17 帰 還
クラグド山脈からの帰路は、一瞬だった。
馬車を預けていた村に、カプリちゃんの転移魔法で送ってもらったのだ。
そして馬車を回収したら、更に拠点の町の近くまで運んでもらう。
なお彼女は、そのまま私達の家まで、ついてくるつもりのようだ。
「マルルハウスの場所が分かれば、いつでもお邪魔できまーす」
一応我が家に棲み着くつもりでは無いようだけど、入り浸るつもりはあるらしい。
まあカプリちゃんがいれば、いつでもクラグド山脈に行くことができるので、貴重な魔物の素材を好きなだけ採取することが可能だし、私達としてもメリットはある。
それにこの山脈の魔物は、「吸収値」が大きいので、レベル稼ぎにも打って付けだ。
特に下位竜は、非常に美味しい。
これを2匹倒すことができたおかけで、私のレベルはついに30を超えた。
勿論仲間達も大幅にレベルアップしているし、もう大抵の魔物の討伐依頼を受けることが可能だろう。
むしろカプリちゃんの力を借りれば、倒せない敵は存在しないかもしれない。
だからその気になれば、私達は英雄としての名声を得ることも不可能ではないと思う。
いや、それどころか、国を手に入れることだって……。
まあ、国や地位は面倒臭いので、私はいらないけどさ。
ともかくそういう意味でも、今回の依頼はなかなか実入りが良かったと言える。
それに貴族と親しくなれたという意味でも、悪くない結果だった。
「わぷっ!」
私はカップァ様に、抱きしめられていた。
町に着き、別れの時が来たんだけど、彼女は私との別れを惜しんでいる。
まあ、親密度が100%になっちゃっているしねぇ……。
スキルはありがたく、コピーさせてもらおう(内緒で)。
「うう……世話になったなぁ……。
そなた達の素晴らしき働きは、決して忘れぬぞ……。
また、会いに来るからなぁ……!」
と、涙ながらに、私を抱きしめ続けるカップァ様。
え~と……貴族のご令嬢が、そんな気軽に会いにくるつもりなんですか?
まあ、「会いに来い」と言わないだけましか。
あと、なかなか私を放してくれないけど、本当に帰る気あるのかな?
「あの……そろそろ……」
「おお……スマン!」
と言いつつ、カップァ様はなかなか解放してくれない。
そこへ──、
「おい、帰るぞ」
「は、はい、お嬢様」
ラムラス様が、カップァ様を引き剥がしてくれた。
「マルル殿、おぬしのおかげで、我が目的を達成できそうじゃ。
恩に着るぞ。
また何かあった際は、依頼しても良いか?」
「え~と、あまり面倒事は困るのですが、あなたが本当に困っているのならば、お助けします」
本音を言えば、面倒事が多そうな貴族とはあまり関わりたくなかったんだけど、ラムラス様達はそんなに高圧的な態度を取らなかったので、まあ付き合いやすい方だ。
そんな彼女達が、我らの後ろ盾になってくれるのならば悪くない話だから、お付き合いは続けていこうと思う。
それに顔見知りになった相手を見捨てるのも心苦しいので、ラムラス様達が困っているのならば、助けることは吝かではない。
「うむ、よろしく頼むのじゃ。
おぬしも何か困ったことがあれば、ランガスタ伯爵家を頼るが良い。
関係者にこれを見せれば、最大限の配慮を受けることができるじゃろう。
……他の貴族にも通じるとは思うが、私の敵対勢力が相手だと逆効果になるから、使い所は慎重に選ぶのじゃぞ」
と、ラムラス様は、私に金貨を渡してきた。
……いや、金貨とはなんか違う。
紋章のようなものが表面に彫り込まれていて、もしかしたら身分を証明することができるものなのかもしれない。
水戸黄門の印籠みたいな?
「あ、ありがとうございます」
「うむ、それでは達者で暮らすのじゃぞ」
そして、ラムラス様とカップァ様は、馬車に乗って帰っていった。
……ん?
なんかステータスに変化が。
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親密度 クルル 100%
カトラ 100%
エルシィ 100%
ラムラス 100%
クリーセェ 51%
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親密度に新たな名前が表示されたけど、クリーセェ?
もしかしてこれが、ラムラス様の本名なのかな?
でも、なんで今頃……?
……ひょっとして、『百合』が効かない彼女とも、普通に交流の積み重ねで仲良くなって、数値を稼いでいたっていうの?
それが今頃表示されるほど溜まったってこと?
だとすれば、『百合』の力に頼らないで初めてできた友達……ということになるのだろうか?
それが事実ならば、私にとって唯一無二の存在になるのかもしれないなぁ……。
この関係は、ちょっと大事にしたいかも……。
ただ、相手は正体不明の存在なんだよなぁ……。
「カトラさん、クリーセェって名前に心当たりがありますか?」
「クリーセェ……この国の第3王女の名前ですね。
それがどうかしましたか?」
「えっ」
ちょっと待って、あの人王女様なの?
そして今回の竜退治で、後継ぎの筆頭になるかもしれないって……。
つまり次の女王じゃん!?
あわわ……とんでもない相手と、友達になっちゃったよ……。
 




