とある蛇足の話
今回の話が分からない御方は、拙作の『乗っ取り魂~TS転生して百合百合したいだけなのに、無慈悲な異世界が私の心を折りにくる。』をお読みください。多少ネタバレになりますので、それが嫌な御方はあちらの方を先に読んだ方がいいかも……。
今年でもう何歳になったのやら……。
いや、ステータスを見れば分かるけど、女に年齢の話題は禁物だよ。
そんな訳で、数百年は経過したはずなんだけど、いつの頃からか細かい年齢は意識しないようにしている。
いずれにしても普通の人間なら、数回は人生を繰り返すことができる時間が経過してもなお、私はまだ元気だ。
レベルが上がって、人間の平均的なステータスを大幅に逸脱してから、私の老化は止まってしまったらしい。
もう私の身体は、エルフや魔族に──いや、眷属にウルティマがいるので、神族に近い状態になっているのかもしれない。
う~ん、お姉ちゃんに血を吸ってもらい、吸血鬼になって永遠に一緒に生きるつもりだったけれど、その必要は無くなってしまったなぁ。
あ、勿論今もお姉ちゃんは健在だし、他の眷属達の中にも生きている者はいる。
でも、ティティを始め、寿命を迎えてしまった者達も多い。
凄く悲しいことだった……。
けれど、彼女達は子供を遺してくれたから……。
だから寂しくないと言えば嘘になるけど、絶望せずに現実を受け入れることができたんだ。
この世界には今、私の子供とその子孫達が数多く生きている。
子供達が暮らしやす世界にする為に、私は頑張ってきたつもりだ。
獣人やエルフに魔族──人間以外の種族に対しての差別が、完全に無くなった訳ではないけれど、少なくとも表面上はあらゆる種族が平等の権利を手に入れた。
あと、女性の権利もかなり向上したねぇ……。
むしろ私の眷属は各国で神聖視されたり、国の重鎮になったりした者もいるくらいだから、強くなりすぎた面もあるかな?
肩身が狭い想いをしている男性達には、ちょっと済まないと思っている。
その辺のバランスを取るのが、今後の課題だなぁ。
それに今教団のトップにウルティマが立っているから、その力が強くなりすぎないように注意する必要もある。
ウルティマは元々女神なだけあって、宗教家としては有能だった。
でもあの子、すぐに堕落するから、暴走が怖いんだよなぁ……。
女神なのに、欲望に忠実すぎる……。
アイーシャさんといい、なんなの聖属性持ちの人達は……?
そんなんだから、未だに天界への帰還の許可ガ下りないだよ……。
まあ、本人はこの世の生を謳歌しているようだから、もう帰る気も無さそうだけどね。
私との子供達もいるしねぇ……。
ともかく私は、充実した生活を送っている。
当初は絶望していた異世界転生も、今ならしてよかったと思えるよ。
「……あ!」
ここであることを思い出した。
そういえば前世で、伯父がよく言っていた。
「私はいつか異世界へTS転生して、百合百合するのが夢だ」
「馬鹿なの?」
「そうだが?」
私の言葉に、伯父は堪えていない様子だった。
そういう反応は、もう慣れっこだったのかもしれない。
伯父は物凄いオタクで、それが故に迫害された経験もあったらしい。
昔はオタクというだけで、犯罪者予備軍のような扱いを受けた時代があったそうだ。
「結構本気なんだけどねぇ。
成功したら、お前も異世界に招待してやるよ」
「いや、私は異世界に興味は無いんだけど……。
あと、百合も」
伯父は、百合については非常にうるさい人だった。
自らそういう作品を書いて、ちょっとした有名人になる程度には。
まあ、私には理解できない趣味だったけど、不思議と伯父とは気が合ったので、よく話は聞いていた。
「実際に経験したら、案外気に入るかもしれんよ?
いずれ私に感謝する時がくるだろう」
「はいはい」
私は、伯父の言葉を戯言だと思って、真面目には受け止めていなかった。
しかし──、
あの野郎!
マジでやりやがったな!?
この世界に私を転生させたのも、『百合』というギフトを授けたのも伯父だった──。
その確証となる物は何も無いけれど、辻褄はあっているような気がする……。
え~……ウルティマの後輩女神って、そうなの……?
人のこと言えないけど、なんで神様的な存在になっているんだ……。
まあ、あの伯父のことだから、好き勝手やったんだろうな……。
本当に人の迷惑を考えない……。
でも悔しいけど……、
「感謝はしちゃうかな……」
なんだかんだで、異世界でも私は幸せだ。
百合転生──完。
長らくお付き合いいただきありがとうございました。本作は1話先の展開も殆ど考えず、行き当たりばったりで書いてきましたが、なんとか無事に完走することができました。ひとえに皆様の応援のおかげです。次回作もどうかよろしくお願いします。
新作の『百合狐、異世界を征く。』の連載を始めています。1番上の「作者名(江戸まさひろ)」か、下の方にある「作者マイページ」のリンクからページに行けるかと。




