8 オークキングとの戦い
一応第2章の本編はこれがラストです。
その後私達は、眠っているオーク達を倒しつつ洞窟の奥へと進む。
その途中で、オーク達に陵辱された女の人達を発見することができた。
……生きていたのは良かったけど、酷い目にあって目から光が無くなっている彼女達の状態を見ると、これからが大変だな……と思う。
しかもオークの子供を妊娠している人もいるだろうし、堕胎するにしても心身共に相当負担がかかるんだろうね……。
「うっ……」
思わず私は、うめき声が漏らしてしまう。
顔見知りの人達が、こんなことになるなんて……!
しかも中には、私と同い年の子供もいる。
前世では考えられないことだった。
まるで遠い国の出来事に過ぎなかった戦争に、突然巻き込まれたかのような非現実感があるけれど、これが現実だということがショックだった。
それと生きている人の中に、お姉ちゃんは勿論、お母さんの姿も無かった。
お母さんは年齢的にオークの好みに合わなかったのか、それとも激しく抵抗したことでオークを怒らせた結果、殺されてしまったのかはよく分からない。
……陵辱されていなかったことを良かったと思えばいいのか、もうオークに食べられてしまったという現実を突きつけられて、それを嘆けばいいのか……。
とにかく世の中には、死ぬことよりも最悪なことがあるのだと、私は思い知らされた。
「悪いが、まだオークがいるかもしれないから、保護するのは後回しだな。
騒がれたらまずいから、眠らせるような魔法は無いか?」
「ああ、はい。
あります」
カトラさんが魔法で、捕まっていた女の人達を眠らせる。
彼女達は後で洞窟から助け出す訳だけど、この先で私達が全滅したら、この人達も助からない。
身が引き締まるような想いだった。
更に奥へと進むと、広い場所へと出た。
あの巨体のオークキングがいるとしたら、ここだね。
実際、奥の方で、オークキングは眠っていた。
それに普通のオークも2体いる。
幸い、連れ込まれた人間はここにはいないようだ。
それならば、何の気兼ねもなく戦えるだろう。
まず冒険者達が、眠っている普通のオークにトドメを刺す。
「ピギッ!?」
「グ……?」
あっ、悲鳴が上がった。
オークキングが目を覚ましちゃう!
クルル、GO!
私はオークキングが完全に目を覚ます前に、クルルを突撃させる。
先手必勝!
実際、普通のオークが相手ならば、これで勝ちだったと思う。
だけど──、
「ガアァァァーッ!!」
「グゥッ!!」
クルルの数百kgはある巨体が、弾き飛ばされて壁に激突した。
あのオークキング、一体どんなパワーをしているのっ!?
「全員でかかれっ!!」
冒険者達が総出で、オークキングに立ち向かう。
いくら相手が化け物でも、数で上回っているのならば、こちらが優勢に戦えるだろう。
……いや、案外苦戦している?
カトラさんは光源担当で魔法攻撃を使えないというのがあるにしても、他の人達もお姉ちゃんと比べるとなんか弱いような……。
冒険者ってこんなものなの?
エルシィさん、見た目だけなら強そうなんだから、もっと頑張ろう!
う~ん、これは私も参加した方がいいかな……。
よし、「気配隠蔽」でこっそりとオークキングへ近づいてナイフを構え、「流し斬り」で膝裏──つまり膕を集中的に狙う。
「グオッ!?」
オークキングだって、足をやられれば動きが鈍り、攻撃も避けにくくなる。
この戦法でオークが村を襲撃してきた時には、かなりお姉ちゃんのサポートができた。
これで冒険者達も楽になるはずだけど……。
うん、狙い通り、オークキングが劣勢になってきたようだ。
「グルル……!」
……って、オークキングが私の方を見ている。
げっ、標的を私に定めた!?
私の身体が小さいから、倒しやすいと思ったの!?
確かに一撃でももらったら、即死しそうだけどさぁ!
オークキングは、勢いよく丸太のような腕を振った。
やば……っ、これ避けるの無理……っ!
「グウゥゥッ!」
その時、クルルがオークキングへ「体当たり」をして、攻撃を逸らせてくれた。
ナイス、クルル!
しかもオークキングは転倒している。
今だ!
私はナイフで、オークキングの両目を斬り裂く。
これで視力は奪った。
更にクルルもオークキングの足に噛みついて引きずっているので、もう起き上がることも、狙いを定めて攻撃することも難しいだろう。
最早オークキングにできることといえば、無茶苦茶に腕を振って暴れることくらいだ。
これならば、近づかなければ危険は無い。
槍を持っている冒険者が安全な場所からオークキングを突き刺し、そして弱ってきたところでエルシィさんが剣でトドメを刺した。
……う~ん、オークキングだけなら、私とクルルだけでも倒せたかもしれないなぁ。
勿論、今よりも苦戦しただろうし、他のオークがいたら負けていたのだろうけれど……。
それに私とクルルだけでは、救出した人も運べないだろうから、やっぱり仲間の力は大切だなぁ……。
「マルル、結構強いじゃないか!
これなら冒険者もやっていけると思うよ!」
「あ……ありがとうございます!」
エルシィさんに褒められて、私は未来に希望が見えてきたような気がした。
村も家族も全部無くしちゃったけれど、この先もなんとか生きて行けそうだ……。
と、安心した所為か、意識が一瞬途切れそうになって、身体がよろめく。
「だ、大丈夫かい!?」
「済みません……緊張の糸が切れてしまったかも……」
家族や村人達の仇が取れたことで、気が抜けてしまったようだ。
それに思っていたよりも、疲れていたのかもしれない。
「グゥ……」
心配したのか、クルルがすり寄ってくる。
「ありがとうクルル。
ちょっと背中に乗せてね……」
それから私は、クルルに乗って移動していたんだけど、いつの間にかその意識は途切れていた。
次回は幕間です。