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6 新たな依頼

「ん……」


 ベッドの中で目が覚めると、まだ周囲は薄暗かった。

 そしてティティが、私にしがみついて震えている。

 毎晩のようにあることだけど、怖い夢を見ているらしい。


「大丈夫だよ……」


 私が頭を撫でてあげると、その震えは止まった。 

 安心したかのように、ティティの穏やかな寝息が聞こえてくる。

 どうすれば彼女が負ったトラウマを、消してあげることができるのだろうか?

 なにか……別のことに夢中にさせれば……。


 いっそ肉欲に溺れさせてみる?

 オークにされたことが心の傷になっているのなら、私がそれを快感で塗り替えて……というのは、さすがに最終手段というか、外道の考え方だな……。


 私はそんなことを考えつつ、ティティの私よりも小さな身体(からだ)を抱きしめながら、朝を待った。


 朝になって目覚めたティティは、メイド服に着替えて働き始める。

 料理を用意し、屋敷の掃除をし、汚れた服を洗濯し──と、そんな感じで、彼女はこの屋敷での生活を取り仕切る立場だと言えた。


 それと新事業の従業員になる予定である他の5人は、商品開発作業に従事してもらう。

 今日はキャロルさんに仕入れてもらった普通の蜂の巣を使って蜜蝋を作り、それから更にリップクリームの試作品を作ってもらうことになっている。

 

 それが上手くいけば、実際にキラービーの蜂の巣を使って、量産体制を確立していくことになっていた。

 まあ、すぐには成功しないだろうから、ゆっくりと取り組んでもらおう。


 一方私達冒険者組は、事業の運転資金を稼いだり、商品の材料となる素材を採取したりする為に、冒険者として働く。

 ただしラヴェンダだけは、家で番犬をしつつ、従業員達の作業を監督してもらおうと思っている。

 その為に、私がぼんやりと憶えているリップクリームの作り方を、彼女に教え込んでおいた。


 そんな感じで、私達の新しい生活は始まったのだ。




 今日は斡旋所に行くことにする。

 もう素材採取系の仕事は、キャロルさんへ直接納品することができるので、わざわざ手数料を払う必要がある斡旋所を通して、依頼を受ける必要は無い。

 ただ、討伐系や護衛系などの依頼は、斡旋所じゃないと簡単には見つけられないので、それらの依頼の中で良い物があれば、受けてみよう……という訳だ。


 まあ、あまり期待はしていないけど、斡旋所の掲示板に貼り出されている依頼書を、一応確認してみる。

 最近はカトラさんに字の読み書きを習っているので、さすがに数字くらいは読めるようになってきた。

 すると──、


「え……と、金貨20枚!?」


 約300万円相当という、なかなかの大仕事があった。


「これ、どんな依頼なんですか?」


「ふむ……護衛依頼だな。

 ただし、女性限定と書いてある」


 エルシィさんはそう教えてくれた。


「女性の要人を、護衛するということでしょうかね?」


 それかスケベオヤジが、女の人とお近づきになりたくて……ということも考えられるけど。

 そんな懸念が顔に出てしまったのか、カトラさんは、


「まあ……あまりおかしな依頼は、斡旋所も受けないとは思いますが……。

 貴族とかが相手だと、ちょっと分かりません……」


 と、補足してくれた。


「詳しい内容は受付で聞いてくれ……って書いてあるから、とりあえず聞いてみるか?」


「そうですね」


 そんな訳で、受付に行くことになったのだが──、


「別室で説明します」


 と、受付の人に案内された。

 あ~……、これって話を聞いたら、後戻りできないやつでは?


「君達には、是非この依頼を受けてほしい」


 そして予想通り、通された部屋にいたのは、斡旋所の所長を名乗るおじさんだった。

 たぶん元冒険者なのだろう。

 第一印象から「屈強の男」って感じだ。


 ……男の人には『百合』が通用しないから、ちょっと怖い。

 その所長が私達の顔を見るなり、依頼を強制するような物言いなのだから、当然印象は良くなかった。


「依頼を受けるかどうかは、内容を聞いてから決めるけど?」

 

「それがそうもいかんのだ。

 女性限定という条件に当てはまり、実力があるパーティーが他に見当たらん。

 君達が今日現れなければ、こちらから話を持ちかけるつもりだった」


「つまり斡旋所としても、放置できない依頼ということですか?」


「うむ……貴族からの依頼だからな。

 たとえ君達が拒否したとしても、いずれは召集がかかったことだろう」


 うわぁ……貴族絡みかぁ。


「面倒事に首を突っ込むのに、金貨20枚じゃ割に合わないような気がするんだけど?」


「斡旋所から、迷惑料として金貨10枚を上乗せしてもいい」


「ん……まあそういうことなら……」


 ここで初めて私達は、交渉の席に着いた。

 まあ、交渉は2人に任せて、私は黙っているけどさ。

 というか、拒否権が無い話は、交渉とは言わないか。


「それで、どのような依頼内容なのですか?」


「うむ……ランガスタ伯爵家の名を聞いたことは?」


「ありませんね」


「私も。

 新興の家なのか?」


 当然カトラさんとエルシィさんが知らないものを、私が知るはずもない。


「そのようだな。

 我々も詳しくは知らんが、武勲を挙げて成り上がった家だと聞く。

 それだけに、その後継ぎ候補には、試練が与えられるという」


 あ~……家を継ぎたきゃ、魔物の大物でも仕留めてこい……という話なのか。

 そしてその後継ぎ候補の護衛を、私達にやらせたい……と。


 そんな私の予想は当たっていたようで──、


「君達には、その試練を受けるランガスタ伯爵家令嬢、ラムラス様の護衛を頼みたい」


 という話のようだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴族の後ろ盾手に入れるチャンス。それも上級貴族!!
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