13 山脈の主
「わー、なんじゃーっ!?」
私とラムラス様は、空を飛ぶ巨大な生物に捕まってしまった。
あわっ、あわわわ……!!
どうしよう!?
このままじゃ、餌にされる!?
あ、取りあえず、仲間に連絡を……!!
『あ、あのっ、カトラさん、聞こえますか!?』
『マルルちゃん、大丈夫なんですかっ!?』
よし、取りあえず「念話」のスキルは通じている。
『今のところは、まだ無事です。
大きな生き物に捕まって、運ばれている最中ですが……。
これ、見えます?」
私は「視覚共有」のスキルを使ってみた。
本来は眷属の視覚を、まるで自分のものであるかのように見ることができるスキルだけど、私が見たものを相手に送ることもできるかな?
私とラムラス様は、それぞれが左右の前足と思われる部分に握られている。
それを確認した後、次に上を見るけど、私達を捕らえている生物が大きすぎて腹しか確認できない。
『見えます、見えます!
なにやら巨大な爬虫類っぽいような気がしますが……。
もしかして、上位竜なのでは……』
お、ちゃんと視覚映像が送れた。
って、ヤバイ奴じゃん!?
下位の竜でも、ギリギリ倒せるかどうかって話だったのに、上位って……。
なんで捜していたのよりも、上のランクのが出てきちゃうの……?
『と、とにかくマルルちゃん!
周囲の風景をよく見ていてください!
それを頼りにして、何処に運ばれたのか確認し、必ず助けに行きますからっ!!』
『は、はいっ!
お願いしますっ!!』
しかしほどなくして、カトラさんとの念話は切れてしまった。
距離が離れすぎてしまった!?
となると、おそらく10km前後は離れちゃったから、人間の足は勿論、熊の足でも追いつくのは難しいんじゃないかな……。
これじゃあ助けがくることは、あまり期待できないかもしれない。
仮に助けがあるとしても、これだけ距離が離れてしまうといつになるのか分からない。
なので当面の間は、私とラムラス様だけで対応しないと駄目なんだけど……。
でも、こんなクジラみたいに巨大な存在を相手に、何をどうすれば!?
少なくとも、今暴れても空中に放り出されるだけだろうから、そうなると「空中浮遊」のスキルしか使えなくなるし、その時に襲われたら抵抗もできない……。
で、結局私は何もすることができないまま、何処かの山の頂上へと運ばれ、そこに放り出される。
そこは元々火山の噴火口だったようで、すり鉢のように窪んだ地形をしていた。
どうやらここが、私達を連れてきた存在の巣ということらしい。
そして私達の前に降り立ったのは、やはり竜だった。
蜥蜴……というよりは、肉食恐竜を思わせる姿をしていて、背中には大きな翼を持っている。
まさに竜のイメージ通りの姿だ。
これが上位竜……!!
あかん、これは死を覚悟した方がいいかも……。
しかし──、
「おのれ、邪悪なる竜よ!
わざわざ我が剣の錆になる為に現れたか!!
今、成敗してくれるのじゃ!!」
と、ラムラス様は剣を抜いて、竜へと剣先を向ける。
ちょぉ──!?
何で自ら竜を刺激するようなことを、やっているのぉ──!?
実際竜は、ラムラス様の挑発が気に障ったようで、右手を彼女へと振り下ろしてきた。
その鋭く巨大な爪の直撃を受ければ、人間の身体なんて、原型も残らないと思う。
だけどラムラス様は、その攻撃を躱し、それどころか剣を竜の手に突き立て──られない!?
あの針のように鋭い剣先が刺さらないなんて、なんという防御力……!!
いずれにしても、これは私も戦闘に参加しないと駄目だなぁ……。
しかしラムラス様の剣でもダメージを与えられないということは、私の物理攻撃は通用しないと思う。
おそらく魔法でしか、有功打を与えることはできないのだろうな……。
そして竜の皮膚の色が赤だということを考えると、火炎竜ってところかな?
……炎を吐かれたら、即全滅なんじゃ……?
でも、おそらく火属性を持っているだろうから、弱点属性は水系統……?
えーい、それならば──「水弾」!!
う~ん、当たったけど、竜の強靱な皮膚に弾かれて、ダメージを感じさせないなぁ……。
ただ、竜はちょっと嫌がる素振りを見せたから、水が苦手なのは確かなのかもしれない。
ならば連続で撃ち込んでいれば、牽制程度にはなるだろう。
そして私が牽制して竜に隙ができたところを狙って、ラムラス様が攻撃する。
相変わらず竜に剣は刺さらなかったけれど、魔法の剣だからなのか、それともラムラス様のスキルなのか、その攻撃には電撃の追加ダメージがあるようだ。
それだけなら、多少は竜に効いている。
ただそれは、竜の生命力を1ポイントずつ削るようなもので、 おそらく「再生力」のスキルを持っていれば、すぐに回復されてしまうものなのではなかろうか。
……これ、勝つの無理でしょ……。
いっそ逃げた方がいいのかもしれないけど、こんな岩に囲まれた火口跡の中から脱出すること自体が難しい。
詰んだ……!
しかしラムラス様は諦めない。
「こんなところで、私は負ける訳にはいかぬのじゃ!!
くらえぃ、我が奥義をっ!!」
おおっ、ラムラス様の剣が光り輝いた!?
そして次の瞬間、剣から放出された雷のごとき電流が、竜を飲み込む。
凄っ、これ相手がオークとかのザコだったら、数十体まとめて葬れるやつだ……!!
ただ、その程度で竜は倒れない。
一方、ラムラス様は、魔力を使い果たしたのか、地面に片膝を突いていた。
そんな彼女に、竜は迫る。
「くっ……!」
私はラムラス様と竜の間に割り込み、奥の手を発動させた。
それはスキル「極寒」。
これまでの生活の中で、食べ物を冷やす為に使っていた「自然操作」で生み出した冷気を、限界まで強化して攻撃に転用できるようにしたスキルだ。
滅茶苦茶魔力を使うけど、放出された冷気に触れれば、生物ならば氷の彫像と化す。
それで竜の動きは止まった──が、表皮が少し凍り付いただけで、竜が動き出すと薄く貼った氷がパラパラと落ちた。
……っ、駄目かぁ……!
これはもう、竜に食べられてしまう未来が確定してしまったのかな……。
もう魔力を使いすぎて、反撃する力が残っていないし……。
だけどいくら待っても、竜の攻撃がこない。
なにやら竜は、私を無視してラムラス様の方に向かおうとしたけど、私が再び間に割り込むと、竜の動きは一瞬止まる。
それを何度か繰り返して、私は確信した。
そういえばこの竜って、私には攻撃してこないな……。
はは~ん、こいつ雌だな?
読んでくれてありがとうです。




