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5 一休み

『エルシィさん、下がって!

 魔力がもう残り少ない!』


『お、おう!』


 私は念話で、エルシィさんに指示を出す。

 私からは彼女のステータスを見ることができるけど、本人はなんとなくでしか魔力の残量などを把握できないので、私が確認して教える必要がある。

 

 魔力が尽きると、効果が永続的に続くタイプのスキル以外は、使えなくなってしまうからなぁ……。

 戦いの中でそれは、命取りになりかねない。


 ちなみにエルシィさんの魔力は、私の半分以下しかない上に魔力の回復を促進させるスキルも持っていない。

 完全に魔力を回復させる為には1時間はかかるけど、その間まったく戦わないという訳にもいかないんだよね……。

 だから彼女は後退して、敵による攻撃が手薄な場所でスキル頼らずに、ステータスと剣の技術だけで戦わなければならない時間がほとんどを()める。


 一方カトラさんは、魔力があってもそれ以外のステータスが低いので、接近戦を行うのは危険過ぎて最初から前には出すことができない。

 私は……実のところ、エルシィさんと同程度には接近戦はできるだけのステータスはあるんだけど、仲間のステータスや全体の状況を確認する為に、あまり前に出ては戦うことができなかった。

 勿論魔力に余裕があれば、遠距離での魔法攻撃は使っているが……。


 結果的に前衛は、クルルだけに頼り切りの状況が続いている。

 ……まあクルルは、私の3分の1程度の魔力しか無いにも関わらず、それ以外の生命力や力、耐久、体力等が私の倍ほどの数値があるので、魔力が尽きても普通に戦えるだけの実力がある。


 そんなクルルに敵を食い止めてもらいつつ、私達はじりじりと後退している。

 そろそろ全員の魔力の回復が追いつかなくなってきているので、回復の為に休憩しないと駄目だな……。


 ……とはいえ、敵がそんな猶予を与えてくれる訳が無いし、私達も安全圏まで逃げ切る余裕は無いんだけどね。

 魔力が残り少ない状態では、転移魔法を使うのも適切とは言えないしなぁ……。


 でもこの状況でならば、ティティからコピーしたスキルが役に立つ。

 それは「家守(やもり)」。

 これは元々、外敵を家に入れない為の結界を形成するもので、(いわ)わばバリアである。

 任意の魔力量を込めて形成すると、その魔力量に応じた耐久力を持つ魔力の壁が形成され、この耐久力が尽きるか術者が解除しない限りは、何者の侵入も許さない。

 これまでも野営などで活用させてもらったが、今回のように避難所的な目的でも使える。


「クルル、おいで!」


「グゥー(はーい)」

 

 クルルを回収した私は、残る魔力をすべて(そそ)ぎ込み、「家守」を発動させた。

 ……これで一息つける。


「しかし入ってこられないとはいえ、ゴブリンやオークに囲まれているのは、落ち着かないな……」


「そうですね……」


 うん、動物園の動物になったような気分だよ……。

 そして私達を取り囲んでいる観衆(・・)は、「家守」に攻撃を仕掛けて破壊を(こころ)みているけど、必要最低限のサイズで展開している魔力の壁はその分耐久力が凝縮されているし、敵も満員電車のように殺到している所為で逆に身動きが取りづらく、壁に攻撃することにも手間取っている。

 これならば、あと10分くらいはもちそうだ。


 その間に「視覚共有」で、他の場所の様子を確認してみよう。

 まずはカプリちゃん。


 物凄い勢いで敵を倒しているけど、 カプリちゃん1人だけでは、討ち漏らしもあるな……。

 結果的に少なくない数の魔物が町の方に──あ、蜂達が対処してくれている。

 あれなら町に到達できる魔物の数もたかが知れているから、冒険者達だけでもなんとかできるかな?


 次にラヴェンダだけど──、


「えっ!?」


「どうした、マルル!!」


「あの……町の中に、魔物が既に入り込んでいます……!」


「じゃあ、私達の家は!?」


「今はティティの『家守』で無事ですし、ラヴェンダとキャロルさんが戦っているので、当面の間は大丈夫なのかもしれませんが……」


 それでも敵の数は、決して少ない訳ではない。

 カプリちゃんや蜂達が討ち漏らしたにしては、ちょっと多いような気がする。

 これは別働隊が、他の方角から町に攻撃を仕掛けた……?


 どうしよう……?

 魔力を回復させて、転移魔法で町まで戻ることは可能だけど、今私達の周囲にいる魔物達を放置していけば、こいつらが町になだれ込んでくる。

 さすがにカプリちゃんを迂回して、町を攻撃するくらいの知恵がある奴はいると思う。

 そして町の中では、建物や人を巻き込む可能性があるから、広範囲に効果が及ぶ大規模な攻撃スキルは使えない。

 

 だからここで戦った方が効率がいいし、結果的にそれが町への被害を減らすことになり、多くの命を助けることになる。

 だけどそれでは、家に残してきた者達の確実な安全を確保することが、できないんだよねぇ……。


 町の防衛の(かなめ)であるカプリちゃんと蜂達は、現状では動かせない。

 彼女達を動かせば、魔物の群れの侵攻を(はば)む者はいなくなる。

 じゃあ、私達の誰かを、転移で町に送り込む?

 ここでの戦線を維持できるギリギリの人数だから、それも無理だ。


 となると、私に動かせる残りの手札は……。


『キラ!

 ごめん、動いて!』


『我が友の為ならば、よかろう。

 どのみちこのままでは、我が縄張りが滅茶苦茶になる。

 そうなれば、巣の維持もままならぬ』


 私の念話に、キラービーの女王・キラは答えた。

 女王蜂は基本的に巣から出ない。

 その女王が巣から出るというのは、余っ程の事態だ。


 それに「視覚共有」で見る限り、キラが見ている普通の働き蜂のサイズは、私達が見ている時のそれと大した変わらない。

 つまりキラの身体(からだ)の大きさは、私達と同程度ということだ。

 2m近いサイズの蜂とか、なかなかの恐怖である。

 

 そしてそんなキラが巣の外に出ようとしたら、巣を壊さなければ無理なんだよね……。

 おそらくその修繕には、かなりの時間と労力が必要だろう。

 もしかしたらその過程で、何匹もの働き蜂が体力の消耗によって死ぬかもしれない。

 ただでさえこの戦いで、少なくない犠牲が出ているのに……。


 それでも決断してくれたキラには、感謝してもしきれない。

 私達も彼女への恩に報いる為にも、万全の準備を整えることにしよう。

 まずはこの戦いに勝たなければ、何もできないのだから……。

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