃんを捜しに行きたいけど、少なくない被害を受けているこの町を、放置してはおけないよねぇ……。


 怪我人の治療や瓦礫の撤去など、やれることは沢山あるから、順番に片付けていこう。



 それから3日後──。

 被害の状況が、少しずつ明らかになってくる。

 町を囲む塀は各所に穴が開けられ、そこから侵入した魔物によって、破壊された家も少なくはない。

 幸い我が家は、ティティの「家守(やもり)」のおかげで傷1つ無かったけれど、キャロルさんの店は新築しなければならないほどの酷い有様だ。


 しかし店を再建しても、この町で今後も商売をしていけるのかは、ちょっと微妙なところだという。

 再び魔物の襲撃が起こることも有り得るし、襲撃が無かったとしても、客は確実に減る。

 今回の襲撃で200人近い死者が出ているので、こんな安心して住めない町に見切りを付けて、他の町へ移り住むことを考えている人も多いそうだ。


 私達も別の場所に、拠点を移した方がいいのかなぁ……。

 キャロルさんが他の町で新たな店を開くというのなら、私達も付いていこうかな……とは思っている。

 それならばキラービー達も連れて行きたいから、彼女らが壊れた巣を再建する前に判断した方がいいよね?


 ただ、新天地へ行くにしても、私にはやらなければいけないことがあった。

 まずはお姉ちゃんを捜す──それをやっておかないと、この町から動くことができない。

 問題はそれをいつにするかだけど、もうちょっと町が落ち着いてからの方がいいのかなぁ……と、考えていたところ、私達は斡旋所に呼び出された。


「君達の働きには感謝する……!」


 案内された別室に入るなり、所長さんに頭を下げられた。


「え……」


 私達は自分達がやったことを吹聴した訳じゃないのに、ばれてる……!?


「町の防衛戦で活躍した正体不明の女は……君達とよくいる()だろ……?」


「……そうだが」


 ああ、カプリちゃんを連れて商店街へ買い物に行ったこともあるから、その辺から特定されたのかな?


「それに草原の方でも、激しい戦闘の形跡があったとの報告もあった。

 あの数の魔物の群れを相手にそんなことができるのは、(ドラゴン)を倒したこともある君達くらいだろう。

 君達が魔物の群れを食い止めてくれていたから、冒険者の犠牲者数もあの程度で済んだ」


 その辺の実績からも、ばれちゃっているんだね。

 しかし「あの程度」……か。

 冒険者の犠牲者はかなり多かったと聞いたけど、確かにカプリちゃんがいなければ全滅していてもおかしくなかったので、少ない犠牲だったとは言える。

 冒険者を相手に商売をしている斡旋所としては、「助かった」というのは事実なのだろうけど、犠牲者が出ているのでなんだか割り切れない気持ちだ……。


 ただ、所長さんは感謝の言葉を口にするけど、


「だとしたら何なんだ?

 特別報酬でも出してくれるのか?」


 エルシィさんの言葉を受けて、所長は渋い顔をした。

 あ、お金は払いたくないんだ。


 まあ、私達もお金の為にやった訳じゃないから、別にいんだけどさ……。

 金銭や名誉が欲しいのなら、とっくに町長や領主のところに名乗り出て、報酬を要求しているよね。

 絶対に面倒臭いことになるから、やらないけれど。


 ただ、所長さんも、何も出さないという訳ではないらしい。


「……依頼を受けてくれたら、金貨30枚を出す。

 敵の残党を追ってほしい。

 再び襲撃してくる可能性が低いほど遠くへ逃げたのならばそれでよし、まだ近くにいるのならば殲滅してきてくれ」


「やります!」


「マルル!?」


「マルルちゃん!?」


 私はつい即答をしてしまったので、エルシィさんとカトラさんに驚かれた。

 でもこの依頼は、私にとって渡りに船だ。

 だってお姉ちゃんは、魔物達が逃げた方角へと消えていったのだから……。


「済みません、勝手に。

 でも理由があるので……。

 受けてもいいですか?」


「いいけど、後で説明するんだぞ?」


「ここ数日の間は、何か思い詰めていましたものね。

 協力しますから、なんでも相談してくださいね」


「ありがとうございます……!」

 

 エルシィさんとカトラさんが(こころよ)く了承してくれたので、私達はこの依頼を受けることになった。

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