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4 滅びた故郷

 私はクルルに乗って、街道を進んで行く。

 この街道は一本道なので、案内をする必要はまだ無い。

 私の案内が必要になるのは、村に入ってからだ。


 それまでは冒険者(女性限定)と、交流を深めながら進む。


「そうか……大変だったな……」


 これまでの経緯を聞いて、同情的にそう言ったのは、剣士風のお姉さんだった。

 ストレートの長い銀髪は綺麗だけど、顔つきはキリリとしていて、その辺の男の人よりも格好いいと思う。

 宝塚の男役みたいな感じだと言えばいいのだろうか。

 名前はエルシィさん。


「大丈夫ですよ。

 これからは私達を頼っても、いいですからね?」


 そう言ったのは、セミロングの栗毛の上に、いかにも魔法使いって感じの帽子を被っているカトラさん。

 スレンダーなエルシィさんとは対照的に、ちょっとムチムチしている。

 その大きな胸に甘えたい……。


 そんな2人は幼馴染みで、一緒に冒険者になったらしい。

 ……冒険者かぁ……。

 なんの後ろ盾も無い私としては、今後は生活の(かて)を得る為に、そういう選択肢もあるんだよなぁ……。

 色々と聞いておいた方がいいかな?


「あの……冒険者になる為には、何か手続きとか必要なのですか?」


「おや、冒険者に興味があるのかい?」


「そうですね……。

 もう今まで通りの生活は、できないでしょうから……」


「ああ、そういうことなら、誰でもやれますよ。

 ただ、有名な人ならともかく、無名な人はお仕事を取るのが大変で……。

 そういう場合は、大きな町などに仕事の斡旋所があるので、そこに登録するといいですね」


 なるほど、派遣会社みたいなものか……。

 そして実力と知名度があれば、フリーでもやれる……と。


「それでは、お2人もその斡旋所でこの仕事を?」


「間接的という意味ではそうだな。

 素材の採取依頼であの村に来て、その後に村長から直接依頼を受けた……ってところだ。

 他の連中もそんな感じだと思う」


「素材の納品は運送業者にお願いすれば、前の依頼は終わりですしね」

 

 ああ、あの村に斡旋所があるって訳じゃないんだな。

 そしてあるのか、運送業……。

 クルルに乗って移動すれば、旅はそんなに大変ではないし、それなりに大きな荷物を運べるから、私にもできそうな気もするけれど……。


 でも、やるのなら、やっぱり冒険者かな。


「マルルちゃんが冒険者をやりたいというのなら、私達とやってみますか?」


「いいんですか!?」


「身寄りの無い子を放ってはおけないしなぁ……。

 ただ、冒険者は危険な仕事だ。

 覚悟は必要だぞ」


「はい、頑張ります!

 よろしくお願いします、エルシィさん、カトラさん」

 

 そう、どんな仕事をするにしても、取りあえず仲間は多い方がいい。

 そしてすぐに仲間になってくれる人がいるのなら、今は冒険者になるのが1番都合が良さそうだ。


 まあ……その前に、オークに襲われた村の問題を、片付けなきゃならないけれど……。

 あまり考えないようにしていたけど、嫌なものを沢山見ることになりそうだ……。


 そんな重い気分を抱えながら、私達は街道を進んで行く。

 そしてその晩は野営をすることになったけど、冒険者の2人には(かまど)の作り方など、野営に必要なことを教えてもらったよ。

 いざという時は、1人でも生きていけるようにしないとね……。


 お返しに私は、クルルが狩ってきたイノシシの肉を皆に振る舞った。

 正直男の冒険者達からは、特に親切にはされてはいないしどうでも良かったんだけど、肉を分けてやらないことで逆恨みされても嫌だし……。


 それから朝になると、再び村へと向かう為に街道を進む。

 で、日本の時間感覚だと、午前10時くらいだろうか?

 その頃になってようやく、村が見えるところまで辿り着いた。


 そこには──、


「ほら、これがクルルに倒されたオークです!」


 3体のオークの死体があった。


「ああ、確かにオークの襲撃は間違いないようだな」


 この時点で冒険者達は、依頼を達成したと言える。

 隣村の村長から受けた依頼は、オーク襲撃の有無を確認することだ。

 だけどだからと言って、このまますぐに帰還するという話にはならない。


 村の状態や、死者と倒されたオークの数など、調査することはまだある。

 そこまでやってこそ、完璧な仕事だと言えるだろう。

 いや、可能ならばオークの討伐するところまで、やって欲しいところだけど……。

 

 その後、村に入ったけれど、当然そこには人影どころか、オークの姿も無かった。

 奴らは夜行性だというから、寝床に帰っているのかもしれない。


 そしてやっぱり生き残った人は、いないようだ。

 もしかしたら山とかに逃げ込んだ人はいるのかもしれないし、オークに(さら)われた人もいるかもしれないけれど、少なくとも村の中には誰もいなかった。


 それと、人の遺体も見当たらない。

 村のあちこちに大量の血痕は見つかったし、オークの死体も放置されていたけれど、人間の遺体は何処にもなかった。

 食料として、オークに運ばれてしまったのかもしれない。


 両親と……お姉ちゃんも……?


「うっ……」


 なんだか気持ち悪くなってきた。

 前世の世界では、人間を食べる存在があまりいなかったから、食人という行為自体が酷くおぞましいものだと感じる。

 そりゃあ……熊に襲われた人のニュースはたまに見たことがあるけれど、こんな集団で襲ってくる存在はいなかったし、まさに人間の天敵と言った感じだ……。


「グゥ……」


 クルルが心配してか、頭を私に擦り付けてきたけど、本来は人間を襲うこともある熊とでも、このように分かり合える。

 だけどオークとは共存できる気がしない。

 だからこそ、「魔物」と呼ばれているのかもしれないなぁ……。


 今更ながらに、この異世界の過酷さを思い知らされた気分だった。

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