7 突 入
オークの巣だと思われる洞窟は発見した。
しかし問題はこれからだ。
「この後、どうする?」
そんな誰かの言葉が、私に重くのし掛かる。
さすがに洞窟の中が危険なことは、私も分かっている。
狭い場所だといくら強い人だとしても、実力を発揮しにくいだろうし……。
だけど……、
「できれば、攫われた人を救出したいです。
何日も後では、手遅れになるかもしれませんし。
今なら夜行性の魔物は眠っているかもしれないので、チャンスです」
そうしたい気持ちが強い。
最悪の場合は私とクルルだけで突入して、やり遂げたいとは思うが、いくらクルルが強くても、リスクは大きい。
冒険者達の協力があった方が、絶対にいいということなのは確かだ。
「じゃあ、私達が行く」
「エルシイさん、カトラさん!」
女性2人が手を挙げた。
女性にとってオークは命を奪いにくるだけではなく、繁殖用の道具にもされるという、最悪の相手だ。
男性よりも危険が大きい。
それでも行ってくれるという。
それなのに男性がここで動かないのならば、臆病者だと思われても仕方が無いだろう。
だから──、
「それなら俺も」
「おらも」
男性の冒険者達も、次々に手を挙げた。
これで戦力は充分……なのかは分からないけれど、クルルと2人で突入するよりも危険は減ったと思う。
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げる。
特に強く感謝の念を向ける相手は、やはり女性2人だ。
彼女達は「百合」の影響で、判断を間違った方向へと誘導されている可能性もある。
そう思うと申し訳ない気持ちになるけど、それでも私にとってはありがたかった。
そして私達は、洞窟の中へと足を踏み入れる。
中をカトラさんの魔法の光で照らし出すと、思っていたよりも広くて奥が深そうだった。
なお、私とクルルは最後尾だ。
私は子供だから戦闘力が無い──と、冒険者達から思われているみたいだし、クルルは身体が大きいので邪魔になるらしい。
それにしても洞窟内は、空気がよどんでいるのか酷い臭いに満ちていた。
オークの糞尿や、食物が腐った臭いなのだろうか。
オークの食物というと、つまり人……。
「うっ……」
油断すると吐いてしまいそうだ。
くぅ……「臭覚強化」をつけていない私でもキツイのだから、クルルは鼻が利かない状態になっているのかもしれないな……。
いや……なんだか私に寄り添って、フンフンと匂いを嗅いでいる。
あれっ、私の体臭で悪臭を中和しようとしている!?
……いいよ。
それで気が紛れるのなら、好きなだけ嗅げばいいさ。
それから私達は、洞窟の奥へと進んでいく。
意外にもカトラさんは、前の方に陣取っている。
魔法使いは近接戦闘が苦手そうなので後衛なのかと思ったけれど、彼女が操る光が洞窟の暗闇を照らす関係上、あまり後ろには下がれないらしい。
まあ、さすがに最前列ではないし、他の冒険者も前方を警戒しているので、そんなに危険は無いのかもしれないけれど……。
それに洞窟のような狭い場所で大きな攻撃魔法を使うと、落盤の発生やガスに引火するなどで大事故に繋がりかねないので、カトラさんには光源の維持以外は他にやることが無いそうだ。
魔法も万能ではないということか。
そして更に奥に進むと、なにやら先頭の方で動きがあった。
どうやらオークがいたらしい。
でもまだ眠っていたらしく、そのままサクッと倒されてしまったそうだ。
ただ、いたのはオークだけではなく……、
「お嬢ちゃんは見ない方がいい」
「え……」
そこには食い荒らされた人間の遺体もあったそうで、私の視界は冒険者の身体で塞がれた。
それでも私は、肉のこびりついた骨があるのを見てしまい、ついにこらえきれなくなって吐いてしまった。
まさかあの骨は、両親やお姉ちゃんのものだという可能性も……!?
少なくとも同じ村の人間の──顔見知りの誰かのものだということは間違いない。
そう思うと、ちょっと我慢できそうになかった。
「マルル、大丈夫かい?」
「は……はい。
済みません……」
つい吐いてしまった私の背中を、エルシィさんがさすってくれたので、少し楽になってきた。
「クゥ……」
クルルも心配したのか、すり寄ってきた。
って、ちょっ、クルル!
私が吐いたのを食べようとしないで!
「めっ!
クルル、めっ!!」
「キュゥーン……」
さすがに引くわー……。
でも、おかげで少し気が楽になったよ……。
でもこれじゃ、両親やお姉ちゃんの遺体があるかどうかなんて、確認できないな……。
いや……もう確認しなくていいかな……。
普通の人間だった両親が逃げられたとは思えないけれど、あれだけ強かったお姉ちゃんなら、今もどこかで生きている──そんな希望を無くしたくない。
そんな想いを抱えながら、私は洞窟の奥へと進んだ。