5 捜 索
調査を始めて2時間程度で、村の惨状は大体把握できた。
お姉ちゃんがオークを引きつけていった方を確認してみると、無数のオークの死体が点々と続いている。
それは村の外にまで続いていて、ついには川辺で途切れた。
え……もしかしてお姉ちゃん、川に落ちた?
だとしたら、もしかして生きている可能性もあるのかな?
少なくとも、オークには捕まってはいないのかもしれない。
事実、その場から離れる足跡は無く、お姉ちゃんが何処かへ運ばれたという形跡も無い。
たぶんお姉ちゃんも、そして追っ手のオークも、川に入ったことだけは間違いないと思う。
その後に溺れて流されたのか、それとも何処かに上陸したのか、そこまでは分からないけれど……。
お姉ちゃんのステータスが見られなくなったのも、距離が離れすぎたとか、仮死状態になったとか……そんな理由があったのかもしれない。
そんな希望にすがって、クルルと下流を見て回ったけれど、お姉ちゃんの姿はどこにも無かった。
お姉ちゃんの遺体が見つからなかったことで、少しホッとしたような気持ちになったけれど、何も分からないという状況は変わらず、モヤモヤは募る。
そもそも、やっぱりお姉ちゃんが死んでいる可能性だってある……というか、その可能性の方が高いんだし……。
それから私は自宅に戻った。
幸い家の中が、オークに荒らされるということはなかったようだ。
ただ、以前と変わらぬその在り方が、余計に無人になってしまったことを強調しているように思えた。
よくお姉ちゃんと一緒に寝たベッドだって、あんなに温もりに満ち溢れていたのに、今はただ冷たい。
私はベッドに身を預け、わずかに残っているお姉ちゃんの匂いを感じながら、少しだけ泣いた。
さて、問題はこれからのことだ。
一通り村の調査が終わった後──、
「できれば、オークの巣を突き止めたいのですが……」
そんな私の提案に、冒険者達の反応は割れた。
現状ではオーク襲撃事件の調査は十分できているので、隣村に報告すれば報酬が貰える。
これ以上無駄に働く必要は無い──と、言う者もいた。
一方、ただの調査では物足りないと言う者や、純粋にオークが許せない・攫われた人達が心配と言う人もいる。
まあ、後者の人はそんなに多くなく、エルシィさんとカトラさんも、『百合』の影響で私の味方をしてくれているだけなのかもしれない。
でも、それでもいい。
使えるものは使う。
「今ならクルルの鼻で、臭いを追えると思うんです!
でも、日にちが経ってしまったら、臭いが追えなくなってしまう。
そうなったら、助けられるはずの人も助けられなくなります!!」
「そうは言うがなぁ……」
やはり冒険者達の反応は芳しくない。
彼らも仕事としてやっている以上、得にならないことで命は懸けたくないのだ。
ならば報酬を出そう。
「それなら、村から金目の物を自由に持ちだしてもいいです。
これが報酬になりませんか!?」
貧しい農村だけど、各家庭で多少の蓄えはあるだろう。
そしてその住人の大半が死亡し、そして残りも生死不明ならば、最早財産の所有権なんて無いも同然だ。
……まあ、もしかしたらこういう場合、土地を貸している領主様に所有権がある……なんて可能性もあるのかもしれないけれど、確定申告がある訳でも無いし、各家庭の所得なんか把握していないはずだ。
だから村人の財産が無くなっていても分からないだろうし、最悪の場合は「盗賊でも入ったのでは?」と、有りもしない被害をでっち上げればいい。
というか、私の目が無ければ、冒険者の中には勝手に金銭を着服する者もいただろう。
そうなる前に「依頼」という形にしておけば、本来は無かった私のメリットになるし、冒険者達も泥棒をするよりは気分は楽になるはずだ。
「よし、その話、乗った」
「私もです」
エルシィさんとカトラさんが、真っ先に手を上げてくれた。
これで他の冒険者も、参加しやすくなったと思う。
ただ……、
「やってもいいが、夜行性のオークの巣を、夜に捜すのは勘弁だぜ。
明日の朝からというのは、譲れないな」
そんな声が上がる。
「そ、そうですね……」
確かにもう夕方も近いし、今から山に入るのは危険だ。
今日は村に泊まって、オークの襲撃を警戒しつつ朝を待つことになった。
家もあるしベッドもあるけど、オークの襲撃があるかもしれないから、みんなは装備を付けたまま座って眠ることにするようだ。
私もそれに倣う。
どのみちこの恐ろしい記憶のある村では、熟睡はできなかっただろう。
だから私は、積極的に見張り役の交代要員も買って出た。
感覚的に丑三つ時かな……と思えるほどの深夜に差し掛かった頃、クルルと一緒に焚き火の番をしていると、
「グウ?」
クルルが反応したので、そちらの方を見ると、カトラさんがいた。




