13 従属と報復
今日も読んでいただき、ありがとうございます。
最近親密度のリストに入った「蜂の巣」──。
キラービーは数千匹以上いるので、1つの巣で1個体としてカウントされているらしい。
その親密度がまた上がってるね。
それはまあいいとして……。
なんだかラヴェンダが、私の従属ってことになっているっぽいんだけど!?
え、『百合』ってそんなのもあるの!?
本来なら敵だったラヴェンダは、死んだ仲間と同じ運命を辿ってもらうか、官憲に突き出すか、脅した上で解放するか──それしか選択肢は無かったんだよね……。
だけど脅しが効きすぎたのか彼女は、私に対する反抗心を完全に失ってしまったようだ。
どうやらこの状態になっても、私の眷属に含めることが可能らしい。
しかも「従属」としてだ。
つまりラヴェンダを、完全に支配することもできるってこと?
彼女は身体能力が高かったから役に立ちそうだし、そのスキルを得られるのならば悪くないな……。
「エルシィさん、カトラさん。
この子、『百合』の影響で私の支配下に入ったみたいなので、仲間に入れたいと思うのですが、いいですか?」
「えっ、大丈夫なの?」
「はい、私にはもう逆らわないと思います」
従属度が下がることがあるのかはよく分からないけれど、少なくとも高ければ私を裏切ることは無いだろう。
そういう意味では、今後のラヴェンダは信用できる。
「そういうことならば、いいですが……」
よし、2人からも許可が出た。
「よし、それじゃあこれから色々と協力してもらうよ。
いいよね、ラヴェンダ?」
「~~~~~~!」
私が上から目線で告げると、
「は……はい!」
ラヴェンダは顔を上気させ、呼吸を少し荒くしながら答えた。
あ、従属度も59%から63%に上がっている。
……ドMなのかな?
その後、襲撃者達の遺体を、自然操作で掘った深い穴に放り込んでから、焼却して埋める。
こうしておけば遺体がゾンビ化したり、死肉を漁る魔物が寄ってきたりする可能性が無くなるそうだ。
ただ、森の中で火を使うと山火事が発生する可能性もあるし、煙を誰かに目撃されるのもまずい。
だから火の扱いには細心の注意を払った。
そして遺体の処理が終わったら、当初の予定通り、花畑に種を植えに行くことにする。
ここで慌てて町へ帰ったら、「何かがあった」と思う人間がいるかもしれない。
そして後日、万が一襲撃者達が死亡した件が明るみに出れば、それが私達の仕業として罪に問われる可能性も零ではないだろう。
そうならない為にも、「何も無かった」という行動を装った方が良いというのが、カトラさん達の意見だ。
それに私も、何か作業をしていた方が、嫌なことは忘れられるし……。
あと、蜂達にちょっとお願いがあるので、蜂の巣にも寄っていく。
ついでに蜂達の為の飲み水も、まいていくよ。
夕方になって私達は、町に帰ってきた。
ラヴェンダから聞いた話だと、私の誘拐を指示したのは、ロゴムドという商人だという。
その部下は身分を隠して彼女に接触してきたが、万が一の時に蜥蜴の尻尾切りをされては困るので、一応依頼者についても彼女は調べていたらしい。
私はこれから、その商人の屋敷に忍び込む。
丁度クルルが「透明化」のスキルを手に入れたので、それをコピーして「気配隠蔽」のスキルを併用すれば、誰にも気付かれずに敷地内にはいることができた。
まあ、さすがに屋内への侵入は、鍵とかがあって難しいだろうけど、そろそろ夏の暑さも本格的になってくるので、窓は開いているはずだ。
そこから話し声を聞くことくらいは、できるだろう。
おっ?
何処かから、怒鳴り声が聞こえてくる。
え~と、この部屋かな?
私はその部屋の中を、窓から覗き込む。
中には少し太り気味でハゲ頭をした壮年の男と、その部下と思われる若い男の姿があった。
ふむ……ハゲはラヴェンダから聞いたロゴムドの特徴と一致しているから、こいつが主犯の男ということで間違いないな。
「まだ何も連絡が無いということは、失敗したということか!?」
「おそらくは……」
部下の男が悪い訳でも無いのに、彼はペコペコと頭を下げている。
パワハラか。
思い出すなぁ……ブラック企業時代。
ちょっと同情してしまうが、それとこれとは話は別だ。
犯罪行為に関わっているのだから、多少は怖い想いをしてもらおう。
「クソ……所詮はならず者揃いの冒険者か。
役に立たん!」
まあ……ねぇ……。
冒険者なんて身分も怪しい者ばかりだし、実際に犯罪行為に手を染めている者がいることも、今回は身をもって体験した。
私達がやったことも正当防衛だとはいえ、権力者が「罪だ」と言えば、罪になってしまうだろう。
それだけ立場が弱い。
そもそも、依頼を受けなきゃ、ただの無職なんだ……。
だけど私も冒険者の一員なので、ちょっとカチンとくる物言いだった。
「次はもう少しまともな連中を雇え!
キラービーの蜂蜜が大量に手に入れば、貴族の地位が買えるくらいの儲けが期待できるんだ!
もう失敗は許さんっ!!」
はい、犯罪教唆の、言質をいただきましたー。
というか、あの蜂蜜をノーリスクで手に入れられる私って、貴族になれる可能性があるの!?
それくらい大金が手に入るのなら、これからも狙われる可能性があるのだろうなぁ……。
じゃあ、そうならない為にも、こいつには見せしめになってもらおうか……!
私も好き好んで人を殺したい訳じゃないけど、やるべき時にやっておかなければ、後々もっと面倒なことになる世界だ。
それにもうこの手は血で汚れているのだから、今更躊躇う必要もない……はず。
ここでやらなければ、次から次に刺客が送られてくるから──私はそう自分に言い訳して、暗殺を決意する。
狙うのはロゴムドが1人になってからだ。
「蜂さん、お願いね」
私は頃合いを見計らって、この為に連れてきた数匹の蜂達を部屋に送り込んだ。
このキラービーの毒は、人が即死するほど強いらしいので、一刺しで終わりだ。
人の命を安全な場所から使い潰そうとしていた人間が、寿命を全うできるなんて思うなよ……!
「ぐっ……!?
がぁ……!」
ロゴムドを刺した蜂達が戻ってくる。
あっ……そういえば普通の蜜蜂が針を使うと、針が抜けて死んでしまうらしいけれど、大丈夫だったかな?
……うん、キラービーにはそういうことは無いみたい。
「ありがとう。
今度何かお礼をするね。
ここから巣に帰れる?」
そう問うと、蜂達は私の周囲をくるくると飛び回った後、夜空に消えていった。
どうやら蜂の行動範囲はかなり広いらしく、問題は無いようだ。
……これで私が直接関与したという証拠も無く、邪魔者を排除できた。
上手くいけばロゴムドは、病死として処理されるだろう。
私達は罪には問われない。
それでいて、私に手を出せばどうなるのか……。
それはあの部下の男や、斡旋所で私の情報を漏らした奴など、分かる人には分かるだろう。
これが警告になればいいんだけどね……。