7 養蜂家系冒険者
誤字報告、助かります。
「え……銀貨14枚!?」
私はクルルと別れて町へ帰り、そして斡旋所へ素材を納品しに行くと、想定外の査定額を提示された。
「薬草と山菜は、量が多いので銀貨3枚ですね。
そしてこのキラービーの蜂蜜を含む巣の欠片は、銀貨11枚です」
「え、これって、そんなに貴重な物なんですか?」
この蜂の巣、両手の掌に載る程度のサイズでしかないんだけど……。
「キラービーの毒は強力で、一刺しで即死する人もいるくらいだから、巣に近づくこと自体が難しいのよ。
あなた……よく無事だったわね?」
と、係員のお姉さんは言った。
ひえっ、あの蜂達って、そんなにヤバイ子だったの!?
「わ、私は……毒に強い体質なので……」
と、誤魔化しておく。
この世界の人は、あまりスキルのことを理解していないみたいだし……。
でも、この蜂蜜が命懸けじゃないと手に入らないとなると、貴重品になるのも分かるなぁ……。
というか、命の値段だと考えるなら、銀貨11枚は安いくらいだ。
日本円だと、10万円にもならない──精々8万円ちょっとってところだろう。
だけど私なら、リスク無しで大量に手に入れることも可能だ。
あんな少量でこれだけの額になるのなら、その10倍以上の額を1日で稼ぐことも不可能ではない。
これから定期的に手に入れる方法を、考えた方がいいかも……。
ただ、私を慕ってくれる子達から、一方的に搾取したり、巣を壊したりするような真似はしたくないんだよなぁ……。
養蜂家みたいに巣箱を作って、そこに蜂蜜だけを溜めてくれるようにお願いしたら、蜂達はやってくれるかな……?
あと、蜂達にお礼をしたいけど、何ができるんだろう?
餌をあげる……って言っても、花粉とかだよね?
う~ん……すぐに蜂達の役には立たないけど、花畑でも作ろうかな?
「あの……花の種って入手できますか?」
私は斡旋所に、依頼を出してみることにした。
ここは素材の買取もやっているから、それを売る商人との繋がりもあるだろうし、そのツテで手に入れたり、冒険者に集めさせたりすることができるはずだ。
まあ、金額次第だけど、思わぬ収入もあったから、ちょっとくらいなら高くてもいいや。
それと帰りに、蜂の巣箱に使えそうな箱を商店街で買っていこう。
「おかえりなさーい」
「ただいまです」
家に帰ると、エルシィさんとカトラさんが出迎えてくれた。
心なしか2人の肌がツヤツヤしている。
それに部屋の窓も開け放たれて換気されているのに、室内でお香でも焚いたのか、なんだか煙のような臭いがした。
これは臭い消し……?
あっ……私がいない間にやったな?
まあ、そうやって発散してくれるのなら、その方がいいけれどさ。
さすがに3人で……ってのは、まだ早い気がするし。
まあそれよりも、今は蜂のことだ。
「あっ、聞いてください!
今日だけで銀貨14枚も稼げましたよ!」
「えっ!?」
「なにをしたら、そんなに!?」
驚く2人に、私は蜂のことを説明することにした。
え~と……『百合』の効果で、女性が無条件で私に好感を持つということも説明しないとつじつまが合わなくなっちゃうけど……。
親密度が100%になっている2人になら、もう話しても大丈夫かな?
その辺もまとめて話しちゃおうか。
「……という訳なんですけど、こんな心を操るようなギフト、気持ち悪くないですか?」
「ああ、そういうことか」
私の説明を受けて、エルシィさんは「合点がいった」という顔をした。
「前からそういう感じの力があるんじゃないか──とは、感じていたんだ」
「えっ!?」
「もしかしたら、マルルは魔性の存在なんじゃないか……って。
でも、マルルはいい子だから、これは悪いことじゃないな……って思って受け入れていた」
「そうですね。
マルルちゃんが悪い子なら、もっと違和感とかがあったのでしょうけど、特に不都合は無いので、まあいいかな……って」
2人は何処かおかしいと感じつつも、私のことを信頼してくれていたのか……。
この信頼を、私は裏切らないようにしよう……。
それにもうこの2人になら、なにをされてもいいや。
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げた。
「そんな、気にするなって。
それよりも……キラービーの蜂蜜を、リスク無しで採取できるって凄いぞ……。
それ、一財産になるから」
「ええ……雌が敵対しないのなら、殲滅が困難なソルジャーアントの討伐任務も受けられるのでは……」
……そのソルジャーアントがなんなのかはよく分からないけれど、蟻の巣に入るのは嫌だなぁ……。
でも私なら1人で潜入して、女王蟻を倒すことができるのかも……。
まあ、私に懐いてくれる子を倒すのは気が引けるから、余っ程の害獣じゃないとやらないけど……。
「それでですね……蜂達へのお礼と、今後も蜂蜜を安定供給できるようにする為に、花畑を作ろうと思うので、暫くそっちの作業をしたいのですが……」
「そういうことなら、私達も手伝うよ。
その方が早く終わるだろ?」
「え……でも、冒険者としてのお仕事は?」
私の都合に、2人を付き合わせるのはどうなんだろう……と思ったけれど、
「正直に言うと、蜂蜜の方が依頼を受けるよりもお金になりそうなので……」
「ああ……」
確かにそうかもしれない。
そして2人がこの件に関わらない場合、蜂蜜による収益は私が総取りすることになってしまう。
いや、さすがに家賃や食費などは払うけど、それ以上は働いていない人にお金を払う訳にはいかないもんね。
「分かりました。
明日からやるつもりですけど、いいですか?」
「いいですよ」
「おう!」
「あの……それじゃあ……」
私は巣箱の改造など、色々なことを2人に相談することにした。
そんな訳で翌日から私達は、森に花畑を作る作業を始めることになったんだけど、ちょっとした開墾になりそうだなぁ……。
でも魔法があれば、普通にやるよりは楽にできる……と、期待しよう。




