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15 眠れない夜が明けて

「ただいまー」

 

 クルルとラヴェンダを一通りもふった後、私は家に入る。

 ラヴェンダは宿を取っていたらしいけれど、彼女の仲間達が帰らぬ人になってしまった今、彼らの関係者から何らかの接触も有り得るので、ほとぼりが冷めるまで我らの家で身を隠してもらうことにした。


「さ、入って。

 ベッドは無いから、当面の間は床で寝てもらうけれど」


「いえ、お(そば)においていただけるだけで、光栄です」


 と、ラヴェンダは、玄関の外にいるクルルへと、勝ち誇った視線を送った。

 だからなにを張り合っているんだね、君は……。

 さすがに熊の巨体では家の中は狭いし、全身も汚れているから入れられないだけで、ラヴェンダの方が特別上だとか言うことではないからね?


「お、戻ったか。

 おかえりー」


「1人で、大丈夫でしたか?」


 家に入ると、エルシィさんとカトラさんが出迎えてくれた。

 「透明化」のスキルを持たない2人では隠密行動ができないので、お留守番をしていてもらったのだ。

 ちなみにクルルは「透明化」が使えるけど、魔力に限りが有る為に常時発動できる訳ではない。

 なので大きな身体(からだ)の彼女では、商人の屋敷に身の隠し場所が少ないと思い、やはりお留守番をしてもらっていた。


 つまり私と蜂だけで、暗殺行為をしてきたことになる。

 ……日本に住んでいた頃にはこんなことに手を染めるようになるなんて、思ってもいなかったよ……。

 そんな想いが顔に出てしまったのか、


「大丈夫か、マルル?」


 エルシィさんが、心配そうに声をかけてくれた。

 私は慌てて、


「だ、大丈夫ですよ!」


 内心では大丈夫ではないと思いつつも、否定する。

 その後私は、シャワーを浴びてさっさと眠ることにした。




 …………眠れない。

 ベッドに入ってじっとしていると、今日私がしてしまったことで、頭が一杯になる。

 

 人を殺してしまった。


 日本にいた頃には、考えられないことだ。

 だけどこの世界では、人の命が軽い。

 日常的に戦争が起こっているようなもので、ちょっと油断しているとすぐ巻き込まれて死ぬ。


 だから……抵抗することは、悪ではないはずだ。

 だからと言って、簡単に割り切れるものなのかというと、それは違う。

 しかし黙ってこの状況に甘んじていたら、また同じようなことが起こる……。


 それに対応できるようになる為に私は、色々なことに備え、そして強くならなければならない。

 でもそれは途方もないことで、私にうまくできるのか──と、不安になる。


 不安を抱えつつ、これからやるべきことを考えていると、段々訳が分からなくなってきた。

 結局、いくら頭の中で考えても、実行してみなければ、それが正しいのか結果が見えてこないのだから──。

 それでも考えることは、なかなかやめることができなかった。


「マルル、眠れない?」


「えっ、エルシィさん、なんで?」


 同じベッドで眠っていたはずの、エルシィさんが声をかけてくる。

 なんで起きていることが、分かったんだろう?


「呼吸で眠っているかどうかは、分かりますよ」


「カトラさんも!?」


 そうか、寝息で分かるんだ。

 いや、もしかしたら親密度100%の効果で、私の心が伝わっていたのかも……。

 それはそうと、なんで2人とも起きているんですかね……?


「今日は大変だったな。

 冒険者をやっていれば、野盗と戦うことはよくある。

 だけど最初はやっぱり、眠れなくなる」


「……お2人も?」


「そうですね。

 人間同士が戦うことがあるなんて、分かりきっていたはずなのですが、実際に経験すると想像とは違っていて、ショックを受けました」


「それで、もっと上手くできなかったものか……とか、色々と考えてしまったりな」


 そっか、その経験から私も眠れなくなっていると、心配してくれたのか。


「お2人とも、ありがとうございます」


 2人の優しさに触れて、私は少し安心できたように思う。

 これで眠れるようになるだろうか?

 ──そう思ったが、それどころではなくなってしまった。


 あれ? 2人とも、さっきよりも私に密着していない?


「眠れないのなら、余計なことを考えられないようにしたらいいんだ」


 と、エルシィさんは私の首筋にキスをした。


「ひゃっ!?

 え、え、え?」


「大丈夫ですよ、優しくしますから」


 今度はカトラさんが、私の耳を甘噛みする。


「ふぁっ!?」


 2人同時になんて……!

 いつかこういう日がくるとは思って覚悟はしていたけど、今日なの!? 今なの!?


「ふむっ……」


 うう……2人の攻めで、声が漏れちゃう……!

 近くの部屋にはラヴェンダもいるのに……聞こえちゃう……!

 でも……でも……、


「ふひゃあぁぁぁ──っ!」


 こんなの我慢できないよぉ──!




 ……おはようございます。

 私は息苦しさによって、目を覚ました。

 今の私はエルシィさんとカトラさんにサンドイッチ状態で、私の顔はカトラさんの大きな胸に挟まれ、苦しいけど至福の感触……という、天国と地獄を味わっている。


 うん、なんだか凄かったね……。

 さすがに2人がかりが相手では、私は何もできなかったよ……。

 だけどこんなことで、生きていて良かった──と、思ってしまう。


 そして昨日の戦いで、仲間が誰も死ななくて良かった……とも。

 改めてそう思うし、だからこそ強くなろうと思う。


 それから私は、2人を起こさないようになんとかベッドから抜けだし、外のシャワー小屋で水浴びをすることにした。

 もう全身が汗とか色々な液体で汚れているし……。

 私は身体にタオルを巻いて、部屋を出る。


「あ……」


 すると、ラヴェンダと目が合う。

 私が部屋から出るのを待っていた?

 そんな彼女は、


「わ、私もご奉仕できるように、頑張ります!」


 と、顔を赤らめ、私の身体から少し目を逸らしながら言った。

 やっぱり私の嬌声(きょうせい)を、聞かれていた……。


「う、うん。

 頑張ってね……」


 こりゃ、ラヴェンダからも数日中に襲われるかな?

 いや、あくまでも主人は私だから、なんとか主導権を握って……。

 って、いかん。

 ちょっと頭の中が、ピンク色に染まっているなぁ……。


 なおこの後、外に出てシャワー小屋に入る前に、クルルに全身をなめ回された。

 この子も私の声を聞いていて、興奮していたのかもしれない。


 そんな、屋外で全裸にされてぇ~っっ!?


 塀があるとはいえ誰かに見られるかもしれないし、ラヴェンダの目もあるので、「透明化」のスキルで隠したけど、こんなことで使うことになろうとは思っていなかったよ……。

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 次回は幕間のエピソードです。

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