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幕間 3人の冒険者

 いつもブックマーク・☆での評価・いいね・感想をいただき、ありがとうございます。


 前回の続きです。

 私は気付いた──カトラを誰かに渡したくないのだと……。


 だからカトラの婚礼の儀式があと数日に迫ったその日、私は行動を起こすことに決めた。

 その日の夜、私はカトラの部屋へと忍び込み、


「カトラ姉さん、起きて」


 既に眠っていたカトラの身体(からだ)を、揺すって起こす。


「ん……きゃっ!?」


 カトラは突然の闖入(ちんにゅう)者に悲鳴を上げかけたので、私は慌てて彼女の口を塞ぐ。

 ここに侵入する為に私は男装のような格好をして顔も隠していたから、強盗か何かだと勘違いしたのだろう。


「カトラ姉さん、私、私!」


「むぅぅ……?」


 カトラは私が誰なのかを認識したようで、大人しくなった彼女の口から私は手を離す。


「え……エルシィお嬢様?

 なに……その格好?」


「カトラ姉さん、大人しく私に(さら)われてくれませんか?」


「どういうことなんです……?」


 カトラは戸惑う。

 突然こんなことを言われても、困るだろうな。

 でも私は、更に困るようなことを言わなければならない。


「私……カトラ姉さんが、男の……ううん、誰かの物になるのが嫌みたい……。

 だから私と一緒に、逃げてくれませんか?」


「え……それって?」


 カトラは困惑している。

 私の言葉が(にわか)には信じられないみたいだ。

 だけど今は、時間をかけて説得している時間がない。


 だから──、


「姉さん、ごめんなさい」


「────!!」


 私はカトラの唇に口づけをした。

 これは彼女の意思を無視した、強引な行動だったかもしれない。

 だけど私の気持ちが本気であることを彼女に理解させる為には、これが1番分かりやすいと思ったのだ。


 それに……ここでカトラに断られたら、彼女とキスをする機会は二度と無いだろう。

 それならばいっそのこと……という想いもあった。


「これが私の……本気の気持ちよ。

 ごめんなさい、こんな強引に……」


「……ううん、驚いたけれど……。

 好きでもないおじさんに(とつ)ぐよりは、嫌じゃない……って、思ったの。

 その……むしろ……」


 と、カトラは顔を赤く染める。

 あれ……これは脈がありそう?


「いいでしょう、一緒に行きましょう、エルシィお嬢様。

 今準備するわ」


「カトラ姉さん……!」 


 それから私達は故郷の町から、王都を挟んで国の反対側にあたる土地へと逃げ出した。

 私の実家は勿論、カトラの嫁ぎ先であった男爵家でさえ、財力も権力も遠く離れた土地にまでは及ばない──つまり追っ手がこないと考えたからだ。


 私達は新しい土地で家を借り、2人での生活を始めたけれど、家から持ち出したお金だけでは、1ヶ月ももたない。

 だから私達は、冒険者として働き始めた。

 

 私はお嬢様として生きていた頃の感覚が抜けきれなくて、厳しい冒険者の生活には苦労した。

 他人から舐められないように男装に近い格好をし、言葉遣いも男らしくしたけれど、見た目や態度を変えただけでは、どうしようもないこともある。

 やっぱり野宿は(つら)いし、魔物を倒して素材を得る為の解体作業など、血生臭いことにはなかなか慣れることができなかった。

 

 それでもカトラと一緒だから、なんとかなっている。

 彼女が優秀な魔術師だというのもあるけど、大好きな人と一緒だということが、精神的な支えになっている。




 あれから数年が経ち、私とカトラのコンビは、今では冒険者を上手くやれていると思う。

 2人だけではできる仕事も限られて、不利な面もあるのだが、私達の間に誰かを入れようとは思わなかった。

 私達の関係にとっては、邪魔にしかならないと思っていたからだ。


 でも、それが変わったのは、マルルという少女に出会ってからだ。

 なんだか放っておけなくて、私達の仲間に入れてもいい……と思うようになっていた。

 これは私達の間に子供がいないから、そういう役割をマルルに求めているのかな……と思っていたのだが、どうやらそうでもないようだ……。


 オークを倒した後、私達は滅びた村で一晩泊まって休息をとった。

 そして朝になると、隣村への帰路へ付くことになる。


「マルルちゃん、可愛いですよねぇ……」


「分かる」


 熊のクルルに乗って先を進むマルルの背中を見ながら、私達はそんなことを話し合う。


「なんだか(いと)しくて、愛しくて……。

 抱きしめたり、ナデナデしたりしたくなって……」


「分かる」

 

「あっ、これは浮気ではないですよ。

 エルシィが1番なのは変わりませんから」


「分かっている。

 でも……あの子が受け入れてくれるのなら、3人で付き合うのも悪くないと思えてしまうんだよな……」


「はい……。

 こんなこと、いけないとは思うのですが……」


 本当に不思議な子だ。

 私達を惹き付けてやまない。


 ただ、無理矢理あの子のことをどうにかしようものなら、熊のクルルが黙っていないのだろうし、じっくりと時間をかけて親しくなっていこう。

 そもそもあの子に嫌われるようなことをして、口もきいてもらえない状態になったら……と思うと、それだけで胃が痛くなる。


 いつの間にか私達は、もうマルルの存在無しでは、生きられない身体になっているようだった。

 もしかしたらこの子は、魔性の存在なのかもしれない。

 だけど何故か、不安とかは無いんだよな……。

 

 むしろ一緒にいると、心が安らぐというか……。

 それはマルルが物事の道理を理解していて、悪いことをするような子ではないと確信できるからなんだろうな。

 これで彼女の言動が好ましくない物であり、それでもなお惹き付けられたのならば、違和感で落ち着くことができなかったと思う。


 ともかくマルルという存在を得て、これからの冒険は充実したものになりそうだ。

 それはカトラも同じ想いだろう。


 私達の新しい冒険は、これから始まるのだ。

 次回から第3章ですが、明日・明後日は法事とその準備の為に更新は休みます。

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