12 空中遊覧
私が「自然操作」のスキルをアレンジして生み出した新スキル、「空中浮揚」は風の力で私自身を浮かせるものだ。
キラービーのキラが持つ「高速飛行」をコピーして活用する為に身につけたスキルだけど、私はこれを使って、上空から竜の行方を追ってみることにした。
ただこれ、魔力消費が凄く激しいんだよなぁ……。
5分もあれば、すべての魔力を使い切る。
その短時間で竜の痕跡を見つけられるのかというと、ちょっと難しいような気もするけれど、この手詰まりの状況ではやらないよりはマシか。
う~ん、広い森の中に異常は……分かんない。
竜の巨体ならば、動けば木の1本くらいは折れていそうなものだけど……。
しかし私の目では見える範囲には限界もあるし、ちょっと見つけられない。
「ふぅ……もう限界」
魔力が残り少なくなった私は、地上に降りた。
これで魔力が回復するまで、数時間は空中からの捜索ができない。
「どうです、マルルちゃん?」
「今回は駄目ですね、カトラさん。
私の目では、あまり遠くまで見渡せなくて……」
う~ん……「視覚強化」のスキルがあれば、良かったんだけど……。
残念ながら、眷属にそのスキルを持っている者はいなかった。
「私、目は良いぞ」
「え?」
ラムラス様が、話に割り込んできた。
それって「視覚強化」のスキルを、持っているということなの?
ただ、彼女のステータスは閲覧できないので確認することはできないし、この世界の人間はそれがスキルだと意識して使っていることが少ないので、本人もそれがスキルだと思っていない場合も多いんだよね……。
だからそれが本当にスキルなのか、それともただ目がいいだけなのかはちょっと判断できない。
というか、目がいいことを私に教えて、どうしようというのか。
まさかラムラス様も、上に行きたいと!?
「あのっ、空は危険なので、そのっ!!」
「だが、このまま竜が見つからないのでは、埒があかぬ。
やれることはやるべきじゃ!」
それはそうなんだけど……。
でもラムラス様は、空を飛びたいだけなのでは!?
なんだか、凄くワクワクした顔をしているんですけど!?
カップァ様、なんとか言ってください!
と、私は彼女の方を見て、助けを求めたけど……。
「……私からも頼む」
カップァ様は、軽く首を振った。
あなたでも、逆らえないのですかっ!?
「……分かりました。
ただ、魔力が回復するまで空は飛べませんので、暫くお待ちください」
「うむ、よろしく頼むぞ」
うわぁ……目がキラッキラに光ってるよ。
そんなに楽しみにしているだなんて、なんだかんだでまだ子供なんだなぁ……。
「しかしそなたはまだ幼いのに、魔法の腕は確かなようじゃのぉ。
私の下で働かぬか?」
「いえ、お誘いは光栄なのですが、私は冒険者の身分が性に合っております」
まさかのスカウトだが、貴族のところで働くなんて、窮屈そうで嫌だよ……。
作法とか知らないし。
「そうか、残念じゃのぉ……。
では、あの熊をくれぬか?
あれは騎馬の代わりとしても、優秀な働きをしそうじゃ」
は?
なに言ってるんだ、この馬鹿は?
「クルルは私のギフトがあってこそ、大人しく従っているのです。
私から離れては、制御できるとは思えません。
どうかご容赦を……!」
クルルは今や私の家族だ。
その家族を奪うというのならば、相手が貴族だろうが関係ない。
戦争も辞さないぞ!
「む、むう……。
それは残念じゃのぉ……」
一応隠していたつもりだけど、私から漏れ出た殺気に反応したのか、ラムラス様はたじろいだ。
でも、ここで引き下がってくれて良かった。
ここで引いてくれなかったら、町に帰った時に彼女は、キラービーの集団に襲われて命を落とすことになっていただろう。
「じゃが、この旅の間、可愛がるのはよかろう?」
「はっ、それはどうぞご自由に。
クルル!」
(はーい)
子守は大変だろうけど、お願いね。
ラムラス様は、クルルにじゃれつかれて楽しそうだった。
たぶん私よりも、クルルとの方が親密度は高いと思う。
実際、我がステータスには彼女の名前がまだ表示されていないし、明らかに『百合』が効いていないな……。
それから2時間ほど経過して、ようやく私の魔力が回復したので、再び上空からの捜索を始めることにした。
私はラムラス様の腰を背後から抱きかかえ、上空へと連れていくことになるのだが、私達の周囲を風で包んで浮かせる力場を作っているので、必ずしも私が彼女を支える必要は無い。
ただし私から離れると落下してしまうので、念の為だ。
「それでは、行きますよ!」
「うむ、任せたぞ」
それから私達は、ゆっくりと上空へ昇っていく。
大体、100mほどだろうか。
正直言って、ちょっと怖い。
しかしラムラス様は、
「おお、おー!
高いのぉ!
城の塔よりも絶景なのじゃ!」
大はしゃぎである。
本当に子供なんだから……。
「ラムラス様……。
あまり大声を出すと、魔物を呼び寄せてしまう可能性があります。
それにあまり時間はありませんので、竜の痕跡を早く見つけましょう」
「うむ、そうじゃの」
私達は360度回転しつつ、周囲を見渡した。
だけどやっぱり、何も見つからない。
しかし──、
「お?」
「何か見つかりましたか?」
ラムラス様が、何かに気付いたようだ。
「う、うむ……」
ラムラス様は、水平に指を指した。
その方向には当然、空しか無いはずなのだが……。
「えっ!?」
何か黒い点が見える。
いや、それは点なのではなく、徐々に大きく──ううん、近づいて来ている。
そう、何者かが羽ばたき、私達に迫ってきているのだ。
──っ!!
今すぐ、地上に戻らなきゃっ!!
だけどそれは、もう手遅れだった。
私達は物凄い速度で接近してきた巨大な何者かに捕まり、そのまま攫われてしまった。
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