11 強 敵
カトラさんの肩に突き刺さったナイフ──それを投げつけたのは、ボスの背後にいる男のようだ。
そいつは30歳くらいの、酷く痩せた男だった。
微妙に手足が長くて、カマキリっぽい印象がある。
こいつ、投げナイフ使いか!
くっ、魔法使いはもう潰しておいたから、遠距離攻撃は無いと油断していた。
「カトラさんっ!」
「カトラっ!!」
「だ、大丈夫……!
自分で回復できるから……。
だから前に集中してっ……!」
で、でも、ナイフ使いは私が相手をするにしても、私だけで大丈夫かな……?
それにエルシィさん1人で、ボスを倒せるかどうかも微妙だ。
ここは「眷属強化」を使った方がいいな……。
たぶん魔力の残量的に40秒ちょっとしかもたないだろうけれど、それでエルシィさんがボスに勝てれば御の字だ。
それにカトラさんの回復力が上がって、戦闘への復帰が早まる可能性もあるし……。
彼女の魔法による援護があれば、私が魔力切れでスキルを使えなくなっても、なんとかなるはずだ。
とにかくナイフ使いの意識を私に向けさせる為に、私はそいつの方に向かってゆく。
このままカトラさんへの攻撃を続けられたら、あっというまに死んでしまいかねないし。
「っ……!」
ナイフ使いが、懐に手を入れた。
そこからナイフを抜くの──
「ひっ!?」
私のすぐ横を、ナイフが通り過ぎた。
危なっ!!
躱すのがギリギリだったよ!
これ以上近づいたら、あの攻撃は躱せないなぁ……。
とはいえ、「眷属強化」を使ったままでは、遠距離からの魔法攻撃はできない。
ギリギリで解除して、残った魔力を魔法攻撃に回すという手もあるけど、それは最後の手だな……。
というか、さっきの攻撃、殺す気できたよね!?
こいつら、私達を誘拐するつもりじゃなかったの!?
もうそんな余裕も無いってことなのかな。
まあ、こっちも殺る気でやってるけどさぁ……。
あ、またナイフを投げた。
でも、今度は狙いを外し──、
「!?」
私の足下にナイフが突き刺さった瞬間、突然身動きが取れなくなった。
え!? ナイフが影に刺さっただけなのに──あ、確か忍術に「影縫い」っていうのがあったのを、漫画とかでみたことがあったはず。
それと同じような効果が、この影に刺さったナイフにあるってことだよね……!?
そ、そんなスキルもあるの!?
……となると、あのナイフ使いの職業かギフトは、「忍者」かそれに類するものってことか。
ヤバイじゃん!!
思っていた以上に強敵だぞ!
というか、私は動けないし……!
助けを呼ぼうにも、声すら出せない。
くっ……こうなったら、「眷属強化」を解除して、魔法で攻撃を──!
基本的にこの世界の魔法は無詠唱だから、私が身動きを取れなくても、問題無く発動できる。
って、避けるの!?
ナイフ使いに、あっさりと魔法攻撃を躱された。
あいつ、かなり素早いみたいだから、普通に攻撃しただけじゃ当たらない。
そして私は、あと2~3回しか魔法が使えないだけどぉ!?
うぐぅ……ど、どうすれば……。
……あ!
私の影に刺さっているナイフを、攻撃すればいいのか。
よし、ナイフを弾き飛ばしたら、動けるようになった!
これで反撃でき──、
「あ!」
気がついたら、投げナイフが目の前まで来ていた。
彼が手にしていたナイフが、私の方に向かってくる。
私は慌てて回避行動を取るけれど、これ回避できる気がしない!
ヤバイ、死ぬ、死ぬーっ!?
「ガアァーッ!!」
「ガフッ!?」
「えっ!?」
唐突にクルルが現れて、ナイフ使いの首筋に噛みついた。
そしてそのままブンブンと、身体を振り回す。
それ、さすがにもう死んでるわ……。
それにしてもクルル……なんでいきなり現れたの……?
あ、レベルが上がって、スキルが増えてる!!
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・クルル 2歳 雌 LV・18
・職業 狩人
・生命力 452/452
・魔 力 76/76
・ 力 266
・耐 久 294
・知 力 43
・体 力 428
・速 度 191
・器 用 40
・ 運 69
・ギフト ──
・スキル
食いつき
ひっかき
追 跡
臭覚強化
気配隠蔽
再生力弱
毒 無 効
暗 視
体当たり
透 明 化
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この「透明化」ってスキルが増えているけど、いつの間に……。
え……もしかして私がこの前クルルに、「姿が消せれば町には入れる」って言ったから?
だからこのスキルを習得してきたの?
でもスキルって、狙って習得できるものなんだっけ?
いや……でもカトラさんの魔法スキルって、学習することで習得したんだよね……。
そうか、スキルってレベルアップで自動的に得られる物だと思い込んでいたけど、意図して習得することも可能なんだ!
……まあ、どうやったら熊が透明化できるようになるのかってところは、よく分からないけれど……。
「気配隠蔽」のスキルを極限まで鍛えた……とか?
それはさておき、ボスの方だけど……。
「おお……ありがとう。
クルル……」
クルルがエルシィさんに加勢して、あっという間に倒してしまった。
おいおい瞬殺だよ……。
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