13 本 命
「聖なる剣」──。
魔力で作り上げたその剣は、ウルティマの鎌をも斬り裂いた。
「何……!?」
ウルティマの顔に、驚きの表情が浮かぶ。
初めて彼の余裕が崩れた。
ただそれでも、彼の身体を狙った斬撃は、回避されている。
やはり身体能力は、あっちの方が上か。
「──っ!!」
しかもウルティマは、攻撃の手を緩めない。
私の背後から、無数の触手が襲いかかってきた。
だけどそれは私の剣術で、バラバラに斬り裂く。
「その剣技……情報には無いな。
一流の剣士に匹敵する」
ウルティマによる、賞賛にも似た言葉──。
でもそれは、私のことをまだ舐めているからこそだろう。
実際彼は、触手を全部斬り落とされて両腕が失われた状態なのに、特に問題には感じていないようだった。
そして──、
「生えた……!」
ウルティマの両腕が再生する。
いや、私だって「無限再生」があるからできるよ?
でもさすがに、彼のようにものの1~2秒では、腕は生やせない。
「だが、近接戦闘が多少できたところで、俺に勝てると思い上がるのは早いぞ?」
ウルティマは、素手で殴りかかってきた。
速い!
……が、「英雄の盾」での自動防御は追いつく範囲だ。
「えっ……!?
がっ!!」
しかしウルティマの一撃で、盾が薄氷のように砕かれる。
残り3枚の盾がフォローするが、それらも簡単に破壊され、彼の拳は私の左肩に直撃した。
凄まじい衝撃が私の全身を襲い、私は何百mと吹き飛ばされて岩山に突っ込んだ。
「ぐ……くぅ……!!」
痛い……!!
私の耐久力なら、岩山に突っ込んだくらいでは致命傷にはならないけど、ウルティマの攻撃が直撃した左肩は駄目だ。
肉が弾け飛んで、粉々に砕けた骨が外に飛び出してすらいる。
ここまでグチャグチャだと、回復するのはかなり時間がかかるだろうな……。
いっそ左肩から切断して、新たに腕を生やした方が早いかもしれないけれど、それだと大出血で弱体化は避けられないし……。
いずれにしても、いつまでも寝てはいられない。
ウルティマによる次の攻撃が来る!!
彼は高速で縦回転しながら、踵を落としてきた。
直撃すれば、私はトマトのように潰されるだろう。
私はそれを回避しつつ──、
「行けっ!
『千刃』っ!!」
数え切れないほど無数に生み出された「聖なる剣」が、四方八方からウルティマに襲いかかる。
これなら回避する隙間すらない。
さすがに全身を斬り刻まれれば、回復には多少時間がかかるはずだ。
あるいは防御に徹するだけでも、私が体勢を立て直す時間は稼げる。
しかし剣がその身体に届こうとした時、ウルティマの魔力が膨れ上がった。
「──っ!!」
ウルティマが全身から放出した膨大な魔力は、剣達を尽く吹き飛ばし、そして私をも飲み込む。
さっき殴られた時ほどではないけど、再び凄まじい衝撃が私の身体を駆け抜ける。
気がつくと私は、背中を地面に付けていた。
起き上がろうとすると、全身に激痛が走る。
あ……ヤバイ。
さすがにこれは、もう戦えないかも……。
起き上がれない私に、ウルティマがゆっくりと歩み寄ってくる。
「くっ……その強さ、反則だよ……!」
「そういう貴様は、小娘にしてはよくやったぞ?
久しぶりに楽しめる程度にはな」
むう……結局私では、ウルティマから余裕を完全に奪うことはできなかったか……。
でも、できるだけ情報は得ておこう。
「そんなに強くなって……一体何が目的なのさ?」
「目的など、あるものか」
「……は?」
「俺が好き勝手に生きる為に、力が必要だっただけだ。
そして自由に生きていたら、自然と強くなった」
それって言い換えれば、自身の欲望を満たす為に、他者から奪い続けてきた結果がその力の源だと言うことだ。
そんなことで、多くの命を奪い、世界を危機に陥れたというの……!?
「最低……っ!」
「ふん……なんと言おうが、負ければすべてを失うのは世の理。
それは貴様も例外ではない……!!」
ウルティマの腕から、再び触手が生える。
待って、それで私を吸収する気!?
「ちょっ、やめて……!!」
触手が私に迫ってくる。
転移は……やっぱり阻害されているようで、逃げることもできない。
触手の先端が開いて、口が顕わになった。
「ひっ……!!」
こ、このままじゃ、食べられてしまう……。
い、嫌だっ!!
助けて!
「助けて、マルルっ!!」
「何!?」
私が叫んだ瞬間、触手が切断された。
良かった、本命の仕掛けが間に合った!!
「大丈夫、シルルっ!?」
この私が呼び寄せた、本命が!!
ブックマーク・☆での評価・いいね・感想をありがとうございました!




