6 森の恵み
私は熊のクルルに乗って、森の奥へと進んでいく。
というか、クルルが勝手に進んで行く。
もう追っ手はいないはずなんだけどね。
「クルル、どこか行きたいところがあるの?」
「グゥ」
クルルはそうだと言わんばかりに、鳴いた。
しばらく進むと、木々が少ない開けた場所に出る。
日当たりがいいから、草が沢山生えていた。
「あ、ここなら薬草や山菜があるかも」
実際そこには、私が採取しようとしていたものが自生していた。
クルルは私が求めている物を、ちゃんと理解してくれていたようだ。
多少は『百合』の効果で、以心伝心的なことはできるとは言え、頭のいい子だ。
私は空間収納から、持ってきたお肉を出す。
「ありがとう、クルル。
これお肉、食べてね。
ちゃんと血抜き処理とかをされたお肉だから、美味しいよ」
「グウ!」
「わ、くすぐったいよ!」
クルルはお肉よりも先に、私の顔をペロペロと舐めてきた。
喜んでくれたようでなによりだ。
それから私は、クルルがお肉を食べている間に、薬草や山菜の採取を行った。
どうやら穴場だったらしく、私1人でも想定以上の量が採れた。
しかも私には「空間収納」もあるから、持ち運びにも困らない。
「ふ~、今日はこれくらいでいいかな?」
あまり大量に持ち帰ると、値崩れを起こしそうだ。
その結果目立つと、また変なのに目を付けられそうだし……。
ただ、帰るにはまだ早い時間帯だ。
どうしようかな……。
そう思っていると──、
「グウ!」
「え、乗れって?
また何処かへ行きたいの?」
なにやらクルルは、何処かへ行きたいらしい。
私はクルルに乗って、更に森の奥へ進む。
そして辿り着いたのは、岩場だった。
そして進む先に、人1人が入れそうなほど、大きな岩の裂け目がある。
ん……?
なんか周囲に飛んでるような……。
え、蜂?
もしかしてあの岩の裂け目に、蜂の巣があるの!?
クルル、蜂蜜が欲しいの!?
「クルル、ヤバイ、ヤバイ!
刺される、刺される!」
私は慌ててクルルから降りる。
確か蜂に2回刺されたら、アナフィラキシーショックとかいうので死んじゃうんだよね?
ましてや異世界の蜂なら、即死するほどの猛毒を持っている可能性も……。
いや……そういえば私、「毒無効」を持っていた!
じゃあ、大丈夫なのかな……?
でも、アナフィラキシーショックってアレルギー反応だから、絶対とは言えない。
それに刺されたら、痛いことは痛いよね……。
「グウ」
でも、クルルは「大丈夫」と言うかのように頷いた。
そりゃあ……熊は分厚い毛皮があるから、大丈夫なのかもしれないけど……。
「ひいっ!?」
その時、大量の蜂が私の方へ飛んできた。
え、え、逃げた方がいい!?
それとも下手に動いて、刺激しない方がいい?
そう思ったら身体が硬直してしまって、そのまま動けなくなってしまった。
そしてなにもできないまま、私は蜂の群れに囲まれてしまう。
ひいぃぃ……クルル助けてぇ~……!!
「ん……?」
だけど攻撃は、いつまで経ってもこなかった。
え……なんで?
蜂は私の周囲を、くるくると飛び回り続けているだけだ。
いや……なんだか一列に並ぶとか、編隊を組んで飛んでいて楽しそう……。
攻撃をするつもりは無いってことかな?
……あ、そういえば、蜂の巣ってほとんど雌しかいないんだっけ?
つまり『百合』の効果で、私は蜂から攻撃されないってこと?
え~と、つまり私は蜂蜜取り放題なの!?
だからクルルは、私をここに連れてきたと?
「あの~……もしかして、蜂蜜を少し分けてもらえます?」
と、私が蜂達に呼びかけると、蜂達は巣のところに戻って、1ヶ所に集まった。
……そこに蜂蜜があるってことかな?
ちゃんと言葉……というか、私の意思は通じているようだ。
私は蜂達が示したその場所へ行き、
「少し巣を壊してもいい?」
と、訪ねると、蜂達は「いいよ」と言わんばかりに、蜂蜜があるであろう場所からどいた。
う~ん、巣を壊すのはちょっと気が引けるけど、私の身長よりも大きな巣だし、ちょっとくらいなら、蜂達の生活に影響は無いのかな?
私は慎重にナイフで巣の表面を切り裂く。
すると中には、確かに蜂蜜が貯蔵されている場所があった。
え~と、全部取ったら可哀想だから、5分の1くらいの面積を貰うことにしよう。
それでも直径30cmくらいの塊になった。
半分はここを教えてくれたクルルにあげて、もう半分は……自分で食べてもいいんだけど、もしかしてこれ……売れる?
斡旋所で素材の買取をやっているから、そこで聞いてみようかな?
その後私は、町の入り口までクルルに送ってもらい、町へ入る。
クルルがいたおかげか、巣からの帰り道では、何者かに尾行されることは無かった。
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