7 出発前夜
我らがパーティーは、強制イベントへと突入した。
それはランガスタ伯爵家令嬢・ラムラス様の護衛依頼だ。
どうやら彼女の家は、1番の武功を挙げた者が家督継ぐことになっているらしい。
だがラムラス様にはまだそれが無く、他の兄姉達に後れを取っている状態だという。
だからラムラス様は、冒険者の力を借りて大物の魔獣を仕留めて武功としたい。
そういう理由があっての、今回の依頼という訳だ。
「貴族なら、自前の護衛を使えばいいのでは……?
お抱えの騎士とかいますよね?」
そんな私の疑問に、斡旋所の所長はこう答える。
「本人の実力を試す為のものだからな。
家の力は借りられないのだろう」
「え……それなら、冒険者に頼るのも駄目なのでは……?」
「そこは地力で集めた人員なら、良いらしい。
依頼料の金貨20枚も、ラムラス様のポケットマネーなんだとよ。
そういう資金力や人脈も、試されるということだ」
金貨20枚がポケットマネーって、貴族凄いな!?
「そんな訳で、君達にはラムラス様の護衛というか、戦闘補助や野営などの雑事を助けてやってほしい」
「うわぁ~……面倒臭ぁ……」
エルシィさんの、うめきにも似た発言には同感ですね……。
相手がこちらに頼る態度ならばまだいいけど、上から目線で命令してくるようなら、あまり関わりたくないし。
まあ、相手が女の子ならば、私の『百合』で支配下に置くことも可能だから、貴族の娘を──しかも上手くいけば次期当主となる者を仲間に引き入れることができる。
そう思えば、悪くない話かもしれない。
「話は分かったが、やはりリスクがあるな。
もう少し報酬に色を付けてほしいところだ。
何も金銭だけが、報酬になるという訳じゃないだろ?」
「というと……?」
「ああ……そういえば、そちらの職員が、うちのマルルちゃんの情報を商人に流したということがありましたね。
あれの所為で襲撃を受けて、大変だったのですよ?
お互いに信頼関係は必要ですよね?」
「なっ……!?」
ああ、あの件なぁ……。
例の商人が死んだ時点で脅しになっているから放置していたけど、カトラさんはここでそれを利用するのか。
恐ろしい子……!
「わ……分かった。
そいつは処分するから、詳しく聞かせてくれ。
それに今後君達のパーティーには、色々と配慮する」
「いいでしょう」
そんな訳で、斡旋所に大きな貸しを作って、私達はこの依頼を受けることになった。
それから私達は、護衛依頼の準備に取り掛かった。
大物の魔獣を狩る為に人里離れた地域へと遠征するので、食料や野営の為の道具を買い込むことになったが、これらの費用は必要経費として斡旋所に出させた。
あと、女王蜂であるキラとの同盟度も上げて、スキルをコピーすることで自身の強化も欠かさない。
強敵と戦うのならば、なるべくスキルは多い方がいいし。
そんな感じで準備は順調だったのだが、私には1つ大きな問題が残っていた。
おそらく依頼任務が始まれば、10日以上は帰ってこられない。
そのことを、いつも一緒に寝ているティティに伝えると──、
「~~~~!」
言葉こそ無いが、彼女は首をプルプルと左右に振り、涙ながらに私へとすがりついた。
私に行ってほしくないらしい。
オークに襲われたトラウマが癒えていないから、私と離ればなれになるのが心細いのだろう。
今の彼女にとって、私は心の拠り所になっているみたいだし……。
「ごめんね……。
どうしても行かなければならないの。
私がいない間は、ラヴェンダ達と一緒に寝て我慢して?」
だけどティティは私にすがりついて、離れようとしない。
う~ん、困ったなぁ……。
あ、そうだ。
「頑張ったら、私が帰った後にご褒美をあげるから……ね?」
「……?」
ティティは「ご褒美」という言葉に興味を示して、私の方を見た。
そんな彼女の頬に、私は軽くキスをする。
「~~~~~っ!?」
「……これの続きじゃ嫌?」
ティティは真っ赤な顔をして首を振った。
ふふっ、可愛いなぁ。
「それじゃあ、明日の朝には出発するから、それまでは一緒だよ」
こくりと頷くティティ。
この夜の彼女は、いつもよりしっかりと抱きついてきて、ちょっと暑かった。
夜が明けて、依頼人との合流場所である町の正門前で待っていると、馬車がきた。
停留した馬車の前に、私達は跪く。
「よい、私達はお忍びできたのだ。
身分がばれるような扱いは無用だ」
と、馬車から降りてきた女性は言った。
いや、庶民がなかなか利用できないような馬車に乗っている時点で、身分の高い人だというのは分かると思うけど、それに思い至らない辺りは、お嬢様育ちということなのだろう。
その女性は20歳くらいで、栗色の長い髪をした人だった。
ただ、前髪を上げていて、おでこが完全に露出している。
その気の強さまで露出しているようで、あまりお嬢様という印象ではないね。
髪型もポニーテールにしているけど、どちらかというと侍の丁髷を連想する。
まさに武人といった感じの人だ。
この人がラムラス様かな?
「さ、お嬢様どうぞ」
あれ? 馬車の中に、まだ誰かいる。
そして降りてきたのは──、
「出迎えご苦労。
私がラムラスじゃ!
そなた達には、我が偉業の手助けをする栄誉を与えようぞ!」
炎のような赤毛を持つ、私と同い年の少女だった。
うわぁ、凄く生意気そう……。
昔のティティを思い出すなぁ。
次回は幕間のエピソードですが、明日は用事があるので、更新はお休みします。




