表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/206

2 商人との接触

 そこは町の商店街から外れた場所で、周囲は少し閑散としていた。

 そんな区画の中に、カラフルな壁や屋根の店がある。

 看板も可愛らしいロゴで……いや、私にはなんて書いてあるのか読めないけど。

 そろそろ字の読み書きを、習った方がいいのかもしれない。


「これ、なんて読むんです?」


 私はカトラさんに聞いた。

 そして返ってきた答えは、


「キャロル商会ですよ」

 

 名前も可愛らしかった。

 小さな店だけど、これは目立つなぁ……。

 この異世界でも、かなり特異な店なのでは?

 客が寄りつくのだろうか?


 それでは店に入ってみようか。


「ラヴェンダは、外で周囲を警戒していてね」


「はい、お任せを」


 彼女が裏切るとは思わないけど、まだ隷属度が100%には達していないので、念の為に外で待たせて、商談内容を聞かせないようにする。

 それに蜂蜜の秘密を、まだ嗅ぎ回っている者達がいる可能性もあるし、警戒は必要だ。


 ちなみに、クルルは森に行っている。

 町の中を歩き回るには、「透明化」の持続時間が足りないんだよね。

 精々家から町の外に出るまでの距離を走る間、スキルを維持するのが限界のようだ。

 だから昼間は、森に隠れていてもらった方がいい。

 狭い庭に隠れていたのでは、息苦しいだろうし……。


 なお、町の門が閉まっていても、クルルは余裕で高い塀を越えられるので、出入りに関しては問題無い。

 熊って木登りが得意だしね……。


「ごめんくださーい」


 店に入ると、中には沢山の商品が並んでいた。

 武具から雑貨まで──中には高価そうなものもあり、品質を売りにしているのではないかということが察せられる。


「はーい、只今~」


 店の奥から、野太い声が聞こえてきた。

 ……野太い?

 私の希望は、女性の商人だったよね……?


 そして奥から出てきたのは、2m近い大男だった。

 ……? ……男か?

 なんだか、フリフリのエプロンドレスみたいのを着ているんだけど……。


「よお、商売の話を持ってきたぞ」


「あら、カトラとエルシィ。

 久しぶりね。

 それと……可愛いお嬢さん、いらっしゃ~い」


「は……はじめまして」

 

 やっぱり声は野太いな!?

 でも口調は女性的……。

 つまり精神は女性というタイプか!


 う~ん、これ『百合』が効くのだろうか?

 できれば効いてくれる方が、裏切りの心配が無くていいんだけど……。


 ……ん?


「あの……お肌が綺麗ですね?」


「あらぁ、分かるぅ。

 お手入れには、余念が無いつもりよぉ」


 この人、確かに身体は大きくて骨格も男の人だけど、顔は整っていて化粧もナチュラルメイクだから、美人と言えば美人なんだよね……。

 それに肌は赤ちゃんのようにツルツルだし、これはかなり美容に力を入れているな?


 少なくともその辺の村娘よりは、身だしなみのレベルが高いと思う。

 これはかなりの信念を持って、この格好をしている──それだけは確かだろうね。


 ……まあ、この世界では奇人変人として扱われるだろうし、それは商売的にも不利なのかもしれないけれど、それでも店を持つことができるのは、彼女(・・)の実力が確かな証拠なのではなかろうか。


 なるほど、エルシィさんとカトラさんが、戸惑いつつも推薦してくれた理由も納得だ。


「あ、あの!

 買い取ってもらいたいものがあります」


「あら、何かしら?」


 私はキラービーの巣箱|を差し出して、その中身を見せた。


「……!!」


 さきほどまでニコニコしていた店主の顔が、真剣なものへと変わった。


「これは……キラービーのものね?」


「はい」


「……この前、久しぶりに市場に流れたとは聞いていたけど、あなたが?」


「はい。

 斡旋所は信用できないので、直接納品できるほど信用できるお店を探していました。

 これを、定期的に納品できるアテがあります」


「…………!!

 定期的に……!?」


 私の言葉に、店主は更に真剣な顔となる。

 安易に「棚からぼた餅」とか考えていたら、こんな表情にはならないだろう。

 おそらくキラービーの蜂蜜を、独占的販売できることで生じるメリットとデメリットを、慎重に天秤にかけているのだと思う。

 そういう判断ができる時点で、たぶん商売人としての腕は確かなのだろうし、欲望に身を任せて破滅を招くこともないのかもしれない。


「条件は何かしら……?」


 店主のその言葉は、条件次第で販売契約を結んでもいいということだ。

 少なくとも、私が持ち込んだ取り引きに魅力は感じている。

 そもそも、この話を聞いたからには、後戻りは難しいと思うけれど……。


「私が納品したということは、秘密にしてもらいたいです」


「……当然ね。

 私、まだ死にたくないわ」


 ああ、馬鹿な男の死は知っているのか。

 さすが商人、情報を得るのが早い。


「それと、できるだけ身分のある女性に売ってもらいたいです。

 私も同じ女性の、後ろ盾が欲しいので……。

 信用できる相手ならば、私のことを紹介しても構いません」


「分かったわ。

 他には?」


「以上です」


「そういうことならば、喜んで契約を結びたいわ。

 あら、自己紹介が遅れたわね。

 私はキャロルよ」


「私はマルルです」

 

 キャロルね……。

 おそらく偽名なんだろうけれどね……。


 ん……?

 ステータスに何か?

 最近は新しい項目が増えると、自動でお知らせしてくれる。


───────────────

  親密度 クルル   100%

      カトラ   100%

      エルシィ  100%

  従属度 ラヴェンダ 92%

  同盟度 キラ    88%

      ケヴィン  53%

───────────────


 ケヴィン!?

 誰それ!?

 いや、知ってるけどね!?

 というか、『百合』が効くんだ!?

 誤字報告、ありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] つまりこの百合ならはぴねすの準とかにも効くのか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ