14 話し合い
おそらくこの竜は雌だ。
だから『百合』に興味を引かれて、私を連れ去ったのだろう。
そして竜は、ついでに攫ったラムラス様に煽られて気分を害したのか、それともオヤツに食べようとしているのかはちょっと分からないけど、彼女を殺そうと思っていることだけは確かだと思う。
その証拠に、未だにラムラス様に攻撃しようとしているので、私が間に入って止めているし。
うん、私は安全でも、この状況は駄目だな。
ラムラス様を死なせてしまっては、私だけ無事に帰還しても貴族を敵に回してしまいかねない。
ここはなんとかして、竜を止めなきゃ……。
「はい、ストップ!
戦いをやめてください!」
私は竜とラムラス様の両方に呼びかけた。
「な……何を……?」
ラムラス様は、「そんなことで竜が止まる訳がないだろう」という顔をしたけど、実際に竜は止まった。
「はい、良い子だねー。
これからは、人間を襲っちゃ駄目だよー」
そう呼びかけると、竜は鼻先を私に擦り付けてきた。
うん、こうなるとクルルと大差ないな。
大丈夫、これなら制御できる。
サイズが大きすぎるので、下手にじゃれつかれたら死ぬけど。
「なっ……!?」
一方、ラムラス様は、驚愕の顔をしたまま固まっている。
「なんなんじゃ、おぬし……!?
上位竜を手懐け……!?」
「おかしいですか?」
「おかしいじゃろっ!?
上位竜の中には、国を滅ぼした者もいるくらいなんじゃぞっ!?」
魔王クラスじゃん!?
「え……そんなのに、喧嘩を売ったのですか?」
「たとえ死ぬと分かっていても、無抵抗でそれを受け入れる訳には、いかんじゃろ……」
う~ん、分からないでもないけど……。
というか、上位竜を手懐けた私って、国を支配できる力を手に入れたってこと?
もしかしてもう、ラムラス様と立場が逆転している?
「と、とにかくその竜は、おぬしの支配下に入ったのか?
それがおぬしのギフトの力……?」
「そんなところですね。
今は仲良くなっただけですが、もっと仲良くなれば、色々とお願いを聞いてくれるようになるとは思いますよ」
「……!!」
それを聞いて、ラムラス様の表情は、何かを葛藤しているかのようなものへと変わっていった。
そして──、
「おぬしに……いや、マルル殿には、どうか私にお力をお貸しいただきたい!」
と、平伏した。
ちょっ、貴族にそんなことをさせたことが公になったら、私は社会的にも物理的にも死にそうなんですけどぉ!?
「お、おやめください!
どうか頭をお上げください!」
「いいや、了承してくれまで、続けるぞ!
上位竜の力を借りることができれば、私は後継ぎになることができるのじゃ……!」
私が止めても、ラムラス様は、聞き入れてくれない。
そりゃ、国を滅ぼすことができるような存在を味方に付ければ、大きな権力は得られるかもしれないけれど……。
「その……過去に上位竜を味方に付けた人間の例は、あるのですか?」
「無い……はずじゃ。
だからこそ、その偉業があれば……」
「じゃあ、駄目ですね」
「なっ!?
何故じゃ!?」
「前例が無いのならば、上位竜が遊び半分でラムラス様を操っていると思われるのがオチでしょう。
それはむしろ、他の方々から後継者として相応しくないと、判断されるのではないでしょうか?」
「む……!」
ラムラス様は、ハッとする。
実際のところ、上位竜ほどの強大な存在を「味方に付けた」と他人が言い出したら、私ならば何か裏があるのではないかと疑う。
人間よりもはるかに強い力を持つ存在が、無条件で人間に力を貸すとは思えないので、人間を操っているか、何かしらの竜にとってメリットがあるような裏取引があったのだと考えるのが、普通なのではないだろうか。
そしていずれは竜が、大きな災いを招くのでは……と、不安になることだろう。
「それに竜の力を利用しようとする者達が群がってきて、身動きが取れなくなると思います。
そういう者達の対処で、面倒事が増えるだけです」
「む……むう」
ラムラス様は難しい顔をしている。
果たして「竜の力を利用しようとする者達」の中に、彼女自身も含まれているということに気付けただろうか。
ぶっちゃけ私からしたら、「迷惑なだけ」という意味では同じだ。
「当初の予定通り、下位の竜を倒しましょう?
今ならば、そこの竜も手伝ってくれると思うので、そちらの方が確実です」
「う……うむ……。
そうじゃ……な?」
ラムラス様は、困惑した顔をしている。
貴族が平民に頭を下げるというのは、余っ程のことだ。
それをあっさりとあしらわれるというのは、彼女にとって完全に想定外のことなのだろうね。
「し、しかし、マルル殿はそれでよいのか……?
おぬしの働き次第では、私が用意できる最高の地位と褒賞金を、用意しようと思っておったのじゃが……」
そういう面倒臭いのはいいです。
それに上位竜を眷属化できた時点で、欲しいものは自力で手に入れられると思うし。
「私は今の生活で満足していま……ん?」
背後から、竜が鼻先を私に押しつけてくる。
構って欲しいということなのだろう。
「ちょっと待っててね、今大事な話をしているから……」
「済みません、ラムラス様。
話を中断してしまって」
「う……うむ。
それは構わんのじゃが……」
しかし私がラムラス様と会話を続けようとしても、竜は背後から押してくる。
私はそれを無視しようとしたのだが──、
「もー、我も話に混ぜるでーす!」
と、背後から聞き慣れない声が聞こえてきた。
「は!?」
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