14 ワンワン
私が家に帰ると、玄関先ではラヴェンダが待っていた。
忠犬ハチ公かな?
「お、おかえりなさいませ、マルル様」
ラヴェンダは愛想笑いのように、少し引き攣った笑顔を浮かべる。
私に気に入ってもらえるようにと、必死になっている印象だ。
でも、そんなに尻尾を振ったって、餌はやらな──、
「え?」
ラヴェンダのお尻の辺りで、何かが動いた。
え、本当に尻尾を振っている!?
「なにこれ!?」
「ひゃんっ!?」
私は思わずそれを掴んでしまった。
そこには短めだけど、確かに尻尾がある。
ラヴェンダの腰には布が巻いてあり、それはファッション的なものだと思っていたけど……。
この布で、尻尾を隠していたのか……。
それにしてもこの尻尾、黒い毛並みで犬のような形だな……。
え……もしかして、ラヴェンダが頭に巻いている布の下にも……!?
「そこに、耳があるの!?」
「うっ……はい」
ラヴェンダは気まずそうに頷いた。
解せぬ。
素晴らしいことじゃないか。
「見せて、見せて!」
「………………はい」
ラヴェンダはかなり迷った末に、頭の布を外した。
そこからは、立派な犬耳が現れる。
そうか、ラヴェンダは獣人だったのか!
ファンタジー小説ではお馴染みだけど、生で初めて見た!
なるほど、あの高い身体能力も納得だよ。
「これ触ってもいい!?」
「そんな……こんな汚らわしいものになんて……」
「え、そんなことないけど?」
「そんな……嘘です」
どうやらラヴェンダは、獣人であることに強い劣等感を持っているようだ。
あ~……これはもしかして、獣人が差別を受けているとかいう、異世界あるあるなのかな?
耳や尻尾を隠していたことを考えると、たぶん間違い無いのだろう。
でも、そんなことは私には関係ない。
「凄く可愛いから、触らせてね?」
「ふやっ!?」
私は有無を言わさず、ラヴェンダの耳を触る。
うん、毛の手触りもいいし、フニフニした感触も最高だ。
これを毛嫌いするとか、この世界の人間は馬鹿なんじゃないかな?
「だ……駄目ですぅ……!」
ラヴェンダがプルプルと震えながら、ギブアップともとれるような、切羽詰まった声を上げた。
「ああ、ごめんね。
強引にやり過ぎたかな?」
「それはまあ……はい」
ラヴェンダは荒くなった呼吸を、必死で整えようとしていた。
顔も真っ赤だし、もしかして私は、獣人にとって胸を揉みしだくのと同じくらい、破廉恥なことをやらかしてしまったのだろうか?
だが、悔いは無いし、反省もしない。
そしてラヴェンダは、とんでもないことを口にする。
「でも……ご主人様になら、またしてもらっても……」
「へっ、ご主人様!?
私が!?」
「はい!」
いい笑顔で肯定されても、理解が追いつかないよ!?
……いや、でも犬型の獣人なら、群れのボスに対して従うような習性があってもおかしくないのか。
どっちが上なのかは、もう完全に分からせているからなぁ……。
だとしても、ちょろくない!?
あ、ラヴェンダの従属度がまた上がって、82%になっている。
これならステータスも見られるようになるけど、マジでちょろい……
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・ラヴェンダ 15歳 女 LV・11
・職業 冒険者
・生命力 103/103
・魔 力 74/74
・ 力 88
・耐 久 96
・知 力 68
・体 力 123
・速 度 138
・器 用 87
・ 運 84
・ギフト 暗殺術
・スキル
気配隠蔽
気配感知
暗 視
スリの手
臭覚強化
即死突き
身体強化
投 擲
操 糸
───────────────
ふぁっ、『暗殺術』!?
剣呑なギフトを持っているなぁ……。
関連スキルは私向けじゃなさそうだし、コピーしても使う機会もあまり無さそう……。
う~ん、ラヴェンダには彼女にしかできないことで、働いてもらうことにするかな。
まあ……スキルだけ見ると、犯罪的な面でしか活躍の場が無いような気もするけれど、私の護衛や諜報活動という方向でならなんとか……。
「これから、沢山役に立ってもらうからね、ラヴェンダ!」
と、私はラヴェンダの頭を撫でる。
「はっ、お任せを!」
……めっちゃ、尻尾を振っている……。
可愛いから、もっと頭を撫でて上げよう。
「あっ……!
くうぅ……ん」
ラヴェンダの鼻から、甘えた声が微かに漏れる。
むう……凄くもふりたくなってくるじゃないか。
恐るべし、獣人……!
「ん?」
その時、「トン」と、背中に軽い衝撃を感じて振り向くと、
「わ、クルル?」
クルルが鼻先を私に押しつけていた。
そういえば「透明化」のスキルを獲得したから、こっそりと町の中までついてきていたんだっけ。
クルルはグイグイと鼻先を押しつけてくる。
ああ、ラヴェンダばかりを構うんじゃなく、自分も構えってことか。
「わかった、わかった。
クルルも可愛いよー」
私はクルルをわしゃわしゃと撫で回したけど、今度はラヴェンダが羨ましそうな視線を向けてくる。
君、熊とペット枠を争う気かい?
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