5 追 跡
新しく始めた冒険者の仕事は、順調だと思う。
エルシィさんとカトラさんは優秀な冒険者だし、更にクルルが桁違いの強さを誇っているので、今までの2人では受けられなかったような難度が高い害獣や魔物の討伐依頼を受けることができるようになったのだ。
その結果、たった10日ほどでかなりの収入を得ることができた。
私も初めて見る金貨を手に入れたよ。
金貨は1枚で銀貨20枚分の価値がある。
銀貨1枚で5千円から1万円の間くらいの貨幣価値がありそうなので、日本だと15万円前後って感覚かなぁ……。
しかしこれでもまだ足りない。
村の人達を引き取ることを考えると、居候している今の家よりも、大きな家を借りられるようにしたいよねぇ……。
あと、エルシィさんとカトラさんとの親密度が、ついに100%になった。
だけどさすがに即、寝込みを襲われるということはない。
お姉ちゃんの時もある程度は我慢していたらしいし、理性で性欲を押さえつけることはできるのだと思う。
ただ、私が「新しいベッドが欲しい」と言っても、2人は「この家は狭いし、新しい家を手に入れた時でいいんじゃない?」とか言って、頑なに反対する。
結局、未だに3人一緒で同じベッドに寝ているんだけど、絶対にあの2人は私のことを狙っているよね……。
大体、あの2人は恋人同士みたいだし、私がいたら思う存分その……えっちなこととかできないじゃん。
となると、いつか欲求不満が爆発して、私を巻き込んでしちゃう可能性が高いんだよね……。
まあ……私も2人のことは好きだし、そんなに嫌って訳ではないんだけど、2人から同時に攻められたらどうなってしまうのだろう?……と、不安半分、期待半分だ。
いや、なんで期待してるんだ、私!?
まあとにかく、2人からスキルをコピーしてセットしておくか。
どうやらレベルアップだけではなく、親密度が100%になった者が増えても、スキルの使用枠が増えるらしい。
───────────────
・マルル 12歳 女 LV・20
・職業 冒険者
・生命力 113/113
・魔 力 181/181
・ 力 74
・耐 久 82
・知 力 162
・体 力 93
・速 度 78
・器 用 64
・ 運 96
・ギフト 百合
・スキル(15/15)
●防御強化
●気配隠蔽
●再生力弱
●毒 無 効
●流し斬り
●空間収納
●眷属強化
●気配感知
●癒やし小
●魔回復小
●水 生 成
●火 炎 弾
●風 刃
●催 眠
●自然操作
○気力集中
○回転蹴り
○強 打
○暗 視
○追 跡
○体当たり
○食いつき
○ひっかき
○臭覚強化
○二段突き
○筋力強化
○大 切 断
○燕 返 し
○土 槍
○照 明
○罠 感 知
親密度 クルル 100%
カトラ 100%
エルシィ 100%
───────────────
こんな感じかな。
私は力が弱い所為で正面から戦うのは得意じゃないから、攻撃は物理系のスキルよりも魔法系のスキルを中心に構成した。
それに魔法ならば飲み水を作ったり、火起こしをしたり……と、生活面でも色々な応用がききそうだしね。
あと、生き残ることが最優先なので、耐性系や回復系、そして身を隠したり、敵の存在を察知したりするようなスキルも外せないなぁ。
結果的に後衛向きのスキル構成になったと思う。
「エルシィさん、カトラさん、親密度が100%になったので、スキルをお借りしますね。
これでもっと強い相手の討伐依頼も、できるようになると思いますよ!」
「そうか、今日はお祝いにご馳走を食べようか」
「いいですねぇ」
ご馳走!
この世界の庶民には娯楽が少ないから、美味しいものを食べるのは数少ない楽しみだ。
とはいえ、それにもお金がかかるから、貧しい農民だった頃には、あまり縁の無いことだったけどさ……。
「あ……クルルが仲間はずれなのは可哀想なので、せめて美味しい肉でも食べさせてきます」
ずーっと町の外で、1人きりじゃ寂しいしね。
「大丈夫?
私達も行きますよ?」
「町のすぐ外なので大丈夫ですよ。
ついでに1人でもできる薬草や山菜の採取もしてきますね」
その後私は、斡旋所に寄って採取依頼を受け、それからクルルにあげるお肉を買って、町の外へと出る。
そしてクルルが待っている森へと向かった。
しかし──。
「……?」
「気配感知」のスキルが反応し、背後から誰かが付いてくるのが分かった。
たまたま私と同じ方向に、その人が進んでいる……という訳ではない。
明らかに姿を隠しながら、私を追跡しているようだ。
う~ん、追い剥ぎ?
4~5人いるから、エルシィさんとカトラさんが、心配で付いてきたということではない。
最近、冒険者家業も順調で羽振りがいいから、目を付けられた?
あれ? それを知っているということは、相手は冒険者かな?
さすがに私1人では、勝てるのかどうか分からないな……。
早く森に入って、クルルと合流しよう。
そう思って走り出すと、やはり背後にいた者達も走り出した。
やっぱり私が狙いか。
幸い森に入ると、クルルがすぐに出てきた。
親密度100%の効果なのか、距離が離れていても多少は私の心が通じる。
クルルは私の危機を感じ取って、駆けつけてくれたようだ。
私はクルルの背中に乗って、そのまま森の奥へと急いで入っていく。
たぶんクルルなら追跡してきた者達を倒せるのだろうけど、クルルには怪我をするようなことをあまりさせたくないし、そもそも人間を傷つけたら「害獣」として斡旋所に討伐依頼が出されてしまう可能性もある。
いくら私が正当防衛を訴えても、何の後ろ盾もない子供の発言よりも、おそらく複数人の大人による発言の方が強い。
たぶん「一方的に熊から襲われた」と、言い張られたら勝てない。
だから戦うのならば、証拠も残さないように生きて帰さないという覚悟も必要だけど、さすがにそれはねぇ……。
この世界って、殺人はそんなに大きな罪ではないらしく、甘い処分に不満があるのなら、勝手に仇討ちしろって感じみたいだし、いざとなれば選択肢としてはありなんだけど……。
そもそも冒険者としては、護衛の依頼を受けて襲撃者を倒さなければならない日は来るだろう。
いつかはやらなければならないこと……なのかもしれない。
でも今はまだ覚悟が決まらないし、逃げてやりすごそう。
幸い背後から追ってくる者の気配は、途中で消えていた。