幕間 王女様は、王位を目指す
誤字報告、ありがたいです。
我が名はクリーセェ。
トガタン王国の第3王女なのじゃ。
ただ王女とは言っても、8人兄妹の末で、しかも母は正妃ではなく第4側妃な上に、元平民の娘……。
王位継承権の順位は、最下位に近いほど低くかったのじゃ。
だから私が幼い頃は王城にすら行ったこともなく、ランガスタ伯爵領にある屋敷で生活をしておった。
まあ、隔離されていたようなものじゃ。
継承権の順位が低いとは言え、他の継承権を持つ者が私のことを快く思うはずがないから、遠ざけられておったたのじゃろうなぁ……。
結果的にその頃はまだ、自分が王女だという自覚もなく生きておった。
そんな私はよく屋敷を抜け出し、下町で遊ぶことが多かったのじゃ。
しかし私と遊んでいた子供達は、薄汚れた服を着ており、痩せ細っておった……。
当時はなんでこんなに民が貧しいのか、よく分かっていなかったのじゃが、後になって多くの貴族達は、産業を発展させることには興味が無く、自分達が贅沢できれば──現状維持できていれば、それで満足だということを知った。
まあ、私が身を寄せていたランガスタ領の伯爵は、その……脳筋というのかの?
武勇で成り上がった者だからか、領内の治安維持の能力だけは良かったが、産業を発展させるような才は無かったようじゃ。
いずれにしても、本来貴族は領を統治する為に、政治家としても武人としても商人としても、卓越した能力を持っていなければならぬ。
少なくとも本人が駄目でも、それができる人材を集めるだけの能力は最低限必要じゃ。
だが世襲制の貴族の中には、その能力が無い者がどうしても出てきてしまう。
幼い頃からの教育で、ある程度は能力を身につけることはできるが、それにも限界がある。
私は能力が足りぬ者が、民の上に立っている状況に疑問を抱くようになっておった。
それはやはり、庶民達の酷い生活を、直接見る機会があったからじゃ。
ある日、私と遊んでいた下町の子供の1人が、姿を見せなくなった。
病気なのに医者にもかかれず、死んだのだという。
ある日、また別の子供が姿を見せなくなった。
親が金目当てに、奴隷商へ売ったのだという。
我が友は些細なことで消えていく。
しかし、これが庶民の日常じゃった。
私はこの世界がおかしいと感じ始めておったが、しかし自分では何もすることができない無力感に心が沈み、屋敷に引きこもる日々が続いておった。
……母には少々、心配をかけてしまったかのぉ……。
だがその母が、手を打ってくれた。
ある日、その者は私の部屋に、突然押しかけてきたのじゃ。
「おはよー、ございます!
クリーセェ姫様!」
「なっ、何者じゃ!?」
その闖入者は、当時8歳だった私よりも、7歳ほど年上に見えた。
まだ幼さを残す彼女は、何処となく少年のようでもあったのぉ。
「私はランガスタ伯爵家の、ラムラスであります!
姫様、このような場所に閉じこもっていても、何も生みませぬ。
さあ、外に出ましょう!」
おそらく母は、私に新たな友を与えれば、問題が解決すると考えたのであろうなぁ。
それも貴族の娘ならば、簡単にいなくなることもなく、あわよくば家臣になってくれるのでは──とか、浅はかなことを……。
それで失われた友への想いが、消えることはないのじゃがな……。
ただ、結果的には、それで正解じゃった。
私はラムラスによって、拉致同然に部屋から連れ出され、屋敷の庭へと放り出される。
突然の事態に茫然とする私に、彼女は木刀を差し出して──、
「剣を振りましょう!」
と、言った。
「は……?」
「強くなりましょう!
それですべての問題が解決する訳ではありませんが、弱いままでいるよりはできることが増えます。
姫様の悩みの原因も、繰り返すことを止められるように、なるかもしれません!」
何じゃろうな……勢いに任せただけの説得だったような気もしないでもないが、その時の私にはラムラスの言葉が胸に響いたのじゃ。
「それに身体を動かしていると、嫌なことを忘れられますよ!」
……ただ脳筋仲間が欲しかっただけのようにも、感じるがのぉ……。
いずれにしても、私は剣を振り始めたのじゃ。
確かに何かに打ち込んでいれば、頭の中のグチャグチャした物は忘れられたし、力を得れば救える者も増えるじゃろうしな。
とはいえ、この時点で私には、王位継承の可能性は皆無じゃった。
いずれは政略結婚の道具にされるだけのか弱い存在で、得られる力などたかが知れていたのかもしれん。
私の望みを叶える為には、王位くらいは手に入れる必要があったのじゃが、その時の私にとっては途方もないことだったのじゃ。
しかし幸か不幸か……とは言ってはいけないのじゃろうが、次期国王の最有力候補だった1番上の兄上が急死した。
理由は知らぬ。
もしかしたら暗殺なのかもしれんのぉ。
権力を持つ者の世界とは、そういうものじゃ。
いずれにせよこれで、私が王位を継承できる可能性が、ほんの少しだけ上がったのじゃよ。
だが、まだ足りぬ。
このままでは、私の望みは潰えるだけじゃった。
しかし神は、私にギフトを与えた。
『王者の誇り』というギフトを──。
「殿下、このギフトは、隠し通した方がよろしいかと……」
私がギフトを授かる儀式を受けた時、それを担当した司祭はそう言った。
それは何代か前の王も所持していたもので、まさに王になることが定められた者にこそ与えられるギフトだったからじゃ。
このギフトを持つ者は、何者にも惑わされることなく、己の信念を貫き通すと言われておる。
これを得た私は、神に王として選ばれたようなもの───それを公表すれば、私は王位継承候補者の上位に躍り出ることができる。
無論、このギフトだけですべてが決まる訳では無いがの……。
それでも有利になることだけは確かじゃ。
だから私には、他の継承候補者から暗殺者が差し向けられることになるじゃろう。
平穏に生きていきたいのならば、このギフトについては隠した方がいい。
しかし構わずに私は、このギフトについて公表した。
王位を得るには、それしか方法が無かったのじゃから──。
このギフトを持つ者は、毒では死ななくなるという。
ならば毒殺を恐れる必要は無い。
暗殺があるとすれば、直接の襲撃じゃろう。
事実、襲撃は何度もあった。
だが、ラムラスに習った剣が役に立ち、そしてラムラス自身の助けもあり、私はそれらの襲撃を切り抜けていった。
ギフト自体も、私に戦う力を与えてくれていたようじゃ。
……ただ、それに巻き込まれて怪我をしたり命を落としたりした者もおったが、それでも私は止まる訳にはいかぬ。
これまでの犠牲を、無駄にしない為にも……!
故に私は、力を示すことにしたのじゃ。
竜を倒す──この誰の目から見ても英雄的な偉業を達成すれば、国民からも私を王へと望む声が高まる。
ただ、私には敵が多いから、極秘裏に計画を進めないとならぬな。
身分を偽り、信用できる者のみの──あるいは私の命を狙う理由を持たない、まったく無関係の者の力を借りて、竜を倒すのじゃ。
しかしそれがあのような冒険になるとは、予想もしていなかったのぉ……。
特にマルルというあの娘との出会いは、私にとって宝になるかもしれんな。
上位竜とも友となれる彼女が私に力を貸してくれるのならば、私はきっと負けることが無いじゃろう。
「姫様、王都が見えてきました」
「うむ、未来の王の帰還じゃな」
これから大きく国が動くぞ!
明日は用事があるのでお休みします。
そして次回もまだ書いている途中なので、間に合うかどうか……。




