18 復 活
ウルティマが残した黒焦げの分身──。
私はその分身を、助けてあげたいと思った。
勿論、打算が無い訳ではない。
この分身がウルティマと記憶を共有しているとしたら、彼が他にも分身を残していないか……等、貴重な情報が得られるだろう。
だけどそれ以外にも、自身の分身を簡単に切り捨てるウルティマの行為が、嫌だったというのもある。
私も眷属を利用しているし、一部の眷属未満の魔物に対しては、使い捨てるような真似もしてきた。
そんな自身の姿と、ウルティマが少し重なって見えたのだ。
だからウルティマと同じにはなりたくない──そう思った。
それが故の決断だ。
「しかし……危険ではございませんか……?
ウルティマが復活してしまう、可能性は……?」
そんなアイーシャさんの危惧も分かる。
「その場合は、『女体化』させて私の支配下に置くから、大丈夫だよ。
ここまで弱体化したのなら、私からの干渉も受け付けると思う。
そもそも、この人はウルティマに吸収されただけの、別の誰かという可能性もあるし……」
だからこそ助けたいというのもあった。
「そういうことならば……」
アイーシャさんは納得してくれたようで、治療作業を始めてくれた。
ただ、ウルティマの復活の可能性も考えて、いきなり動き出すことがないように少しずつ……だ。
黒焦げだった皮膚が剥がれ、下から新しい皮膚と肉が再生していく。
先程までは性別も分からなかったけれど、この体型からして女性かな……。
かなり胸が大きく見える。
それなら「女体化」の必要は無い。
そしてこの人はやっぱり、ウルティマ本人ではないようだ。
「アイーシャさん、治療を急いでも大丈夫みたいです。
一応拘束はしておくので、安心してどうぞ」
「はい、分かりました」
アイーシャさんは、更に上級の回復魔法を使った。
すると焦げた皮膚は完全に剥がれ、燃え尽きていた髪も生え替わる。
これは……すっごい美女だ。
真っ白い髪だけど、年老いている訳ではなく、10代後半の年齢に見える。
肌も白いし、元々色素が薄いのかもしれない。
「う……」
その女性が呻く。
苦しげな声ですら、綺麗だ……。
この人は一体、ウルティマとどんな関係があるのだろうか……?
「こ、ここは……?」
「気がつきましたか!?
あなたは、自分の名前は分かりますか?」
「私は……ウルティマ……」
「え……?」
ウルティマと同じ名前!?
じゃあこの人は、ウルティマの分身ってこと!?
しかし彼女の次の言葉が、私達を驚愕させる。
「そう……私はこの世界を司る女神ウルティマです」
女神!?
ウルティマが女神!?
なんでっ!?
「えええぇ……?」
衝撃の告白に、私は思わず唸るような声をあげた。
その後、女神ウルティマから詳しい話を聞くと、彼女はこの世界を管理する立場だったそうだ。
彼女の手腕によって、世界は平和裏に治められていた。
ところがある時世界に、異分子が入り込んだ。
それはどこかの異世界から転生してきた、転生者の男だったらしい。
その男は当初、転生の際に得た特殊なスキルを活かし、世界の為に働いていた。
しかしいつしか彼は驕り高ぶり、自身の欲望のままに振る舞うようになる。
そう、彼は世界の敵に、なってしまったのだ。
そんな彼を、女神ウルティマは止めようとした。
しかしその結果、彼女は逆に取り込まれてしまい、更なる力を彼に与えることになってしまう。
魔王ウルティマの誕生である。
彼女はウルティマの中で、彼の悪逆非道な行いを見続けてきた。
だけど彼の一部となって力を奪われてしまった彼女には、どうすることもできない。
ところがウルティマが私との戦いで弱体化したのを切っ掛けに、彼女は少しだけ力を取り戻し、彼からの分離を試みる。
ウルティマはそんな彼女を邪魔だと感じ、身代わりとして彼女を解放した。
……それが今目の前にいる、女神ウルティマという訳だ。
「ありがとう……。
あなたのおかげで、私は解放されました。
これで天界へ帰ることができます」
「そうですか……。
あ、あいつの分身が他に残っているとか、まだどこかに世界を危機に陥れるような罠が仕掛けられているとか、そういうことはありますか?」
この女神ウルティマなら、その辺の情報も知っているはずだ。
「それについては問題無いでしょう。
彼は慎重なところはありますが、自身の力を過信してもいました。
だからこそ敗北する可能性を考えずにあなたの前に現れ、そして万が一の対策を用意するようなことはなかったのです」
確かに慎重なあいつがシルルの前に現れたのは、絶対に勝てると確信していたからこそだろう。
「なるほど……。
安心しました」
まあ、この女神様が嘘を言っているのなら別だけど、彼女はさっきから私の方へ熱い視線を送ってきているので、間違い無く『百合』が効いている。
……え、神様なのに?
でも『百合』が効いているのならば、私を騙すような真似はしないはずだ。
「それでは……私はひとまず天界へ戻ります。
あなた達には、後日何かお礼をしたいと思いますので、その時までお待ちください」
と、女神ウルティマは全身から淡い光を放ちながら、天へと昇っていった。
実に神秘的な光景だ。
しかし──、
「あら……?」
20mほど昇ったところで、ウルティマの身体は止まり、光も失われていく。
どうやら天界へ帰れないようだ。
「これはどういうことなんです……?」
ウルティマは困惑している。
そして何者かと「念話」を始めた。
「え……既に後任がいるから、私の席は無い?
それに能力を奪われて、邪悪な人間に力を与えてしまったのは大失態!?
暫く下界で反省しろ!?」
あ……なんだか世知辛い話をしているぞ……?
「そ……そんな……」
ウルティマはショックを受けたのか、脱力してヒラヒラと枯れ葉のように地面へ落ちてきた。
そして──、
「なんでよおぉぉぉぉぉ──っ!?」
号泣を始める。
これは……女神は女神でも、駄女神というやつでは……?。
いずれにしても、ちょっと可哀想だったので、
「あの……行くところが無いのなら、うちに来ます?」
と、誘ってみる。
するとウルティマは、泣き顔を更にくしゃくしゃにして、
「ありがとぉぉぉぉぉぉぉ──っっっっ!!」
と、私に抱きついて来た。
うん、間違い無く駄女神だ、これ。
後任=『百合』を作った某女神。




