12 尋 問
戦いは終わった……。
だけど、襲撃者達の遺体は残っている。
正直言ってオークに食い荒らされた村人を見た後だと、私にはそれほどショッキングな光景ではなくなっているんだけど、それでも自分達がやった結果なのだと思うと、胃が重くなってくる……。
それに──。
「これ……私達が埋葬しなきゃ、いけないんですよね?」
「そうだな……。
放置していると、魔物が寄ってくるかもしれないし……」
そうかぁ……。
嫌だなぁ……。
遺体には触りたくないなぁ……。
「少し休んで魔力が回復したら、穴を掘ってそこで火葬しましょう」
「そうですね。
私も魔力は残り少ないから、休んだ方がいいですね」
魔力を回復させる「魔回復弱」のスキルがあるから、たぶん3時間もあれば完全回復するかな?
それじゃあ回復するまでの間に、やることをやっておこう……。
「ねえ、起きて」
唯一生き残っている女に、尋問をすることにした。
勿論、手足を縄で拘束しているし、いざという時はいつでもクルルが飛びかかれるような状態にしてある。
「ん……ひっ!?」
目を覚ました途端、目の前にクルルの姿を認めた女は、小さく悲鳴を上げた。
「大人しくして。
私の質問に答えてくれたら、熊はけしかけない。
まず、名前は?」
「え……あ……?」
状況が分からず混乱しているのか、女は答えない。
「クルル」
私の合図で、クルルは女に近づき、大きく口を開いて鋭い牙を見せつける。
勿論、噛みつくフリだけで、実際に噛みつく訳ではない。
事前に打ち合わせをしていなくても、ちゃんと私の意図通りに動いてくれるのだから、本当に賢い。
後で何かご褒美をあげよう。
一方、クルルの演技を見破ることができない女は──、
「ひっ、ひいぃぃぃっ!!
ら、ラヴェンダ、ラヴェンダだ!」
拘束された身体を芋虫のようによじりながら、女は叫んだ。
よし、名前を言ったようなので、私はクルルを下がらせる。
「ラヴェンダ……。
それが名前なんだね?」
「はい……」
ラヴェンダはよっぽどクルルが恐ろしかったのか、それとも『百合』の効果なのか、その後は質問へと素直に答えてくれた。
金に困っていたラヴェンダは、ある時寂れた路地裏で見知らぬ男から声をかけられ、調査の依頼を受けたらしい。
依頼者はとある商人の部下を名乗る男で、珍しくキラービーの蜂蜜が市場に売り出された為、その出所を調べて欲しい……ということだった。
で、調査の結果、私に行き着いたので、それを依頼人に報告したところ、私の誘拐話が持ち上がったらしい。
私を奴隷にして逆らえないようにすれば、蜂蜜を大量に手に入れられるので、そうなれば大儲けができる──と、金に困っていそうな冒険者を集めて計画を進めていたそうだ。
ただ、エルシィさんとカトラさんが護衛に付いていたので実行できず、このままではまずいということで、更に人員を集めて今日襲撃を決行したという訳だ。
「なるほどな……これは斡旋所から、情報が漏れているかもな……」
まあ、私を特定できたのだから、そうなのだろうね。
情報が漏れるとしたら、私が蜂蜜を売った斡旋所しかないだろう。
「そこのところ、どうなの……?」
「はい、斡旋所の職員に聞きました……」
やっぱりか……。
その手段は分からないけれど、金に困っていたと言う彼女が賄賂を使えるとは思えないから、色仕掛けでもしたのかな?
ラヴェンダは黒髪をショートカットにしていて、少しボーイッシュな印象はあるけれど、胸はそこそこ大きいし、若くて顔も美人な方だと思うので、ハニートラップは可能だろう。
私は男に媚びを売ったラヴェンダに嫌悪感を覚えて、思わずゴミを見るような目で見てしまった。
「──っ」
それに気付いたラヴェンダは、身を縮こませてしまう。
う~ん、『百合』の所為か分からないけれど、男の人に対して敵意が湧きやすくなっているな……。
でも、今回は私だけではなく、エルシィさんやカトラさんを巻き込んだ訳だし、男女とか関係なく許しがたいと感じている。
これは黒幕の商人に対して、報復することを考えないと……!
「斡旋所には後で苦情をいれるとして、その商人はどうします?」
「難しい問題ですねぇ……。
こちらの訴えが通じるかどうか……」
カトラさんは、困ったように首を傾げた。
彼女が危惧するように、おそらくラヴェンダの証言だけでは、公的に罰を与えることは難しいだろう。
なぜならば、物証が何一つ無いからだ。
しかも法が整備されていないこの世界では、社会的な地位が物を言う。
フリーターともいえる冒険者よりも、商人の方が権力を持っているだろうし、賄賂なんかを駆使する可能性も考えると、正面から戦っても政治面で負ける……。
う~ん……今はいいアイデアが浮かばない。
対策は後で考えるとして、まずは目の前のことだな。
「ねえ、ラヴェンダ。
あなたの仲間達の遺体、これから焼却するんだけど、運ぶのを手伝ってもらうよ?」
「え……」
ラヴェンダは蒼白になって絶句する。
これから決める彼女への処遇次第では、彼女自身も火葬される遺体のお仲間入りをしてもらうことになるるのだから、当然の反応だよね。
まさに自分で墓穴を掘るがごとき行為だ。
私も厳しいことを言っているが、これは彼女に対しての罰なので、拒否権は無い。
というか、私は遺体に触りたくないので、彼女に任せる。
「できるよ、ね?」
「は……はい」
私が強めに問うと、ラヴェンダは素直に答えた。
よし、良い子だ。
「頑張れば、許してあげるよ」
「が、頑張ります」
命が助かる可能性が出てきて、ラヴェンダはほっとした顔をする。
ふむ……『百合』の効果なのか、結構従順だな。
これならば、殺す必要は無さそうだ。
さて、そろそろ魔力は回復したかな……?
お?
私のステータス画面に、何か項目が増えている。
───────────────
親密度 クルル 100%
カトラ 100%
エルシィ 100%
蜂の巣 72%
従属度 ラヴェンダ 59%
───────────────
え、なんじゃこりゃ!?
感想、ありがたいです。