8 疑 惑
私達は貴族のご令嬢・ラムラス様の護衛として、遠征の旅に出た。
途中までは、彼女達が乗ってきた馬車で行く。
馬車には初めて乗ったけど、噂通り本当に乗り心地が悪いな、これ……。
貴族向けだからこれでもマシな方なんだろうけど、お尻が痛くなってくるよ……。
なお、本来は貴族の人と一緒に馬車へ乗ることは、身分の違いの所為で駄目らしいんだけど、今回は移動中に今後の計画を話し合うということで、特別に乗車させてもらっている。
まあ、さすがにクルルは乗れないので、馬車の後ろの方からついてきてもらっているけど……。
馬が怖がるので、少し離れ気味にね……。
「我々の目的地は、魔境と名高いクラグド山脈だ」
と、発言したのは、ラムラス様の専属の護衛騎士であるカップァ様だ。
最初に紹介を受けた時、「河童」と空耳して「え?」ってなった。
見た目は「くっ、殺せ」が似合いそうなほど見事な女騎士なので、そのギャップが酷い。
「それはその……やはり討伐目標は……」
「そう、竜だ」
エルシィさんの問いに、カップァ様は答えた。
え、無理じゃない?
竜って、最強の魔物だよね?
「クラグド山脈に棲息するという、下位の竜族だ。
奴らなら、我々でもどうにかなると見込んでいる」
あ、そうなんだ。
上位と下位の差ってよく分からないけど、同じネコ科でも虎と猫が全然別物であるように、それくらいの違いがあるのかな?
「恐れながら……確かに下位竜ならば倒すことができる可能性はありますが、一歩間違えれば我々が全滅する可能性もございます。
もう少し安全な魔物では、いけないのでしょうか?」
うわ、駄目っぽい。
カトラさんの言葉から察するに、勝てるかどうかは微妙な相手のようだ。
「ならぬ!
ただでさえ私は、兄妹の中でも一番下……。
生半可な武功では、後継ぎの座を手に入れることができぬのじゃ!
だから竜くらいは倒さねば……!」
と、ラムラス様の意思は決まっているようだ。
でも、私達を巻き込まないで欲しい。
だけど平民では、貴族の意向に逆らえるはずもなく……。
「我々も全力を尽くします」
やれることはをやるしかなかった。
で、クラグド山脈には1日では辿り着けないので、今晩は野営することになる。
さすがに貴族様を地面の上に茣蓙を敷いて寝かせる訳にはいかないので、エルシィさんとカトラさんがテントを設置した。
その間私は、クルルと一緒に夕食の材料を狩りに行くことにする。
ところが──。
「私も連れていくのじゃ!」
「え……?」
ラムラス様が、そんなことを言い出した。
「あの……危険もあるので、ここでお待ちください」
「なにを言う!
これから竜を相手にする者が、食材を狩る程度のことに伴う危険を恐れて、どうするのじゃ!」
いや……確かにその通りなんだけど、万が一怪我でもさせたら、責任問題になりませんかね?
「それに、その熊に乗ってみたい」
「え……クルルは私以外の人を乗せたことがないので、安全は保証できませんが……」
「口うるさい娘じゃのぉ!
いいから、乗せるが良い!」
わがままだなぁ……。
「そ、それでは……。
クルル、お願いできる?」
「グゥ(いーよー)」
クルルが頷く。
キラから手に入れた「念話」のスキルで、以前よりもお互いに考えていることが分かるようになった。
まあ、クルルからは片言でしか伝わってこないけど、それだけでもありがたい。
ただ、一応は野生の猛獣だったのだから、ラムラス様が無茶をすれば、クルルだってぶち切れることもあるだろうし、私もクルルを守る為なら貴族相手でも戦争をする覚悟ではある。
できればそういう事態には、なって欲しくないが……。
……というか、ん~……?
私は違和感を覚えて、首を傾げる。
「それではお嬢様、私も同行します」
「うむ、ゆくぞ!」
「マルル……と言ったか?
そなたもよろしく頼む」
「は、はい」
うわ……カップァ様も同行するのか。
いよいよ緊張するよ……!
でも、一緒にいる時間が長い方が、親密度が上がって『百合』的には有利だよね……。
……ん?
……んんっ!?
あっ、そうか!
違和感の正体が分かった。
『百合』だ!!
ラムラス様に、『百合』が効いている気がしないんだ!
ラムラス様はさっきからわがままでな態度で、私に対する好意がまったく見えない。
今までなら私の言葉に、聞く耳を持たない女の人なんていなかった。
でもこれって……どういうこと!?
まさか女装男子だとか言わないよね!?
それとも精神だけ男の子だと!?
そんな大きい疑念を抱きながら、私はクルルに乗ってはしゃいでいるラムラス様の後に付いていく。
その道中、カップァ様が声をかけてきた。
「これからどうするのだ?」
「クルルが臭いや気配で獲物を見つけると思うので、その際はラムラス様を降ろして獲物を追わせれば、勝手に仕留めてきます。
その後は私が肉の処理をしますが……」
「ふむ……優秀な熊なのだな。
それを操るのは、そなたのギフトの能力か?」
「まあ……そんなところです」
「しかしそなたは幼い。
何故冒険者のような、危険な仕事をしておるのだ?」
「えっと……それはその……」
私は村がオークに襲撃されて滅んだことなど、これまでのことをカップァさんに話した。
それを聞きながら彼女の顔は、どんどん暗く沈んでいく。
「そうか……それは大変だったな……」
と、カップァさんは、目に涙を浮かべながら言った。
あ……見た目はちょっと怖いけど、いい人だ。
そしてこれなら、親密度も結構上がったんじゃないかな?
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親密度 クルル 100%
カトラ 100%
エルシィ 100%
ラムラス 54%
従属度 ラヴェンダ 100%
ティティ 100%
コリス 72%
エトナ 67%
イネス 63%
シーマ 61%
ト チ 59%
同盟度 キ ラ 100%
ケヴィン 89%
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「はっ!?」
「む、どうした?」
「い、いえ、なんでもありません……」
私の答えに、カップァさんは納得していない様子だったけど、『百合』の効果なのか追求はしてこなかった。
……でも、親密度の表示の中には、カップァ様の名前は無い。
従属度や同盟度の中にもだ。
逆に少しも仲良くなっていないはずの、ラムラス様の名前がある。
え……どういうこと?
事実だけ見ると、「カップァ」というのは偽名で、本名が「ラムラス」だと解釈するのが自然だ。
じゃあ、カップァ様が本当の護衛対象ってこと?
でも、それじゃあ……カップァ様が主人のように接しているラムラス様は、何者なの!?
従属度のところに載っている新しい名前は、村の生き残りです。
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