3 飲み込まれた村
私達が町の広場に行くと、そこには血や泥で薄汚れた数十人の人達がいた。
その中には、私の見知った顔もある。
「村長さん……!」
「おお……君は……!」
そこにはティティ達を預かってくれた、隣村の村長さんの姿があった。
他にも何人か見覚えがある人もいたけど、残念ながら私に優しくしてくれた村長さんの奥さんや娘さんの姿は見えない。
「一体どうしたんですか、こんな……!!」
「オークやゴブリンの襲撃があった……!」
オークやゴブリン……?
どちらか一方ならともかく、両者が協力して攻めてくるなんてことがあるの?
というか、この前殲滅したゴブリンやオークの群れ以外にも、この周辺にまだ群れがいたの……?
「君達の村のこともあったから、最初の目撃情報があった時点で、すぐに避難を開始したんだ。
しかし奴らは追ってきて、逃げ遅れた者から次々と……!!」
と、村長は頭を抱えて蹲った。
彼の判断は悪くなかった。
すぐに避難を決めたからこそ、数十人も生き残ることができたのだろう。
私の村よりも大きな村だったから、戦える人間が多かったのも良かったのだと思う。
それでも体力が無く足も遅い女子供や老人、そして怪我人や病人が逃げ切ることは不可能だったのだろうね……。
「…………っ!」
これは私にとっても、他人事じゃない。
だからこのまま見ているだけということは、有り得なかった。
「あの……まずはこの町がどのような支援をしてくれるのか分かりませんが、もしも支援が不十分ならば言ってください。
私にできる範囲で協力しますので……
これでも冒険者としてはそこそこ大成していますから、遠慮なさらずにどうぞ」
「おお……ありがとう。
ありがとう……!」
村長さんは泣き崩れる。
家族も故郷も失い、これからの生活もどうなるのか分からない彼らのこれからは、苦難に満ちたものとなるだろう。
その不安を少しでも減らしてあげたい。
「私も食料などを寄付するわ」
と、キャロルさんも支援を申し出てくれたし、私の村の時と比べたら、この人達の今後はそんなに酷い物にはならないと思う。
ただしこの町が無事ならば……という前提条件がある。
おそらく夜になったら、この人達を追ってきたゴブリンとオークの群れが、襲撃をしかけてくるだろう。
それに対抗する為に、冒険者へ緊急招集がかけられるんじゃないかな?
その前に私達は、動こうと思う。
たぶん攫われた女性達の中には、まだ生きている人達もいるはずだ。
彼女達を救出できるのは、私達しかいないだろう。
私はすぐに家に帰り、出発の準備を整える。
救出隊のメンバーは、私とクルル、エルシィさん、カトラさん、そしてカプリちゃんだ。
丁度カプリちゃんが遊びに来てくれていて助かった。
彼女がいるのといないのとでは、救出作戦の成功率が違ってくる。
「それじゃあラヴェンダ、お留守番お願いね。
あとでキャロルさんもくることになっているし、蜂達にも町の防衛に協力してくれるようお願いしておくから大丈夫だと思うけど、危なくなったらすぐに逃げてね」
「はい、お任せください、ご主人様!」
ラヴェンダはやる気満々だ。
だが、駄犬属性持ちなので、そのやる気が空回りしないか、ちょっと心配……。
「~~~!」
おや? ティティもやる気になっている。
またオークと対峙する可能性もあるのに……。
オークへの恐怖心が消えた訳じゃないはずなのに、家を守るという使命感に燃えているようだ。
『ティティ、あまり無理しないでよ?』
『いえ、ご主人様の財産は、全て守り切って見せます!』
喋ることができないティティに、私が念話で話しかけると、そんな答えが返ってきた。
もう私への忠誠度が、カンストしている感じだもんね……。
確かに彼女は、私からの吸収値の分配でそこそこレベルが上がっているし、その結果、拠点防衛に向いたスキルを得ているけど、ステータス自体は高くないからなぁ……。
やっぱり心配だ……。
「なるべく早く帰ってくるから、みんなお願いね?」
「「「「「「はい!」」」」」」
「さーて、みんな準備はいい?」
「おう」
「ええ」
「グゥー(はーい)」
「いいでーす!」
準備は整っているようだ。
それならば──、
「じゃあ……行きます!」
次の瞬間、私達は転移魔法で、あの隣村まで移動する。
私の実力で長距離の転移魔法を使うと、魔力をほぼ使い切ってしまうので、暫くの間は戦闘することが難しくなるけれど、カプリちゃんがいれば大抵の事態には対応できる。
幸いにも到着した村には、もうゴブリンやオークはいなかったので、すぐに戦闘になるようなことはなかった。
「カプリちゃん、近くに人間の生き残りはいる?」
「ん~……いないですねー」
「そっか……」
周囲を見渡すと建物が悉く破壊されていて、私の故郷の村よりも酷い有様になっていた。
これは相当大規模な、攻撃があったのだろうな……。
もしかしたらオークやゴブリンだけではなく、もっと別の凶悪な魔物がいたのかもしれない。
これはただごとではないな……と、私は思い始めていた。
それだけに、ゆっくりとはしてられない。
「カプリちゃん、敵を追うよ!
群れの位置を特定して、少し離れた場所へ転移して」
「オーケーでーす!」
大きな戦いが、これから始まろうとしていた。




