1 生存者の扱い
思いのほか法事の後に時間の余裕があったので、第3章を更新します。
私達はオークを殲滅して隣村に戻ると、すぐに村長の家に行って報告をした。
「本当にオークキングがいたのか!?」
「はい、幸い巣を発見して、殲滅することができました。
……ですので、依頼料に少し色を付けてもらっても、良いのでは?
この村までオークに襲われていた可能性を考えたら、安いものですよね?」
「そうだな」
カトラさんの言葉に、男の冒険者達も同意する。
本来は調査だけの依頼だったのに、勝手にオーク退治までやってしまい、更に報酬の上乗せを迫るというのはおかしな話だ。
とはいえ、みんなが命懸けで戦ったのも事実なんだよねぇ……。
そして結果的に、救われた者がいるのも……。
「む……むう……」
しかし村長は、口を噤んだ。
まあ、田舎の村なんて貧しいのがデフォなので、余計な金額を払わなくても済むのならば、そうしたいのだろう。
「何も多くは望みませんよ。
なんなら私とエルシィの分の報酬は、最初の半額でも構いません。
その代わり、生存者の受け入れをお願いしたい」
「おいおい、勝手に話を進めるなよ。
俺達は普通に報酬をもらうぞ?」
「はい、あくまで私達は……ということです。
どうです、村長?」
「それは……うむぅ……」
村長、困っている。
そりゃあ……オークに陵辱された女性達の扱いは、困るだろうな……。
しかも8人もいるし。
精神のケアとかは精神科医じゃないと難しいだろうし、むしろケアするどころか、ここの村人に差別されてもおかしくない。
正直言って、私にだって手に余るよ。
だけどここで見捨てると、この村が同じ目に遭った時に、他の村から助けてもらえなくなる。
だから村長も迷っているのだと思う。
……ここは同じ村の人間として、私が一肌脱ぐしかないか。
「村長さん、少ないですが、これでみんなの面倒を見ていただけませんか?
何もずっと……という訳ではありません。
私も冒険者として働くので、軌道に乗ったらみんなを引き取りにきます」
と、私は自宅で見つけた蓄えの、銀貨15枚を差し出した。
お姉ちゃんが狩りで稼いでいたので、思っていたよりも貯め込んでいたらしい。
それなら、たまにはご馳走を食べさせてほしかったよ。
……まあ、私が家族でもない人達の為に、そのお金を使う義理があるのかというと微妙だけど、「百合」の効果を使えば、彼女達の心を救えるかもしれないし、それならばできることはしたいと思う。
ただ、今はまだ受け入れ体制が整っていないから、準備が必要だ。
「そういうことなら……。
だが、いつまでも面倒は見切れないぞ。
長くても3ヶ月だ。
それに彼女達が何か問題を起こせば、すぐに追放しなければならぬかもしれん」
「それは仕方がありません」
最悪の場合、彼女達は奴隷として売られてしまうかもしれないけど、私自身が冒険の中で命を落とすことだって有り得るし、そうなると助けることはできない。
だから将来のことについては、あまり多くは望めない。
……私も異世界の厳しい現実に、毒されてきたなぁ……。
なんだか考え方が、ドライになってきた気がする……。
そして報告が終わったあと、私達は報酬を受け取って、村長の家を後にする。
「済みません、カトラさん、エルシィさん。
勝手にみんなを引き取るって、決めてしまって……」
「いいのですよ、マルルちゃん。
私達も協力しますから」
「そうだぞ、頼ってくれ」
「ありがとうございます」
あまり頼るのは悪いと思いつつも、私とクルルだけでは冒険者としてのノウハウも無いし、頼るしか無いんだよね……。
「それにあの人達がいなければ、マルルが自由に冒険者をすることができなくなるかもしれないし、感謝をしなければ……」
「え?」
どういうこと?
「もしもマルルちゃんが村唯一の生き残りだった場合、領主様の配下から事情聴取を受けることになるかもしれないですし、そうなると貴族に関わることになるので、何が起こるか……。
非情なようですが、その役割を彼女達に引き受けてもらいましょう」
「あ~……」
そっか……貴族か……。
あの村は領主様から土地を借りて農業をしていたから、それをオークの所為とはいえ潰したとなると、何を言われるのか分かったもんじゃない。
結果的に何らかの罪に問われることももあるだろうし、最悪の場合は彼女達を見捨てる必要も出てくるんだよなぁ……。
それは覚悟しておかなければならないこと……なのだろうか……?
「いずれにしても、マルルちゃんが冒険者として稼がないと、彼女達は救えませんから……。
頑張っていきましょう」
「……そうですね」
なんだか大きな責任を背負ってしまったような気がして、気分が重くなってしまった。
誤字報告、助かります。