14 待機中
前回よりもちょっと時間が戻ります。
各国の重鎮が集まって開催される会議の直前──私はなにやら嫌な予感を覚えていた。
このままだと私達は、大敗をきっするのではないか──と。
たぶん「直感」のスキルが働いたのだと思う。
だから私は、更なる慎重策をとることにした。
「へ~……私ってこんなところに、ホクロがあったんだ……」
と、私はペタリと、自分の分身であるシルルのお尻を触った。
「ひゃっ!?
何してるの!?」
「へへ……」
今私は、自分が着ていた服を脱いで、シルルに着せているところだ。
これから彼女には、私の影武者として会議に参加してもらおうと思っている。
彼女は魔界にいたので、眷属の中でもあまり存在を知られていないし丁度いい。
まあ、『百合』の有無があるので、女性の知り合いなら私ではないと見抜くかもしれないけれど、男達ならまず分からないだろう。
「じゃあ、お願いね」
「うん、マルルは眷属を統率するのが仕事だから、表に出るのは私に任せて」
「頼りにしているよ」
実際、眷属の力を借りない状態ならば、今やシルルの方が強い。
まず「鑑定」のスキルが使える。
彼女は元々あったステータスを見る能力を鍛えて、スキルとして確立するまでに至った。
これを駆使すれば、敵が誰かに化けて接近してきても、看破することができる。
これで会議におかしな者が紛れ込んでも、いち早く気づく事ができるはずだ。
まあ、そんなシルルの能力は私もコピーして使えるけれど、私には真似できないものもある。
それはギフトの力だ。
彼女に私の『百合』は、継承されなかった。
だから私は、新たにギフトを授ける儀式を彼女に行ったのだが、その結果彼女が得たギフトは──、
「この『勇者』の名に懸けて、全力を尽くすよ」
そう、『勇者』だ。
おそらくシルルは、ウルティマとの戦いを宿命づけられている。
ギフトによって、私よりも近接戦闘の能力が大幅に上昇したのも、意味があるはずだ。
そんな訳で私は、表のことはシルルに任せた。
彼女とは元々同じ人間なので、「意識共有」というスキルにょってある程度離れていても、彼女が見聞きしたことは分かるし、指示も出せる。
なんなら自分自身のように、シルルとして行動することさえも──。
そして私本人は、会場のはるか上空で「完全隠蔽」を使って身を隠し、周辺の監視に集中する。
さすがに邪教徒によるテロは予想外だったけれど、ウルティマの接近にはいち早く気付くことができた。
『今度はウルティマが現れた!!』
私は眷属達に警告を出し、迎撃の準備を整える。
しかしその時、シルルの気配が途絶えた。
何事!?
まさか拉致されたの!?
でも、そんなことは、普通の人間にできるとは思えない。
あえて私の分身を狙うだなんて、ウルティマの関係者しか考えられないのだけど……!?
まさか──。
私は現れたウルティマに対して、「鑑定」を使う。
まだ不完全なスキルだけど、何かしらの情報は得られるはずだ。
すると、名前だけは見ることはできた。
その名前は「触手」──。
やはりウルティマの本体じゃないっぽい!!
じゃあシルルは、ウルティマの本体に攫われた?
でも、何処に攫われたのか場所が分からないので、私の方から助けにはいけない。
だけどシルルの方からは、私を呼び出す手段はある。
ならば呼び出される前に、あの触手を片付けないと──!!
『みんな、あいつはウルティマの本体じゃないから、さっさと片付けちゃって!!』
まあ、あれがウルティマの本体ではないのならば、カプリちゃんだけでもどうとでもなるだろう。
実際、触手を倒すまでには、そんなに時間はかからなかった。
そして私は──お、来た来た。
以前エルザ様から貰った携帯電話的な魔道具に、反応があった。
この巻き貝みたいな道具には、使用者の魔力をチャージして、どんなに遠くでも声を届ける機能がある。
これはシルルも持っていた。
『ウルティマに襲われているから、マルルを呼び出すよ!
ただ、あいつにばれないように道具を隠しているから、こっそりね!』
シルルからの、短い言伝が入る。
やっぱりウルティマに、攫われていたのか。
だけどシルルも持っているこの携帯電話的な魔道具には、もう一つの機能がある。
チャージしてあった魔力を使って、通話相手を呼び寄せることだ。
しかもチャージしてある魔力の量によっては、大陸間の移動すらも可能だという。
これならば場所が分からなくても、シルルと合流できる。
暫くして、魔道具の転移機能が発動しそうになったので──、
『みんな、「完全隠蔽」状態で待機していて!』
そう言い残した直後、私は見ず知らずの土地へと運ばれた。
シルルは……まだ戦っているな?
よし、今の内に「眷属召喚」でみんなを呼び寄せるよ。
今のシルルでも勝てないような相手なら、私でも「眷属の力」を使わないと無理だからね。
だけどウルティマには感づかれないように、そーっとそーっと……。
みんなが集合した時、それがウルティマの最後の時だ!
明日は用事があるので、更新は休みます。




