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2 お姉ちゃんと私

 本日2回目の更新です。

「またサボっているな、マルル!」


 と、怒鳴っているのは、私の2歳年上の姉、アルルだ。

 顔はたぶん可愛い。

 私達の人種は明らかに日本人とは違っていて、もしかしたらエルフとかそっちの方に近いんじゃないか?──ってくらい、整った容姿をしている者が多い。

 まあ、我が家はそこまで美形揃いではないが、そこそこのレベルだと思う。

 

 しかしこの姉、赤毛の髪はボサボサだし、背は低いし、見窄(みすぼ)らしい服は所々が汚れていて、色々と台無しだ。


 この姉に似ていると言われると、かなり複雑な気分になる。

 私の方が身だしなみに気をつけているから、野生児みたいな姉よりも絶対に可愛く見えると思うんだけど!


 というか、性格が可愛くないんだよね、この姉……。

 乱暴者だし、気に入らないことがあると暴力を振るうことも珍しくない。

 私の前世が蘇ったのも、怒った姉に棒で殴られたのが原因だし。

 ……なんで姉が怒ったのかは、殴られたショックで忘れちゃったよ……。


 まあ、前世の記憶が蘇ったので許すが……。

 いやでも、「思い出さなかった方がこの世界に馴染めて、幸せだったのではないか……?」とも思うんだよねぇ……。


「サボっていないよ、休憩していただけ」


 私はそう言い返すが、姉はそれが気に入らないらしく、ムッとした顔になった。


「お前はそう言って、いつも(なま)けているだろ!

 もっと真剣に働けよ!」


 そうは言ったって、これ以上農作業で結果を出すのは難しいよ。

 畑の面積を増やせば収穫量は増えるかもしれないけど、領主から土地を借りている我が家としては、限りある土地の中にこれ以上畑は増やせない。


 となるとすぐにやれることと言えば、肥料などを工夫することくらいだけど、当然化学肥料なんか売っていないし、自前で作るにしても我が家には家畜もいないから、人糞が肥料の材料の主成分になる。

 うん、それをやるくらいなら、このままでいいです。

 汚い上に寄生虫も怖いからねぇ……。


 一応、森から腐葉土集めて畑の土に混ぜているけど、私の力ではあまり多い量は運べないので、そういうのは父に任せている。

 それに虫やミミズが多いので、力があっても腐葉土集めは勘弁かなぁ……。


 他にできることと言えば、品種改良は年単位で時間がかかるし……。

 あとは摘花して成長する実の数を制限することで、実に十分な栄養を行き渡らせて品質を良くする……のは、以前やろうとしたら「採れる実の数が減る」って、親から怒られたんだよね……。

 ブランド野菜として高品質で高く売るという概念は、この世界だとなかなか理解されないようだ。


 どのみち収穫量が増えても、品質が良くなっても、領主に税として取り上げられるので不必要に頑張る必要は無いのだが、姉は馬鹿なので効率とかそういうことが分からず、精神論でとにかく頑張れ──と、強要してくる。

 つまり脳筋だ。

 あ、前世のブラック企業にも、こんな上司がいたな……。


 だから姉への反発心はある。

 ただ──、


「はいはい、分かりました。

 今やりますよ」


 言い争っても、最終的には私が殴られて終わりなので、無駄な争いはしない方がいい。

 私じゃ、姉に力では絶対に勝てないからなぁ……。

 周到に準備をして罠にはめれば勝てるかもしれないけど、そこまでガチの争いをする意味も無い。


 それにもう1つ、私が姉には逆らえない理由がある。


「それでお姉ちゃん、もう狩りは終わったの?」


「ああ、今日は猪を狩ってきたぞ」


 我が家に肉を供給してくれるからだ。

 姉が12歳の時に神様から授かったギフトは、「戦乙女(いくさおとめ)」というものだった。

 このギフトのおかげで、姉は村で1番強くなった。

 大人が相手でも、簡単に組み伏せることができるほどに。


 どうやらギフトの効果によって、力等の身体的なステータスが大幅に上昇した上に、戦闘技術なども身についたらしい。

 間違いなく、ガチャの当たりを引いたと言える。


 結果、最強と化した姉は、山に入って動物を狩るようになった。

 過去には熊を倒してきたことすらある。

 おかげで我が家では食肉には困らなくなったし、動物の毛皮などを加工して売ることで、収入も増えた。

 貧しかった暮らしが、少しだけマシになったのだ。


 そんな風に、1番の稼ぎ(がしら)として我が家に貢献している姉に対して、あまり役に立っていない私が逆らえるはずもなかった。

 親も姉を贔屓(ひいき)しているので、下手に逆らうと私だけが怒られることにもなりかねない。


 だから凄いギフトを手に入れて、姉に下剋上してやるのが、当面の私の目標だったのだ。




 ……それが『百合』というギフトを得た所為で、あんなことになるなんて……。

 この時の私は想像もしていなかった。

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