15 山脈の竜……竜?
私の背後から、聞き慣れない声が聞こえてきた。
でも背後には、竜しかいなかったはずだ。
竜って、人間の言葉を話せるんだっけ?
そんなことを考えながら私が振り向くと、そこには──、
「へっ!?」
そこには全裸の美少女がいた。
長い髪はピンク色だし瞳も金色──と、どこか人間離れした容姿をしているけど、たぶん顔は今まで見てきた人の中で、1番整っていると思う。
まるで人形のような精巧さで、無機質な冷たさすら感じた。
あと、最大の特徴と言えば──おっぱいおっきぃ……っ!!
これはカトラさん以上か……!?
凄い……顔を埋めたい……!
「──ヘイ、聞いてますかー?
我も、お話に混ぜて、くださーい!
……あれ? ヒューマンの言葉って、これで合ってます?」
「はっ!」
想定外の事態に気を取られ、私は目の前の美少女に話しかけられても、半分耳に入っていなかった。
というか、なにその外国人みたいなイントネーションの喋り方……?
……と、感じるのは、私の前世が日本人だからで、たぶんこの世界の純粋な人間にとっては、何百年も前の古めかしい言葉が混じった、おかしな言葉遣いに感じるのではなかろうか。
この変な言葉遣いは、人間との会話に慣れていないから……?
なんだか一見冷たく見えるほどの整った容姿と、物凄いギャップがあるコミカルさだな……。
そもそも、この人は一体何なんだ?
まさかあの竜が、変身したというの?
いや、それしか考えられないけど、一応聞いてみる。
「あ、あなたは何者なのですか……?」
「ハーイー、我は大いなる竜神の末裔、カプリファスでーす!
汝こそ何者か?
なんだか凄く惹き付けられまーす」
「あ、ただの人間のマルルです。
こちらはラムラス様です」
「オー、マルルね、よろしくー!
ただのヒューマンとは思えませんが……。
でも、とっても魅力的なので、我のフレンドにしてあげるでーす」
「あ、はぁ……どうも」
この人、友達になりたくて、私達を攫ったのか……?
「あの、私達にも都合があるので、いきなり連れ去られるのは困ります。
今度無茶なことをしたら、友達とかそういう話は無しにしますよ?」
「えうっ!?
ソーリー!
ごめんなさいでーす!」
……口調の所為であまり真剣には見えないんだけど、目に涙を浮かべているよ、この人……。
ええぇ……私の『百合』の魅力って、竜ですらそんなに抗いがたいものなの……?
「マルル殿……おぬし一体……?」
ラムラス様が、ドン引いた顔で私を見ている。
そりゃあ上位竜を相手に、ここまで立場が上になれる人間なんていないのだろうし、当然かぁ……。
「ちょっと特殊なギフトを持っているだけです。
秘密ですよ?」
「う、うむ……分かったのじゃ。
しかしこの度はおぬしほどの人物を、私の都合に付き合わせてしまって済まなかった。
本来ならば金貨200枚を払っても安いくらいじゃ。
いずれは相応の額を払いたいと思っておるので、最後までこの依頼は受けて欲しいのじゃ」
「いえ、私は平穏に暮らせればそれでいいので……。
報酬もそんなに高くなくてもいいです」
「それならば、何か困ったことがあったら、私を頼ってくれ。
我が権力を使えば、大抵の者は黙らせることができるのじゃ」
「は……はあ……」
貴族の後ろ盾が得られるのは嬉しいけれど、ラムラス様にどの程度の権力があるのかはよく分からない。
まあ、彼女が家督を継げば、それなりにあるのかもしれないけれど、現時点では未知数だ。
ならばこの依頼を完遂して、彼女が家督を継げるようにしよう。
「え~と、カプリファス……様?」
「カプリちゃんでいいですよー。
マザーは我のことをそう呼んでいましたー」
「じゃあ……カプリちゃん。
私達を元の場所へ戻して欲しいです」
「分かりましたー」
良かった。
これでみんなと合流できる。
あと、上位竜だからこそ知っているような、貴重な情報も提供してもらおう。
「それと私達は、下位の竜を倒す為にこの山脈へきました。
何処にいるのか知っていたら、教えて欲しいです。
あ……でも同族を売るような真似は、できないかな?」
「下位の竜?」
カプリちゃんは首を傾げる。
あれ? 分かんないかな?
上位や下位という分け方も、人間視点の話だしなぁ。
「翼を持たなくて、地面を這いずっているようなのです」
「ああ、あの大きな蜥蜴ですねー。
知っていますよー。
大丈夫、案内するね」
あ、同じ竜種だという認識じゃないんだ……。
そうか、蜥蜴なのか……。
「それじゃあ、まず仲間と合流したいので、運んでください」
「はーい」
「カプリファス様、どうかよろしくお願いしますのじゃ」
ラムラス様も深々と頭を下げて、お願いする。
が……、
「ああ……マルルのついでですよ、ついで」
うわぁ、カプリちゃん、私以外には凄く冷淡。
ラムラス様はちょっと涙目になって、プルプルと震えている。
こういう扱いを受けたことがあまり無くて悔しいのか、それとも上位竜からあまり快く思われていないことが怖いのか……。
さっきの戦いでも手も足も出なかったしなぁ……。
「それでは行きますよー!」
「えっ!?」
次の瞬間、私の視界は急激に切り替わった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




